1
ピーチボーイズ
Peachboys
前説(開演時間から始まる)では初見さんも安心のPeachboysの楽しみ方レクチャーが
これがあるから昔からのファンも初見者も垣根のないスタートを切れるのだと思う
自分にとっては何度目かの前説、それでもめっちゃ笑える!もはや名人芸の域
この前説も観収めなのかと思うと早くも目頭が熱くなってくる、ヤバい
充分に会場が温まった頃合いで本編がスタート
演劇界の下ネタ部門&著名人いじくり部門は間違いなくトップクラス
童貞3人組がやたら壮大なスケール観で下ネタな事件に巻き込まれていく”幹”の部分は鉄板としても豊富な”実”の部分は新しく練られているので、もう目まぐるしく可笑しい
矢継ぎ早な笑いだけでなく絶妙に間を取った笑いや、じわっと湧いてくる笑い、アドリブを活かした笑いなど、笑いのバリエーションも随分と増えた様
ここでの客演、自劇団でシリアス系やしっとりした演技で活躍されている役者さんがどんなにはっちゃけていても全く問題無し
もはや本人と結びつかないくらいイメージがかけ離れているから(笑)
観ている方も笑いだけでなく「うわ~っ」とか「ギャ~っ」とか声まで出てしまうけれど全く問題無し
会場中が一体となってそんなだから(笑)
ツッコミや掛け声まで飛び出してえらく楽しい!
そして珍しく舞台裏話も・・・「あぁこの公演がラストかぁ~」という複雑な感情と笑いがない交ぜになってこみ上げてくる
遂に迎えたLAST GIGSのエンディング、もう最高のスペシャルエンディングでした
この壮大なる一連を生の感動と笑いで是非
自分にとっての初Peachboysは弟が田舎から遊びに来た際、どうしても下北沢の小劇場体験をさせてやりたくて当時の公演中から選んだもの
たまたま知っている劇団さんが無かったので、まさにフライヤー買い
弟にとっては衝撃的な観劇デビューとなり「小劇場はすごい!何より生き様がすごい!やっぱ東京すごい!」と興奮しきりでしたが、自分にしても桁外れのパワフルさ、会場の熱気に驚いたものでした
その後も小劇場では異例のロングラン公演時には下北の街頭で劇団の方々が一生懸命に宣伝活動されており、ぜひとも浜田艦長から“プロミスいいね”を送ってもらいたい光景だったなぁと
幾つもの記憶に残る活動を本当にありがとうございました
2
嗤う伊右衛門 2024
Mido Labo
絵画では注目させるべき人物像だけを鑑賞者に一点集中させるテクニック、そんなテクニックがあるという情報をたまたま仕入れたばかりでしたが・・・生きた人物・人生が鮮明に浮かび上がり、人物そのものを存分に堪能できる演劇テクニックがあるとすれば、まさに本公演がそれではなかったかと
言うはやすく行うは難し、これほど類いまれなスキルを持った劇団さんを自分は他に知らない
閃光、雨、蠢く人の姿・・・何故にそんな態度を・・・どうしてそんなひどい事を・・・何度鳥肌が立ったか分からない
それは人の心に蛇を見たせいか、鬼を見たせいか、底知れぬ哀しみか、それとも悦びだったのか
一筋縄ではいかない人の業がとにかくエグい、エグすぎる
お岩さんの幸福観とは何だったのか、まずはお岩さんから順繰りに登場人物達の生き様に思いを巡らせていきたい
そうでもしないと もの凄い舞台を目の当たりにしてなかなか興奮が収まりません
3
白魔来るーハクマキタルー
ラビット番長
三毛別羆事件(さんけべつひぐまじけん)
大正4年、北海道で実際に起きた事件をモチーフにされたとの事ですが、よくぞここまで見応えある作品に創り上げたものだと感動!
