コナンが投票した舞台芸術アワード!

2019年度 1-10位と総評
さようなら

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さようなら

オパンポン創造社

人は健康で定職があって食うに不自由していないのであれば幸せと思わなければいけないのかもしれない・・・しかし幸せと思えないものは思えない。これはどうしようもない事。

そこに暮らす人間描写の鮮やかさに自然と笑ってしまいながらも同時に襲ってくるのは圧倒的な閉塞感。
楽しい事なんてひとつも無く愚痴ばかりが蔓延する生活には、いい加減前向きな気持ちも萎え萎えになってしまうのは容易に想像できるし「こんな狭苦しい地方からは出ていきたい!」と考えてしまう気持ちは自分にも身に覚えがあります。

ただ共感とはまた違う・・・ここまで呆れた人間環境に身を置いたことがないし、自分と似たタイプの登場人物が登場しているわけでもない。
それでもただの傍観者としてニヤニヤしていられないのは、舞台の生々しい世界へと引きずり込んでしまう役者さん達の力量に他ならないと思います。
そして追い打ちをかける様に強く心揺さぶられるのは「こんな現状から抜け出したい」「今の自分からサヨナラしたい」そんな時代を思い起こさせるからかもしれない。

にしてもサヨウナラの手段が、隠し金の横領って・・・絶対間違ってるし(笑)
間違っていても この状況この人達ではさもありなん、もう止まらないし止められないし、あぁもうどうなっても知らね~し(笑)

事が上手くいったかはさておき、兵どもが夢の跡・・・様々な想いが拡散していき、それぞれの人生に思いが巡ります。
とりわけ常々気の毒だと気にかけていた青年の心の内,落ち着く先を見届けたときには、他人の本音は表面を取っ払ってみないと本当に読めないものだなぁと単純ではない個の違いを思い知りました。
つくづく感慨深いです。


大納得のCoRich舞台芸術まつりグランプリ受賞作品。
どんなに書き連ねてもこの公演の素晴らしさを表現しきれなくて非常にもどかしいのですが、う~ん何故に空席が存在するのか?
公演はほんの数日すぐに終わってしまうのに・・・早く、どうにか情報伝達力っ!

殺し屋ジョー

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殺し屋ジョー

劇団俳小

桁違いの衝撃、まるで全身に電流が駆け巡った様。
おかげで終演後、ず~っと痺れた状態から抜ける事ができず困った事になりました。
脚本(翻訳)と演出に演技、さらには美術・音響・照明、もう全ての優れた歯車が見事に合致した公演。その歯車達の回転がもたらす感動たるや!
演劇にハマった人には、きっときっかけとなる作品が存在すると思うのですが、とても言葉では言い表せない、その空間、その時間でしか得られない生々しい感動・・・突き抜けた感動がそこにはありました。

5人の登場人物に命が吹き込まれる序盤、だらしない家庭の中でおぞましい駆け引きの火蓋が切られ、事態がどう転がっていくのかどうにも目が釘付けの前半。
休憩を挟んだ後半、プロが全身全霊で挑む怒涛の展開にもう完全ノックアウト状態です。

暴力的表現が苦手な方には不向きかとも思えますが、そういう自分も暴力は大嫌いですし、もし必要とは思えない暴力的シーンがあれば嫌悪感を抱くでしょう。
しかし人生崖っぷちの人間や殺し屋という特殊な人間をしっかり描き切った作品の前では嫌悪感など全く感じませんでした。


じりじりと、やがて自我が暴発した人間同志のぶつかり合い、生きるか死ぬか渦巻く緊張感。そんなとんでもない処へと心は完全に引きずり込まれてしまい・・・後に残ったのは途方もないカタルシスでした。

かさぶた式部考

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かさぶた式部考

劇団櫂人(解散しました)

これからご覧になられる方は充分体調を整えて観劇される事をお勧めします。
というのも人間が生き抜くという様・・・親子愛・夫婦愛・信仰心・執着心・情欲・・・あぁ数えきれない(汗)をこれでもかと受け止める事になるので。
更に親子愛・夫婦愛・信仰心どれを取っても綺麗ごとでなく(綺麗ごとなど言ってられない)泥臭く本能的なモノを剥き出しに描かれ演じられており、全く容赦がない作品。

男盛りの30歳で精神を病んでしまった豊市に彼の母と妻。
後に神々しく登場する教祖・智修尼。
この4名を中心とした想像を超えた愛憎の図式・・・・のみならず彼等を取り巻く人々の心の救済を求めるその渇望感。

本作では作中に登場する宗教団体に対して、かなり辛辣な視線で描かれているものの、これはひとつの解釈として日本政治の写し絵と受け取って良いのだろうか。
だとすると力弱い国民はその色に染まったまま縋って生きていった方が幸せだろうかと考えさせられます。
意志をもって自身の道を行くのが正しいと分かっていても何とも悩ましい虚無感が広がってくると共に、えーい負けてられるか!と力が漲ってくる作品でありました。

365度人生

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365度人生

張ち切れパンダ

人物描写とその人物達が構築していく人間関係がめったくそ面白い!

