DEATH TRAP / デストラップ
サンライズプロモーション東京
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2017/07/07 (金) ~ 2017/07/23 (日)公演終了
満足度★★
この原戯曲はミステリ劇としては著名な作品で、日本でもすでに上演された。再演で新味を出そうとしたのか、喜劇調、というよりドタバタ劇の面白さを取り入れようと試みたのだろうが、それがうまくいっていない。何も原作通りにやれと言っているのではないが、チグハグで、役者のファン以外はしらけてみているほかはない出来になった。その役者オチもほとんど楽屋オチで、ドラマには関係ない。せっかく緊密な構成の原作をやるのだから、それを生かしたうえで何かをやるのならわかるが、これでは原作へのリスペクトもなければ、普通の観客を楽しませようともしない。例によって、ジャニーズ系の俳優も出ているが生かされていない。高岡早紀も生気がない。愛之助もどこが芝居の落としどころか迷っている。佐藤仁美も、もう少し相手役との絡みの面白さを出さねば。ファンへの顔見世の一幕だ。
OTHER DESERT CITIES
梅田芸術劇場
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2017/07/06 (木) ~ 2017/07/26 (水)公演終了
満足度★★★★
中嶋しゅうさんの御不幸は心からお悔やみ申し上げる。舞台で亡くなるのは役者の本望とは言うけれどそれは建前で、ご本人も残念なことだったろう。ことに中嶋さんは中年になってからがよくプロデュース公演の「新劇」には欠かせない俳優だった。個人的に印象に強く残っているのは舞台ではなく、映画の新しい版の「日本の一番長い日」で演じた東条英機で、今までどこか及び腰だったこの人物を正面から国民などなんとも思っていない栄達志向の軍人として演じて、一シーンだけで納得させたのは見事だった。そのリリーフは斉藤孝。演劇界では北海道地元演劇の出身者として知られているが、少し若すぎるし、中嶋さんとは感じが違いすぎる。初日は一幕しかやっていないのだから、本日初めての通し初日。これが、意外に、と言ったら失礼だが、中嶋さんとは多分大きく違う父親像としてまとまっていて大収穫。出演者五人、二時間半殆ど出ずっぱりなのだが、台詞も気が付くようなミスはなく、わずか四日にしては上出来だ。相手の母親役の佐藤オリエが、稽古のやりすぎか、いつもはよく聞こえる台詞が聞きにくかったくらいだ。
芝居そのものは、なんでいつもこうなるの、と言うアメリカ現代演劇の家庭内輪物で、かつては暖かいホームドラマだった世界を自虐的に崩壊させてみせる。女優陣が、オリエに加えて麻美れい、寺島しのぶと来れば、もう名優名演競演で、並の演出家では御しきれなかっただろうが、これも、意外に若い演出家の熊林弘高がおさえるべきところは抑え、少しはやりたいようにやらせて、抽象舞台できれいにまとめている。満席の大入り。
RENT
東宝
シアタークリエ(東京都)
2017/07/02 (日) ~ 2017/08/06 (日)公演終了
満足度★★★★
この作品が初めて紹介されたときは作者が初日の前にエイズで亡くなったということが広報されて、その影響か全体に暗く、救いのない調子の舞台だった。時代を経て、今は、あの80年代を懐かしむ調子である。街中に放置された倉庫跡に集った青春、と言うネタば、日本の小劇場初期もよくやったものだ。そのままの染色工場の後もあったし。彼らが放逐されていき、それぞれが大人の生活を求めてと言うところもよくある青春ものの結末で、一人くらいはなくなって、一人は瀕死の中から生き返る。誰がそうなってもいいのだがそれらが青春回顧にうまくまとまって、今回はいわゆるミューカルスターは出ていないがよくまとまって甘酸っぱく見られる。お客の方はこれから伸びそうな役者を見つける愉しみもある。振り付けがシャレていると思ったらやはり輸入だった。動きがもう少し切れると良いのだが、歌の方はまずまずで、今までのレントの中では一番安心して見られたのではないだろうか。
ただいま おかえり
東京タンバリン
小劇場B1(東京都)
2017/06/29 (木) ~ 2017/07/03 (月)公演終了
満足度★★★★
