コナンが投票した舞台芸術アワード!

2020年度 1-9位と総評
雉はじめて鳴く

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雉はじめて鳴く

劇団俳優座

生徒、教師、親、それぞれ縦や横のコミュニティーが織りなす人間模様。
清濁合わせ持つその鮮やかさたるや。
まるでスポンジになったかの様に舞台から溢れ出る感情が、紡がれる言葉が沁み込んできました。

男子生徒の女教師に恋焦がれる頑なさにピッタリ張り付いた涙したくなる痛み。
ごくごく普通の37歳でもある女教師の、一人の女として、常識ある教育者として、人生の先輩である大人として一体何が正解なのか、悩ましい心情。
もう切なくて切なくて胸が締め付けられます。

登場から速攻でこちらのペースをも掴み取ってしまうカウンセラー女性の人間力、
代表者として真価を問われる校長の立ち振る舞い、
ある意味台風の目でもある母親の目が離せない言動、
調子に乗って全て挙げてしまうとネタバレになってしまいますが、もう出演されていた人たち全員が(時には厄介ながら)とても愛おしい。

ことごとく教頭先生には笑わせて頂きましたが、これは油断すると同じ穴の狸になりかねないので気を付けなくちゃ(笑)

確実な総合力で心揺さぶられる極上の人間ドラマでした。

灰になる

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灰になる

演劇企画集団Jr.5(ジュニアファイブ)

シリアスと可笑し味が入り混じった冒頭で掴みはOK。
シリアスの成分は「貧困」と「アイデンティティ」
生活保護を受け続け、己の人生を嘆く男の物語。

姜暢雄さん出演の公演はいくつか観ているはずでも、ここまでガッツリな演技を拝見したのは初めてかも。
しっかりした役者さんに囲まれてダメ男を熱演。
ルックスは良いし立派な体格をしているのに、トホホな在り様が何とも難儀やなぁと。
他の生活保護受給者を見渡せば、いずれもそれぞれに難儀やなぁ ではあるのだけれど。
客観的に見ているつもりが、いつの間にか光の見えない出口探しを一緒にしている感覚にもなってきて、いろいろと考えさせられました。

ご時世とはいえジュニアファイブさんの公演としては有り得ないほどゆったりした客席の間隔。
おかげでゆったり贅沢に観られたのは皮肉な事で、内容の出来を鑑みると非常に勿体ない。

狭間の轍 【東京公演】

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狭間の轍 【東京公演】

ゴツプロ!

舞台の上手高場にて三味線と尺八の生演奏。
これがめちゃカッコいい演奏であったり、時にはドンチャラ宴会のお供になったり、男衆の眠る夜のとばりになったりで大活躍、全ての音響を担って舞台は独特の空間に。
“笑い”には円熟味、ますます男臭さに磨きがかかったゴツプロさん。
この作品で、またひとつ極まった様に思えました。

喧嘩っ早く荒々しい漁師の男達。
食えない輩にして、その一人一人が逸材。
最初のうちこそ笑ったりしていたものの、描かれるは命懸けの過酷な世界。
時代の残酷さも絡み合ったあまりの厳しさ、ギリギリに張り詰めた空気、鬼気迫る演技…圧巻!としか言いようがありません。
身が引き締まる思いで劇場を後にしました。

トタン屋根でスキップ

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トタン屋根でスキップ

ここ風

イイ感じに年季の入った喫茶店。
「あそこの窓際席あたりでゆったりお茶したいなぁ~」っていう感じで開演前、ひとしきり見入ってしまう。
幕が開くとそんな居心地良さげな舞台に相ふさわしい人達のやり取りが…
開演前に思い描いた“ゆったり”って感じではありませんでしたが(笑)可笑しい場面、哀しい場面、いつだって根底には“温かい人の心”が。
ジンワリ癒され、自然と琴線に触れてきます。

関西弁と常連さんと古い傷。
寒い季節にピッタリ、心の芯まで温かくなってくる作品でした。

さりげなく背景や人物に溶け込むよう考え抜かれたであろうスタイリング、衣装も要チェックです。

明日ー1945年8月8日・長崎(2020年@シアターX)

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明日ー1945年8月8日・長崎(2020年@シアターX)

演劇企画イロトリドリノハナ

ウイズコロナならぬウイズ戦争の中を生きる人々。
オヤジ♪さん、ハンダラさんの感想にもあるように初演と比べて演出が、より丁寧に、より深く描かれていたと私も思いました。
それでもって役者さんが大幅に変わったことで、
初演でのシリアス感強めな雰囲気が、これまた一変。
親しみやすい空気感多めになっていたと思います。

Aチームを拝見し、間をあけてのBチームを観劇。
自分的にはこれが大正解!
1回目の観劇では全体像を把握。
2回目ではダブルキャストの醸し出す違いを楽しむのは勿論。
何より、決して難しいストーリーではないにしろ、人間関係の機微や政治的不安要素など、演出においては様々なニュアンスが随所に散りばめられているので、見落としのあったこれらを発見、なるほど!と噛みしめながら鑑賞できるっていうのはこの公演ならではの至福。
う~ん、観察力、洞察力がもっと達者であれば1度の観劇で済むのでしょうが(笑)
ラストに向けての追い込みが圧巻!