観劇前は杓子定規に嘘ツキな女性が描かれているのだろうなと
であれば自分も距離を置いた処で(認識はしているが知人ではない)時々嘘をつく いい年齢の女性の存在を知っているので、そんな雑魚なキャラをどんな風に料理するのかと思っていたのだけれど

自分から見れば主人公 原田七子は全然嘘つき女なんかじゃない!
「嘘つき」というのは大概自分を大きく見せるため嘘をつくのだから。
確かに最初の登場シーンでは「ゲッ!」だったけれども、友人関係・家族関係・会社関係全ての社交関係を通して見えてくる彼女はつい応援したくなってくるほど人間臭くて、豪快で、しょっぱくて、何ならもうTHE人間味の宝庫 原田一家丸ごと大好き!

ただ笑っちゃうくらいに七子さん、性格がガサツ・・・売り言葉に買い言葉 ソレありそ~?含有の家族間の一連、一方 外では人間関係がこじれていくビミョーな経緯が逐一興味深く、時にはニンマリ、時にはヒリヒリ、実に様々な人間模様を見せてくれます。
結局、一般女性七子のめくるめく365度人生「私は嘘ツキで、卑怯で、偽善者で、いい人間だ。」の心の声にも似たキャッチコピーに大きく納得してしまうのでした。

七子を巡る先々を楽しみつつ・・・人との関わり合い、立ち位置って丁寧に考えていかなければ・・・などと思わぬ一石を投じられたような後味。
そして人を一側面だけで判断してはいけないと、ひと教訓。
それは第一印象の七子の事でもあるのだけれど、それだけじゃなく。
主人公だけじゃなく各人物が思い思いに生きて(活きて)いるのがイイ!
人間ってホント怖くて弱くて逞しい、そして面白い!

やけくそ感たっぷりな友人とのカラオケボックスシーン。
思い返せばあの冒頭シーンに至る前1年分くらいの過程も描かれていたかの様な描写力。
あまりに面白かったので、もうあと1年分おかわり欲しいくらいだったけれど、結局また恒例のカラオケボックスとなってしまうのか・・・う~ん、七子達の人生、あと5年分くらいは観てみたい(笑)

この海のそばに

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この海のそばに

えにし

前作「クラゲ図鑑」は警察からの事情聴取というカタチをとり、主宰前田氏と母親との過去を粛々と紐解くように描かれた作品。
そこでは、若くして独り残されてしまった主人公の孤独と、彼を取り巻く歴史の壮絶さにただもう驚くばかりでした。
その後、この公演をきっかけにドキュメント番組「ザ・ノンフィクション」に取り上げられ、局の後押しで前田氏が25年ぶりに故郷の韓国を訪れお世話になった人々や,何と存命しておられた生みの父親と再会するシーンも興味深く拝見することに。
縁があって更に更に深く母親の歴史に向かい合うことになった前田氏はこの取材を通して何を思ったか、今回の「この海のそばに」にはその答えがあるように思えて楽しみにしていました。

本作「この海のそばに」は件のテレビ取材を通したカタチ(取材形態は演劇的に脚色を加えているとは思いますが)で、前半にていま一度、経緯の再現。
前作に比べると落ち着いた目線で主要な事実ひとつひとつを淡々と振り返る感じだったものの、やがて来る運命の日が近づくにつれ詳細な描写へと・・・
何より印象的だったのは現実に対して受け身的な印象だった青年が、取材を受ける本作ではひとまわり大きくなっていたこと。

自分自身を演じられた前田氏はつらい過去を背負い、想像もできないご苦労もされてきたでしょうが、しっかり事実と向き合って人と痛みを共有し、これだけの仲間の協力のもと、その思いの丈を発信できる環境を持てるまでに辿り着いたのは、とても素晴らしいことだと思います。
これ以上の供養はないと思えますし、劇団「えにし」さんの礎的な作品ともなるでしょう。
入場時にはジトジト降っていた外の雨が、終演後カラッと上がっていたのが何とも象徴的でした。