動物パニック映画に通じる恐ろしさは舞台で体感すると、生で感じる防衛本能なのか注意力(集中力)がグングン上がってのめり込んでいくこと必至
登場人物に対しての感情移入にも熱が入って一分一秒に息を呑む展開
野生の脅威、それがどんなに血生臭く残酷な物語であっても、やっぱりラビット番長さんが描き演じられる人間ドラマは秀逸
ただ「怖かった~」の枠に決しておさまっていない
恐怖しながらも人間ドラマとしての完成度の高さに感動したのでした
やはり語り継がれている名作で間違いなかった
これで自分も語り継ぐ事ができる一人になれたのはとても光栄だと思いました
4
迷子
WItching Banquet
元々はタモリと同じく「日本人がミュージカルなんて」などという偏見を持っていたというのに幾つもの段階を経て、やがてドハマりするほどの日本人ミュージカル俳優公演とも出逢って久しいのだけれど、まさか一般日本人の人生模様とミュージカルがここまで自然に融合するレベルにまで向上していたなんて!と、素直に驚いてしまう
多重介護を余儀なくされた青年と一人の女性(この女性もある問題を抱えている)の出逢い
息が詰まるほど重い題材でありながら、時にはしっとり抒情的に、時にはエンターテイメント性抜群の躍動感で楽しませるなんて、なんという異色作!そしてなんという傑作!としか言いようがない
ドラマ的にもテーマ(介護問題)と真摯に向き合った内容
過剰な表現でなくとも、精神障害を取り巻く避けがたい混乱や(充分な)介護というものがどんなに難しい事なのか鮮やかに伝わってくる
加えてこの難題を乗り切るための芯みたいなものを差し込む事も忘れていない
下北沢の民家エリアに位置する今回の会場、ハーフムーンホール
ひっそりとした洋館の佇まい、地下に降りていくと素敵アート空間が拡がっていてビックリ
天井も高く閉塞感は感じないし 照明、音響の設備も完全に備わって空調も程よく効いて快適
とても丁寧に創られた上質な公演に合い相応しい会場だったと思う
舞台スペースもたっぷり(両サイドで奏でるプレイヤーの見せ方も小粋)
生演奏と歌唱、まるで夕陽が差し込む中、柔らかい風が流れていった様でした
(金木犀sideを観劇)
5
時代絵巻AsH 其ノ拾七『暁月〜あかつき〜』
時代絵巻 AsH
激動の時代に暗躍した者達の思惑渦巻く、まさにこれこそ時代絵巻の決定版
不条理がまかり通る状勢に憤まんやるかたないけれど、そこも含めて時代劇の醍醐味、大きく心揺さぶられました。
絡み合う利権、移り行く世の流れ、息を呑む場面や崩れ落ちそうになる場面が次々と…時間を忘れて見入ってしまいます。
武士の上下関係や、新撰組と京都見廻組との関係性など、単なる知識でなく血肉となって勉強になった事も沢山
主人公である岡田以蔵の人物像がイメージしていたものとあまりに異なって驚きましたが、これは完全に良い裏切り
歴史の罪深さが浮き彫りとなって、残酷なほど作品を色鮮やかに染め上げてくれる存在でした
早めに会場に着いて当日パンフをじっくりと読む、お勧めします
6
こどもの一生
あるいはエナメルの目をもつ乙女
王子小劇場があらゆる意味でパルコ劇場仕様になっていてビックリ!
こだわりが感じられるセットは想像力を掻き立てられ、開演までの間いくらでも見ていられるし、いざ始まってみれば衣装、音響、照明、本当に細かいところまで並々ならぬ美意識が張り巡らされている
もっと大きな劇場でも充分通用する それら予算度外視の心意気もさることながら、全く引けを取らない役者さんの力量がこれまた
今回の「こどもの一生」という脚本の良さが存分に活きるためには、これだけの怪演、パワーとテクニックが必要なのでしょうが、それにしても何と言うかゴージャス!
