
1
クレマチスの小屋
劇団大樹
ストーリーはスローペースで
珈琲や紅茶をゆっくり咀嚼するように、時には焼き菓子を咀嚼するように、その過程が何とも味わい深く、豊潤な時間が流れていました(アコーディオンの生BGM付き)
劇団30周年公演で且つ最終公演
これで最後。というのは寂しい限りですが、大樹をシンボルとしたセット、原作としっかりタッグを組んだ独自の世界観は完成形の域
この空間を超満員の熱気と共に共有できたことに感謝。

2
貴子はそれを愛と呼ぶ
株式会社テッコウショ
48歳独身女性、堅実ながらどうにもパッとしない現状
どこにでも存在しそうな女性の日常を彼女自身の見識と併せて観進めるカタチになるのだけれど、これが滅茶苦茶面白い!
湧いて出たようなロマンスも大方の検討はついているのに、どうにもならない高揚感をもって見入ってしまう
やっぱり恋愛の威力って凄いね
自分だけでなく会場全体で固唾を飲んでいた様に思う
ヒロインというにはめっちゃ一般人、でもそれが肝になって立派なエンターテイメントになってしまうというのが本当に巧いと思う
イケてる風な元同級生との対比がさり気なく効いているし、職場仲間や家族関連の存在感も間違いなく貢献していて、振り返ればかなりの高等テクニックだったと思うのだけれど、そんな難しい事は抜きにして、ただただ味わい深く面白かったです

3
夏の嘘×2
ここ風
ここ風さんの舞台はストーリーを追うという感覚が不思議と無く、目の前の人物の言動、人柄に見入っていれば自然と物語が出来上がっている感覚に近い
これが心地よいのだと思う
哀しいけれど温かくもあって、ここに登場する人達を愛でるのがとても心地よい
ラストシーンが二つ
30年前のラストシーンと現在のラストシーン
泣かせるというのとはまた違う
どちらも噛みしめるようにじっくりと染み入ってきました

4
パーク
甲斐ファクトリー
主に近所の住民が利用している公園の一角
噂話の場や自己没入の場、いろんな意味で人間観察する絶好の場として舞台は展開
この人達に何か邪悪な事件が・・・というイメージがあったのだけれど、こぼれ出る人間性とちょっとずつ出来上がっていくコミュニティの面白味がコミカルでもあり、どうやらイメージしていた方向性とは違っているよう
でもこっちの方が好みかも
誰もがそれぞれに持っている心の闇、毒の部分がじんわり効いてきて、いい感じに痺れる
哀しみが恐怖に接触するピーク
この人物がまた違ったタイプであったなら来たるエンディングはもっと苦々しいものであったかもしれないけれど、しんみり受け入れられる感じ

5
アルカの板
9-States
観劇前はかなり特殊な気質をもった漁船の町をイメージしていたのだけれど、そんな事はない地方のどこにでもありそうなコミュニティー
存続の危機に直面する中でそれぞれが主張する正義は、裏を返せばその主張が通らなければ自分にとって都合が悪いという事でもあり
それぞれの立場になって考えれば納得できてしまうものだから、そうなると正義の行方が混とんとしてくるのがとても面白く目が離せない
何っその言い方(笑)調子に乗り過ぎだろ(笑)などと沢山笑ったけれど、その笑ってしまう理由にはその人への共感が多分に含まれているので中々に味わい深い笑い
生活が懸かっている登場人物達にとっては深刻なのは当然だけれど、客席からはそれぞれの衝突が広い視野で見えているので何とも興味深く人生勉強になる公演でした
とっても意外な人が「アルカの板」の話しを持ち出したのでビックリ
ミステリーでは「まさかこの人が犯人!」という面白さがあるけど、それに似た「まさかこの人が!」的な驚き
一筋縄ではいかない人の心理も巧く盛り込んでいて、より一層深い話に