終盤、前田氏が放った渾身の叫び。
このシーンをしっかり観る事ができ、受け取ることができただけでも、もう感無量です。
そして取材者が殺人の動機を「女のプライド」と解釈したのに対して、否「母の深い愛」だと断言した姿勢が忘れられません。
このまま最後まで、ひとつひとつの公演に思いを込めて駆け抜けてほしいです。

酔いどれシューベルト

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酔いどれシューベルト

劇団東京イボンヌ

前回公演も拝見させて頂いた同演目でしたが、目から鱗が落ちるくらいに良くなっていました!
ブラッシュアップにてレベルアップしたというよりも、REBORN(生まれ変わった)ではないかというのが正直な感想。

前回公演が悪かったという意味ではないにしろ、台詞・展開がめちゃ良い感じにフルチェンジ。
分かりやすく且つ面白くなったと言えば簡単なのだけれど、それは同時に全ての役者さん達に活き活きとした演技をもたらし、観る者にそれぞれの考え方の違いや想いが伝わったうえでシューベルトの狂おしいほどのもどかしさを俯瞰で(時には定点で)理解できてしまうのだから味わい深さは格別。

例えばシューベルトの恋敵。
彼の振る舞いは一見嫌な奴に見えても、一人の人間としてちゃんと観ることができるので、決して悪役という括りには収まらない。
笑いも豊富、有益に取り入れられ、登場人物の持ち合わせた人柄から思わず生まれ出る笑いであるのがイイ。
登場人物達の恋愛、自己愛、略奪愛、友愛…沢山の愛が入り乱れて、本来それら全てが刃を向けているわけでは無いのに、シューベルトをどんどん追い込んだり素通りしていく様が何とも切なく心揺さぶられます。

小演劇でもダブルコール。
その確信を持って私も強く拍手していました。
ドラマとしてこんなにも高く飛躍したのであれば、完成度は申し分ない!で全然良いのですが、前回の様に生演奏を取り入れた「音楽」も融合させる必殺技を持っている劇団さんなので際限なく高みを望める演目だとも思えました。


悪魔と天使。
悪魔の囁きは怪しさに満ち、邪悪を隠し持った契約だと分かっていても切羽詰まった者なら絶対に飛びついてしまうであろう吸引力があり、
一方で天使は厳しくも慈愛に満ちた言葉を投げかける。
両者の間で揺れ動き、結局本来の想いが遂げられなかったシューベルトは最期まで渇望に囚われたまま逝ってしまったのだろうか。
否、最後に創り上げた名曲はそれでは生まれる事はなかったであろうと。
荘厳な彼の作曲をバックにしたラストシーンでは、その美しさに思わず鳥肌が立ちました。

私家版 孤島の鬼

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私家版 孤島の鬼

K'srutan produce

美と醜悪がとぐろを巻いた様に絡みあった物語。
そのビジュアルイメージが損なわれる事ない役者陣「よくまあ揃ったなぁ」と。
見た目だけでなく、レトロで美しい日本語が心地良く、何ともミステリアスな雰囲気。

個人的にはこの原作、何十年も前に一度読んだっきり、それでも未だ強烈に覚えている事で、面白い内容だという事は観劇前から織り込み済み。
同時に、とは言っても舞台化って…そうおいそれと実現できない作品であろう思いもありぃの。
なので今回そこも含めてどんな公演になるのか楽しみな観劇でしたが、まずは見事なほど真正面から原作と向き合ったスタイルだったのに加え、80分という時間内で収め切った独自の構成力が素晴らしかった!
「そうそう、そうだった!」と記憶をなぞらえる楽しみと、新しい物語に出会えた様な新鮮な楽しみが同時に味わえました。

怪しげな「灯り」と表現してもしっくりする照明も効果的、演技力との合わせ技で舞台の場を自在に変換。
小説に生身の役者さん達が息を吹き込んだ舞台版は、小さな劇場の密室感をも味方につけ濃厚な空気を創り出し迫力満点でした。

大胆な発想の怪奇エンターテイメントな中、おぞましく(その時代での感覚では)も哀しく残酷な恋の顛末を改めて認識させてもらった類い稀なる人間ドラマ。
台風の影響を受け幾つかの回が中止になってしまうのは非常に残念ですが、13日には振替公演が設けられるそう。

あれっ原作を変えて語り部を逆にしたんだ・・・うん確かに違和感は無いし役者さんも巧くダイレクトに伝わるし・・・やがて、おぉ ラストシーンで更に大納得。
舞台版として確かに正解でした。

半永久的なWIFE

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半永久的なWIFE

劇団NLT

新人さんの戯曲ゆえに「少々荒削りな部分があっても致し方なし」という心配は一切無用、それどころかあまりの高い完成度に思わず「マジで!?」
いやなるほど、原作の良さを壊すことなく、ちゃんとベテランの地ならしがなされていた様で「そうじゃなきゃ巧すぎるよね」納得です。