小劇場の劇団は一度は家族の「通夜物」をやる。身近でやりやすい(作りやすい)のだろうが、なんだか小劇場の人々の家庭事情を見せてもらっているような気分になる。タンバリンは中流家庭の、郊外に別宅(別荘と言うほどでもない)を持つほどの家庭のご主人がなくなっての「通夜」ではないが、「その後」もの。この劇団も長くなって、小劇場の技術には長けてきて、すらすらみられ、初夏の夜を過ごすにはいいのだが、だからどうだ、と言う小劇場の生きのよさはない。バランスはいいのだが、これからも見たいという役者もいない。こういう安定はどこは行くのだろう。作者が老後を気遣うのも解るような気がする。
『部屋に流れる時間の旅』東京公演
チェルフィッチュ
シアタートラム(東京都)
2017/06/16 (金) ~ 2017/06/25 (日)公演終了
満足度★★★★★
三月の五日間に続く「三月の四日間」である。前作は性を持て余す若者のしょうもない日常が世界につながっていく傑作だったが、今回は若い夫婦の内面的の心情を描いて、しかも、現在の世相に強くアピールする力もある傑作である。東北震災の前後を、これほど静かに若者の心象風景で活写した作品はない。今は亡き妻が語る日常生活の一コマ一コマに溢れる詩情豊かなセリフの素晴らしさ、それが全く生活から浮いていないところがいい。トラムは満席。立ち見がぐるりと客席を囲んでいたが、後半は平凡な表現で申し訳ないが、水をうったような静謐な感動が客席と舞台にあふれて、たまにはこんなこともあると芝居見物の冥利を堪能した。
「電車は血で走る」「無休電車」(本日6/24 14時電車・19時無休電車 当日券ございます)
劇団鹿殺し
本多劇場(東京都)
2017/06/02 (金) ~ 2017/06/18 (日)公演終了
満足度★★★
「電車は血で走る」
このところすっかり東京ではかげをひそめた全力疾走、血と汗の小劇場である。
ご苦労さまで済ませては悪いような気がするが、やはり、こういうスタイルは新感線が完成させて360度劇場で君臨している現状を見れば、懐メロになってしまう。新感線のような役者の多彩さもないのが残念だ。いろいろ手は混んでいるのに単調に見えてしまうのも損をしている。
蜘蛛女のキス
東京グローブ座
東京グローブ座(東京都)
2017/05/27 (土) ~ 2017/06/18 (日)公演終了
満足度★★★★
この作品は戯曲版と、ミュージカル版があるが、原作に近い戯曲版が要を得ている。かつて見たベニサンの舞台は元倉庫と言う場所もよく劇場の大きさともちょうどよく見あっていい舞台だった。その時もジャニーズの岡本健一だったと記憶しているが、今度もジャニーズの大倉忠義。こちらは芝居の経験が少ないというだけに岡本のような複雑な性的嗜好はだせず、また劇場もツルンと大きいグローブなのでスター顔見世のエンタメ性が強い。鈴木裕美の演出は例によって細かく終盤はしっかりと締めている。渡辺いっけいは次第に大蔵に心を寄せていくと女らしくなっていくところがうまい。
それはそうとして、今日の観客には驚いた。一階席で見渡したところ、関係者、記者らしい数人を除いて男性客は三人であとはすべてアラサーの女性客。彼女たちは当然ご贔屓の役者の初奮闘を見に来ているのだから、案の定、芝居の壺は外していて、板の上はさぞやりにくかっただろう。
ドグラ・マグラ
演劇企画集団THE・ガジラ
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2017/06/04 (日) ~ 2017/06/12 (月)公演終了
満足度★★★★
原作小説でシュールな作品を、より「具体的」な演劇にするのは難しい。字で読む想像力と、俳優によって見せられる世界の落差とでも言おうか。この小説はもともと人間の想像力について疑義を呈しているので、さらに難しい。鐘下脚本は原作の「名せりふ」?を生かしながら、その分明ならざる世界を、若い俳優たちを抽象的な舞台で演出する。その自信たっぷりな展開に引き込まれてしまうが、結局は、とても二時間では読めない原作を、久しぶりに引っ張り出してぱらぱらとめくった感じである。それを良しとするか、苦痛と感じるかは、観客それぞれの「脳髄」による。
少女ミウ
森崎事務所M&Oplays
ザ・スズナリ(東京都)
2017/05/21 (日) ~ 2017/06/04 (日)公演終了
満足度★★★★