第13回公演 明日花ーあしたばなー

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第13回公演 明日花ーあしたばなー

日穏-bion-

打ち上げ花火は綺麗だけれども何とも儚い。
哀しみしかもたらさない戦争を背後に、懸命に生きる人々の人生が、その花火の儚さ、更には激しさとリンクしていくように思えた人情ドラマ。

個人的に日中、何かと頭の忙しかった観劇日。
非常に集中しにくい精神状態ではあったのだけれど、自然な芝居の流れは非常に優しくて乗り心地が良く、遂には目頭が熱くなってくるのでした。
かつて同劇場にて大泣きで拝見した東京セレソンデラックスさんの初見公演を何故だか懐かしく思い出していました。

十二人の怒れる男 -Twelve Angry Men-

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十二人の怒れる男 -Twelve Angry Men-

feblaboプロデュース

10年以上前に同作品を観劇した特は、ほぼ議論の流れに気を取られていた気がするのだけれど、今回の本作ではその議論を生み出す個々の“人物”そのものも充分堪能できたと思えたので、すこぶる良かった!

ぞろぞろ入場してきた12人の陪審員たちをちょっと見ただけでも、太っちょ 痩せ型 がっしり型…神経質タイプ いい加減タイプ 決めつけタイプ…もう見事に様々!ホントいろんな人が集まったものだ。
その人達が意見するほどに自ずと内面も露わになっていくのだから、これは面白くないわけがない。

陪審員の見る角度によって、証拠に対しての信憑性が変わっていく会話の流れも、自分も一緒になって考えられて面白いのだけれど、何より面白いのが迫力の“生” そのダイレクトなライブ感。
「流れが変わる」と言いますが、変わるのですよ、空気が。
それは一斉に変わるという単純なものではなく、登場人物ひとりひとり、意見の受け取り方によっての反発や同調、ひとつの空間に12人が生み出す空気。
見るべきは発言している人だけとは限りません。
固有の迫力や説得力だったりに、もうそこ一点に釘付けになってしまう事もままありますが

どこを見るのかは自分次第・・・あぁこれは、まさに忙しいタイプ(笑)

ちなみにみなみさんと同じく、自分も思わず「のど飴なら持ってますよ」と、もう反射的に声をかけそうになっていました、あぶないあぶない(笑) ㊟咳込みは劇中の演出です、念のため

世界で一番頼りにならないスーパースター

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世界で一番頼りにならないスーパースター

劇団ボンボヤージュ!

全編に亘ってミュージカルナンバーに溢れているのだけれど劇団サイドの主張は、あくまでミュージカルではないと。
どこかで聴いた事がありそうなメロディー(笑)にはストーリーに沿ったオリジナルの歌詞が(上方モニターでは、ちゃんと流れに合わせて字幕を映し出す徹底ぶり)
帝国劇場ばりの…とは言わないけれど、妙に小賢しい迫力と完成度が余計に笑いを誘うシステム。
ここに怪しい企業や宗教、政治家なんかが絡んできて何とも香ばしく素敵なハーモニー(笑)

悪に切り込む某踊る系刑事の面々がめちゃ可笑しい!
それでもっての本流はラブストーリー(?)
高級料理ではないけれどジャンクフードの超最上級品といった感じ。

「朝日のような夕日をつれて」

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「朝日のような夕日をつれて」

株式会社STAGE COMPANY

M verを拝見。
本当だ!つかこうへいスピリッツがビシバシ、案外鴻上作品と相性が良いのですね。
かなり自由度の高い作品と思われ、最近の時事ネタやアイテムがふんだんに。
なるほど演出の手によって器用に容貌を変えながら、いつの時代になっても現在(いま)の作品として生き続けていく事のできる作品なのだなぁと。

そうそうっこれこそ鴻上ワールドの…と納得したところで終演。
予定調和ガン無視の展開、ストーリー説明は自分なんかにはとても無理!という手強い公演でしたが、とにかく役者さんのパワーたるや。
思わずバッカでぇ~な笑い、ゴトーをこんな風にしちゃっていいの?(笑)約2時間の荒波を泳ぎ切った役者さん達に拍手です。

たまたま、お話しできたお客さんは何と今日の公演を観るために大阪から。
交通費、宿泊費、時間だってバカにならないだろうに。
しっかり楽しめたようで良かった。
簡単な移動で観劇できてしまう環境に感謝しなくてはとつくづく思いました。

総評

新型コロナ対策に徹底した多くの劇団・劇場での感染リスクは低いと分かっていても現実にはかなり厳しい状況が続いている演劇界。
あの手この手で観る者を楽しませ日常を豊かにしてくれる演劇界の方達。
昨年出逢う事のできた作品を振り返って、そのひとつひとつに様々な想いが蘇り 
この状況をうまく切り抜けて欲しい・・・切に願っています。

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