見事なほどに気持ち良く追っていけるストーリー。
少し先の未来を思わせる無国籍な感じ(何故か関西弁も登場)は、星新一をちょっとだけ彷彿。
観劇初心者にも優しい「分かりやすさ」を全然浅いものと感じないのは、心のひだに触れてくる言動,、滲み出る可笑し味と・・・これ自分ちだったら・・・と思いが巡る状況展開の面白味があったから。
お洒落な小劇場、役者さんの演技スキルはその枠に納まりきらないほど堂々たるもの。
全くもって贅沢な時間を過ごす事ができました。


「奥様に永遠の命を与えましょう」と持ち掛けるセールスマン。
「笑ゥせぇるすまん」に出てくる喪黒福造みたいのを想像していましたが意外にも美人セールスマン。
自分だったら「う~ん何かが違う。やっぱり契約しないな」・・・しかし油断すると心が揺らいできそうな絶妙トーク(笑)
もちろん契約成立するわけですが、さあどうなる!?その先への期待を膨らませる冒頭の手腕からしてお見事。
連れ合いを失うかもしれない、どうしようもない気持ち。そこに一石を投じる感慨深さと共に、しっかりコメディーな作品でした。

せっかく妻が半永久的に生きるのなら・・・若くしてほしい。憎めない夫の言い方ッ
ノーコメントですが(笑)です


半ライスのタテマエ

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半ライスのタテマエ

Sky Theater PROJECT

定食屋での半ライスおかわりは失敗したとしてもお腹いっぱいで苦しいッだけで済みますが、人生の半ライスおかわりは大きな代償を払う事にもなりそうで、その成り行きにハラハラしてしまいます。

スカイシアタープロジェクトさんの作品は今回で2度目。
初見時のイメージはめちゃコメディーだったのですが、本作はめちゃドラマな作品で、方向性としてはこちらの方が好きだと思いました。
当日パンフには過去作品(なんと約18年前!)を更に大きく膨らませたとの解説が。
なるほど登場人物ひとりひとりが丁寧に描かれているので実に見ごたえがあり、再演だからこそのブラッシュアップ効果と言えば良いのでしょうか、まとまり感・熟成感があって、じっくり落ち着いて堪能できる仕上がりになっていたと思います。

最後まで残った謎、亡くなる前のお父さんの心情が泣けました。

後悔が残らないよう半ライスをおかわりする欲求はもっともですが、その姿を黙って見守る相方ありきの幸せだなぁと、ホントよかったよかったです。

人生のおまけ~Collateral Beauty~

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人生のおまけ~Collateral Beauty~

演劇企画イロトリドリノハナ

コメディーとはまた違った面白味が随所に散りばめられ、殺人こそ起きないもののホームサスペンスの様な感覚でめちゃ楽しめました。
だってもし我が父が何を血迷ったか、どうにも怪しげな団体に情熱を注ぎ出したら、これはもう立派な大大大事件でしょ(笑)

定年退職後の生き方、親子・夫婦の関係性、ボランティア団体内での確執、微妙な男女の三角関係、強烈な親戚の登場!・・・何とも楽しみどころいっぱい、まさにひとつひとつのシーンを噛みしめながらの観劇となりました。
そしてまさかの回転セットで舞台の一角に喫茶店が出現!
暗転の中、薄っすらセットが回り出すのが見えると「おっ!喫茶店シーン、キターーー」

熟年世代、とても主人公の様な一本気さは真似できないにしろ、あんな可愛げある年の取り方が出来たらいいなぁ~としみじみ。
ただし別れた嫁さんがあんなイイ女になられちゃ、そこんとこはまぁ寂しいところだけれど(笑)
帰りには「ろくでなし」を思わず口ずさんでしまいます。

初日から千秋楽までいろいろと変化を遂げてきたらしい公演。
オヤジ♪さんは全公演をご覧になられた様だけれど、自分が観た千秋楽は順位を付けるとしたなら一体何番目なのだろう。
均一のクオリティーが保たれている公演も勿論良いけれど、生き物のように成長していく公演もまた面白い。

総評

初見の劇団さんを中心に選ばせて頂きましたが、今年もやっぱり枠が足りない!
東京は本当に演劇天国、沢山の才能がひしめいています。

その日の為、その公演に関わる全ての“力”が結集し、その時だけにしか体感する事ができない芸術が演劇。
今年はそんな演劇作品をひとつひとつ、より大切に、ゆっくりじっくり楽しめれば良いなと思っています。

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