岩松了・作演出でいかにも「現代劇」らしい舞台である。スズナリながら、プロセニアム舞台の味でテレビの人気俳優を使い、東北震災後の社会の空気を少女ミウに象徴させて舞台は進んでいく。震災避難地域にある家の晩餐と、それを外側から見るテレビ局を交錯させる手法で、話は面白おかしく、しかもいつもの若松らしい皮肉も十分に効いて進む。今の震災後に対する空気がよく描かれているが、さて、楽しいかと言われると、答えに困る。やはり観客の中でも風化は進んでいるのだ。
テレビ局を鏡にする構造は、今年も永井愛の新作で使われていたが、現在のテレビ局はメディアとしては弱体化しているので喜劇的以外のパンチがきかない。今回もテレビの好きな話題作りで進むが、これはあまり成功していない。
むしろ久しぶりに見た新劇の伝統を継ぐ現代劇がよく稽古されて上演されたのを多としたい
木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談ー通し上演ー』
木ノ下歌舞伎
あうるすぽっと(東京都)
2017/05/26 (金) ~ 2017/05/31 (水)公演終了
満足度★★★★★
昼から夜まで6時間と5分、たっぷり四谷怪談を楽しんだ。日本の古典戯曲がこのように現代の劇場で今ここで生きている人たちの手で今の演劇として上演されるのは大きな喜びだ。蜷川の近松心中に劣らない舞台成果で、ここまで新しいスタイルで古典戯曲をかみ砕いたというだけで、すごい。今年の演劇の評価の一つになるだろう。
古典の宿命で、ネタバレで気付いたこともあるが、多分そんなことは制作側は先刻ご承知と思う。まだやることはある。これが最終形などと言わず、今後も時にこの場に戻ってこの舞台を又見せてください。
爪の灯
演劇集団円
シアターX(東京都)
2017/05/19 (金) ~ 2017/05/28 (日)公演終了
満足度★★★★
地方在住の作家の誠実な小品で、好感を持って持ってみた。この女性作家は確か神戸の小劇場のリーダーで90年代後半には東京でも公演を打ったと記憶している。その演劇少女が結婚して岡山でこういう芝居をコツコツ書いているかと思うと、ある種の感動がある。時に地方(と言っても過疎に近い)に行くとこういう生活があるだろうな、と想像させられることは多い。だからどうだ、と言うのは都会人の驕りだろう。円も、新劇稀の美少女だった高林由紀子、嘱望された青年・大谷朗が中老の役で出ていて彼らにもある種の感慨がある。精一杯真面目に人生と取り組んでいる、と言う芝居と妙にダブるのである。芝居の中身は置いておいて、という最近稀な観劇体験だった。
クヒオ大佐の妻
ヴィレッヂ
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2017/05/19 (金) ~ 2017/06/11 (日)公演終了
満足度★★★
作者の吉田大八がシアターガイドで言っているように「こんな面白い話をどうして誰もやらないんだ!」と言う実話。外人パイロットをよそおった稀代の結婚詐欺師の話である。誰もが「嘘だろう!」というはなしにコロコロと女は騙される。だが、現実離れしたシュールな実話に落とし穴がある。やってみると、作者や宮沢りえ、川面千晶の大奮闘にもかかわらず、少しは笑えるが、本質的にホラの面白さがない。最後に国旗が出てきてはなににかいわんや、である。作者も書き始めて少し焦ったんじゃないかな。後半ことに乱れた。しかし、前の本谷有紀子の「ぬるい毒」は悪くなかった。今回は焦ってひねりすぎたか、肝心の曲球のセリフが耳に届かない
パレード
ホリプロ
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2017/05/18 (木) ~ 2017/06/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
100年前のアメリカの南部の冤罪事件を素材にしたミュージカル。と聞いただけで、今どきなんで? と思ったものだが、これがなかなか。最近のロックの犯罪ミュージカルではなく、歌詞に曲がついている(笑)正当なミュージカルスタッフの座組みがよく、ここの所、瞠目するミュージカルがなかった中では出色の出来だ。まず、キャスト。公共劇場との提携で充実している。岡本健一など役不足だろうが、やはりここに岡本がいるのがいい。流石、、齢を感じさせない石丸、堀内。さらにミュージカルを構成する各スタッフの力量をうまくまとめた。大木一本の裸舞台だがここに五色の雪を降らせる趣向は秀逸。ホリゾントの色もたまに変わるのが効果的、部分で使った斜めの照明もいい。これで舞台転換に時間がかからず、テンポもリズムも出て音楽が生きた。衣裳も少女の衣装で一本勝負。オケも台詞との絡みが多いのに、見事なものだ。コーラスの振り付けも無理していないところがいい。すべてをまとめきった新劇団出身の森新太郎に拍手。これで既成の、四季,東宝、ホリプロ、松竹いがいの新しいミュージカルの舞台を楽しめるだろう(これはホリプロも噛んでいるが、これで森の使い方もうまくなるだろう)