思わず演劇界が大いに盛り上がっていた頃に戻った感覚に
コロチキ・ナダルが言うニュアンスの「イっちゃってる」感じに笑いも起き、めっちゃ破天荒な世界観は暴力的で破廉恥
それでいて美しさも感じられるのだから何とも不思議な世界
狂乱へと転がり落ちていく展開、深層心理に訴えてくる様な恐怖、最後に訪れるカタルシスに酔いしれました
7
純白観想文
劇団演奏舞台
なかなかの頑固者とみえる老人と来客(老人が教師時代だった時の教え子)お調子者とのコントラスト、音響効果(生音が大活躍)も手伝って、何とも珍妙な空気感
オーバーアクション気味に感じるやり取りにはどこか懐かしい味わい深さがあるも、これはしっかり現代のお話し
ここに棲む老人の部屋だけ時の流れが滞っている様にも感じるし・・・頑固だけなのか・・・正常ならざる者の欠片が散らばっている様にも
芥川龍之介「羅生門」がキーポイント
やり取りの流れから、やがては絶望的な哀しみに包まれていくのだけれど、最終的にはこちらに問いかけ、語りかけ、こじ開けてでも前向きな方へ進む活力を受け取る事ができました
舞台一丸(いちがん)となって生で伝わってくる気迫がハンパなく、もし本気の熱量でなかったら(直接的な応援台詞があったわけでもないので)ここまで手ごたえあるメッセージを受け取ることは出来なかったのではないかと
アトリエ公演は今日1日だけでしたが今月には中板橋 新生館スタジオでも公演されるようですので是非
8
絶望という名のカナリア
甲斐ファクトリー
最初はTPOに合わせて笑うのを我慢していましたが、やがて同じ思いをしていたであろう忍び笑いが耐え切れずにあちこちから
あぁ~これで少しは解放できる、それにしてもブラックでずるいなぁ(笑)
何より役者さんの等身大な感じの演技がとても心地よい
自虐が入った女優さんに対しても「等身大」というのは失礼な話だけれど、いやホントそんなスピリッツも素敵でした
当事者には全く見えていないけれど、観客には見えてくる彼等の“鳥かご”
がんじがらめの“鳥かご”は当の本人の思考や行動が材料になっている事を興味深く体感できる公演
第10回記念公演、拝見するのはまだ3回目が言うのも何ですが、甲斐ファクトリーさんの真骨頂キターーーーという思いがしました
何故に甲斐ファクトリーさんの描かれる“闇”がこんなに魅惑的なのか
日常生活の中で存在は知っていても、危険な香りがしてとても近づけない世界
そこを覗き見できる魅力というのもありますが、その磁場から派生する偏った価値観
当人がそれを絶対だとこだわるほどに”闇”は甘美に広がっていくよう
心の震えは恐怖なのか歓喜なのかもはや見分けられない
先に「とても近づけない世界」と書いたけれど、それは本当にさりげなく日常に入り込んでくる場合もありそうで自分だけは安全圏にいるとは決して言い切れず
その立場になれば”闇”の中で陶酔し、冷静な判断はすっかり消え去り、自ら破滅の方へと進んでいくのではないかと想像できてしまうのにはゾクッとしてしまいます
エピソードの絡み方、個々の存在感、観客目線の移させ方、象徴のように置かれた鳥かごと主人公の絡み方、どれもが素晴らしかったです
世間では新NISAが話題になっている中、どこかで株式投資を扱った公演はないのかなぁと思っていたところ、本作では“投資信託”がモチーフのひとつに
投資する側からではなかったものの、ヒリヒリと物語の中で溶け合っていて良かったです
今回の行き過ぎた押し活や信仰も依存症と言えますが、いつか買い物依存症やSEX依存症など〇〇依存症を題材に取り上げて欲しい、ぜひ甲斐ファクトリーさんで
9
世迷子とカンタータ
9-States
源泉枯渇に客離れ
閑古鳥の鳴く老舗旅館が舞台であるけれど、悲壮感はほぼ感じられない
旅館の亭主をはじめ中居さんや料理人、観光協会の方々が、めっちゃ面白いから
もう お客欲しがり過ぎ(笑)
沢山笑える喜劇として成立しているのだけれど、この物語にはもうひとつの側面が
作品を生み出す人にとっては常に付きまとう問題
本当に自分のやりたい作品か、一般大衆の欲しがる作品か
売れる要素も取り入れながら自分の表現世界を創り上げるというのが売れっ子であり続ける秘訣ではないかとも思うのだけれど、そこに人生観が絡んでくると本当に難しい、特に本作のような場合は・・・
ネタバレ厳禁でこれ以上は ですが 自分の絶対だと思っている価値観を他者(特に近しい人)の価値観と照らし合わせて、それが本当に“絶対”なのか検討してみるのも決して悪くない と主人公を観ていて思ったのでした
暗転中、モニターに提示される言葉の数々にも興味を惹かれるので、暗転時間にも価値を生み出せる という見せ方も良かったです
10
妖怪大参列
劇団 枕返し
初見の前回公演「姥喰」ではストーリー展開の上手さが印象的だったけれど、今回はパッチワークの様な極彩色の縫い合わせで全体像が見えてくる様な印象
前回とは全く異なるアプローチに驚いたものの、きっと本作が劇団枕返しのシンボル的な公演になるのではないかと
子供の頃の「お化け屋敷」に感じたワクワク感がこの劇団さんにはあって、いかがわしさ込みでノスタルジック、味わい深い
それにしてもこの人まで妖怪のカテゴリーって事でいいの?何ともいかがわしくてカオス(笑)
下北沢初のはず、ではあるけれどOFF OFFシアターと劇団カラーのシンクロ率が高く、まるでずっと劇場に棲んでいたかのようなおさまりの良さ(妖怪だけに)
これは駅前劇場にも有効、いずれはスズナリに棲むようになってもおかしくないかも