6
会想列車
劇団 枕返し
可愛くも怪しげな車掌さんのいる列車
発車前の車内光景を見渡しながら、怪しさは増していくし、どこに向かう列車なのかもまだ分からないのだけれど、何だかデンジャラス込みで楽しそう♪
自分もこの列車に一緒したい・・・から一転、そんな生易しくはなかった、ごめんなさい客席から観ているのが良いです
冒頭から気になっていたレジェンドのアニメキャラが、あぁこんな事に(笑)
どんなにシリアスになろうともクスクス笑いを伴って、これはやっぱり客席から観ているのが良い
人や妖怪たちの背景が深掘りされるほどに物語が絡み広がっていく描き方が巧いなぁと
観劇後恒例の一番良かったと思う役者さんへの応援投票
今回はどの観客も誰にしようか悩ましかったのではないかと思う
ラストだけはクスクス抜きで
なるほどこういうエンディングを迎えたのか、なかなか良いなぁと思ったのは確か
ただ収束力の強さというか、腑に落ちる感というか、うまく言えないのだけれど、もうひとつ(恋愛)ドラマとしての説得力が加われば
更に高い完成度の余地がここにはあるような気がしました

7
時代絵巻AsH 其ノ拾八『蒼穹~そうきゅう~』
時代絵巻 AsH
侵略を受ける日高見国の民のみならず、侵略する側である大和国の人間模様にもしっかりスポットを当て描かれている事
そして大和国の中にも良心ある者が少なくとも存在していたという事で物語にグッと深みが
守るべきものを命懸けで守ろうとした人達の生き様が切なく、それを取り巻く大きな勢力図が美意識高く描かれた時代絵巻
今回も小劇場の枠を完全に飛び越えた壮大さと美学に圧倒されました

8
藤戸
劇団演奏舞台
多くの血を流し我がものにしたトップの座
勝ち得た特権とは裏腹に巣食う苦悩の姿はどこか「マクベス」を彷彿させ、やがては日本特有の情念がどっと押し寄せてきて、もう圧巻でした
怪談にも似た怖さはパンチが効いていましたが、それをドラマチックに彩る音楽、演出のおかげでエンターテイメントとしての余韻が残り、更には劇団さんのおもてなし精神のおかげで気持ちよく劇場をあとにする事ができました

9
通夜もなかばを過ぎて
ゆく道きた道
【鶴組】初日を観劇
ことのはboxさんは過去にも高齢者の役者さんにとても巧い演出をつけられていたので、きっと本作も!と確信していましたが、みごとに的中していました
ずっこけたくなる可笑しくも優しいお話しで、人は死んだらほんとにこんな風なのかも・・・「死別」の悲しみに対してほんのり灯りをともしてくれるような、しみじみ沁みてくる感じの公演
この世界観の中では高齢者の役者さんが(高齢者ではない役者さんも)役になりきって演じていることで、台詞がおぼつかない部分がちょっとくらいあったとしてもノープロブレム
役者さんご自身のキャラクターがちゃんと後押ししてくれているから最強
ちょっと笑ってしまうその後にしみじみと、なかなかに魅力的な公演でした

10
夏砂に描いた
miwa produce。
波打ち際の泡、錆が浮いた停留所の表示板、風に揺れるカーテン、空耳かと思う音色と空・・・様々な情景が浮かんでは消え次の情景に・・・映像のようにイマジネーションを掻き立てられる朗読劇
こんなに胸が苦しくなる直球の恋愛ものに出逢えたのは超久しぶりかも
若い方に響くところはあるに違いないけれど、包括的に味わい尽くす事ができるのは中高年の観客ではないかと
胸がしめつけられる初恋の感覚を今一度呼び起こしてみたい方は是非
絶妙なタイミングで差し込まれる生ギターの音色
ソファー席のみならず、どの座席(自由席)にも飲物を置けるテーブルなり台が用意されており、劇場とはまた違う ゆったりした空間で舞台の世界に没頭できるというのも素晴らしかったです(飲物の注文は任意)