企画としては大衆迎合の最近の世相への時宜を得たもの、と言うことだろうが、それは少し買い被りで、今はアメリカでもやっていない旧作をよく掘り出して夫婦愛のミュージカルにして面白く仕上げたことを評価すべきだろう。
天の敵
イキウメ
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2017/05/16 (火) ~ 2017/06/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
2時間十五分。奇想天外の話なのに、リアリティもあって飽きない。内容は、すべて、ネタバレになりそうなので書けないので、総評になるが、いつも通り、作者の論理の展開が面白い。非常にうまく最近の健康ブームを取り上げていてそこもうまい。この劇団の俳優も随分うまくなった。村岡もうまくハマって浮いていない。イキウメ、チョコレートケーキ、モダンスイマーズなどの俳優が、ひとつ前のケラ、野田、松尾、三谷の舞台でおなじみだった俳優と対抗できるようになっているのは大いに頼もしい。彼らには「現代」が生きている。スター的な新感線の役者も必要だが、いい舞台を支えるのはこういう何でもできる俳優陣だ。少し辛口を言えば、前川はこういうものは自分の劇団でもう軽々と書けるしボロも出さないのだから、次の大劇場プロデュース作品「プレイヤー」はぜひ大成功してほしい。観客も先に上げた作者に次ぐ大劇場を背負える作者を待望しているのだから。
十二人の怒れる男たち
俳優座劇場
俳優座劇場(東京都)
2017/05/17 (水) ~ 2017/05/21 (日)公演終了
満足度★★★★
テレビに始まり映画にもなった裁判劇の演劇版。テレビはナマ時代とあって、見ることはできないが、映画から想像する限り、この作品は書かれてからほぼ60年メディアによってそれほど変わっていないようだ。それでも上演が続くのは、社会劇としては珍しい。古典的傑作と言われるゆえんであろう。しかし、この作品は陪審員室一室の中に現在の民主主義社会の様々な問題を、縮図化したようなところがあり、時代の焦点によって、作る側も見る側も変わってくる。例えば、冤罪事件が多かった前世紀中葉なら裁判制度への批判が注目されただろうが、今は、こういう制度しかない現代社会に生きる市民の不安が焦点になる。
この公苑は、昔の新劇各劇団出身者によるプロデュース公演で、良くも悪くもその特徴が出た。いい点を挙げれば、台詞がよく聞こえる事。(劇場のせいもあるが)しかし、演技となるとこれはいささかでも今の観客に訴えようとしているならかつての新劇の惰性に頼っていると言われても仕方がない。今生きている人間の息吹がまるで感じられず、外国人のフリによる吹き替え演劇のようだ。それでも原作はよく出来ているので、昔の演劇として楽しめるが、この作品のキモである現代にも通じる市民生活のルールに潜む問題は全然伝わってこない。今上演するなら、そこだろう。
大劇団であった俳優座が、こういう古典的テキストを取り上げて再演するのは意味のある面白い企画と思うが、テキストをかつての再現に終わらせては折角の努力もむなしいのではないか。
60'sエレジー
劇団チョコレートケーキ
サンモールスタジオ(東京都)
2017/05/03 (水) ~ 2017/05/21 (日)公演終了
満足度★★★★★
快作。今年前半の演劇では白眉だろう。ほめる人は多いだろうから少し視点を変えて。
1)方言指導(ダイアローグコーチ?)がよく俳優と共に頑張った。最近の小劇場の作者は台詞の言い方にはあまり頓着しないが、それは舞台のリアリティの基本である。佐藤が現れ最初のセリフを言った瞬間、舞台にリアリティが生まれた。家族兄弟の会話、従業員との会話は、いささか同時代を生き東京を知っている私はもう少し頑張れと言いたいが、ここまでやった青年座の女優さん?(文芸部?)に金賞だ。
2)演出が狭い舞台をよくさばいた。出入りなどこれしかない平面なのに立体的に見える。日澤演出は今度は銀河をやるようだが、大きな劇場でも、また少し大衆的なテイストの作品でも挑戦してほしい。ミュージカルをやるなら、ダンスに新しい工夫を切望する。美術も悪くはないが、小道具などはもう少し考えてほしい。
3)一見、三丁目の夕日のように見えるが、ぜーんぜーん違う。私は同時代に働き出したが、オリンピックそのものには世間はそれほど萌えなかった。なにかうすら寒い感じがあって、そこもこの芝居は人情もからめてうまくとらえていたと思う。
4)俳優もよく頑張っていて好演だが、華がない。一度、この芝居を三越劇場あたりで、西尾佐藤の他は松竹仕込でやってみるといい、というのは冗談のようだが、この芝居は、私の世代が久保田万太郎の「大寺学校」を見るような風俗劇の古典になる素地があるが、そういうところをくぐれれば、ということだ。。
空と雲とバラバラの奥さま
クロムモリブデン
吉祥寺シアター(東京都)
2017/04/20 (木) ~ 2017/04/30 (日)公演終了
満足度★★★★
独特のカラーのある劇団だ。かつて、赤坂で見たことがる。ファンのような熱心な観客ではないが、ユニークな芝居の論理が面白かった。今回もそこは変わっていなくて、家族をバラバラにしてみせる。論理の展開が笑えるが、さらにその先にある世界がよくわからない。観客の腑に落ちない。かつて見た作品ではそこはうまくいていたようにも思うのだが。音楽やセットはよく出来ているし、舞台の裁きもシャレていて泥臭くない。関西の劇団と思っていたがいつのまにか東京の劇団になっている。プロでユース公園にかき回されている現状では劇団のカラーを維持するだけでも難しいのによくやっている。
罠々
悪い芝居
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2017/04/18 (火) ~ 2017/04/23 (日)公演終了
満足度★★★★
関西の劇団らしい世俗性とツッパリがあって、東京の劇団にはない元気がある。しかし、内容は80年代演劇ではやった自分探しだ。17年前が強調されるのは世紀の変わり目と言うことだろうが、若い人たちにとってはその後の20年は確かに閉塞状況に感じられたのだろう。テレビ番組にいいようにされた芸人コンビとか、男女関係、都市論などがちりばめられて舞台は進むが内容に新味がないので、ダンス風の演出、映像の工夫、白の衣装などで引っ張っていこうとする。それに飽きたころには終わるので、見ている間は確かに面白く見られたが、もっとフレシュな現代の青春ものが観たい。
フェードル
パソナグループ
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2017/04/08 (土) ~ 2017/04/30 (日)公演終了
満足度★★★★
フランスの古典演劇として名高いが、あまり上演されない。いい機会と思って見に行ったらこれがフランス演劇らしいセリフを立てた本格上演。演出の栗山さんはこのジャンルよくご承知のようで、見事に押し切っている。フランス語だったらもっとリズム感もあるのだろうが翻訳しているので言葉の音で動かされることがないのが残念。それは勧進帳をフランス語で向こうで見せるようなものだから仕方がない。変な日本現代化よりはいいが、シェイクスピアがいじりやすいのに比べるとやはり硬いというべきか。
紳士のための愛と殺人の手引き
東宝
日生劇場(東京都)
2017/04/08 (土) ~ 2017/04/30 (日)公演終了
満足度★★★★
久しぶりにアメリカのミュージカルらしい能天気な娯楽作を見た。この作品が一昨年のトニー賞ベストミュジカルということは、きっと、アメリカでも犯罪がらみや殺人絡みの深刻な暗いロック音楽の告発型ミュージカルには観客もうんざりしていたのだろう。
欧州の元貴族が出てくるのも、相続問題で大騒ぎになるのも、お決まりのアメリカ風でその愛すべき無邪気さを思い出させてくれた。ここはもう、市村の七変化や女優陣のイット(古いね)を楽しめばいい。ダブルキャストで私の見た柿澤も、声も歌もいい。俳優陣も楽しんでいる。もともとはもう少し小さい劇場でやっていたものらしく、日生劇場は広すぎた。演出は日本でやり直したのなら、その辺は少し配慮があってもよかったか、とは思う。(いまはユーチューブで現地のトレーラーが観られる)