ぱち太が投票した舞台芸術アワード!

2011年度 1-10位と総評
ルネ・ポルシュ『無防備映画都市―ルール地方三部作・第二部』

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ルネ・ポルシュ『無防備映画都市―ルール地方三部作・第二部』

フェスティバル/トーキョー実行委員会

原サチコさんの公演や、すでに出ていた邦訳の戯曲、英文の参考になりそうな図書を読んで本公演の観劇にのぞみました。実際に観てみて、いろいろな資料を踏まえながら、それをぶち壊すような勢いのロックでラディカルな演出にすっかり魅了されました。その後自分が他の作品を観たとき、常にこの作品を基準にしていました。

ピラカタ・ノート

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ピラカタ・ノート

ニットキャップシアター

元の「ヒラカタ・ノート」は、6年前に自分が京都を旅行した際にぶらっと観劇した時に衝撃を受け、その後、関西の劇団にのめりこむきっかけになった作品です。ごま氏の作品はそのどれもが非常にテクニカルで感覚的にも鋭いものがあるように思います。今年はじめてジェローム・ベルを観てみて「ごま氏の方が上なんじゃないか?」と思ったりもしました。劇中の地名が全て関西圏の地名であるのも、東京で上演するにしては思い切った決断だったかもしれませんが、自分には雰囲気がつかみやすくて良かった。この6年間、自分も舞台となった関西の団地などを歩いてみて、その独特の空気がつかめてきたようにも思います。それが今になってよりこの作品に対する自分の中の理解を深めてくれたようにも思います。ヒラカタ~ピラカタ・ノートは作家が一生のうちでものにする事が出来る数少ない(想像力に溢れた)大作のひとつであるようにも思われました。個人的には、文学も含めた中でも、現在日本でも屈指の戯曲ではないかとも・・。

延命

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延命

ナントカ世代

ここ1~2年のナントカ世代の充実ぶりは凄いように思います。最近は吉田小夏さんのヨコハマの風の人気が高いように思われますが、自分は(独特な舞台美術含めた)ナントカ世代の左京区の風みたいなものがとても魅力的に見えます。

極楽百景亡者戯

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極楽百景亡者戯

ピースピット

実は一番好きな公演。物語のあらすじと主演の片岡さんの名前をみて、絶対大阪行こうと思いました。
この一年の片岡百萬両さんの充実ぶりは凄い!器用なマネばかり得意な役者さんの演技に、自分はよくできた子役以上のものを感じませんが、片岡さんは、「全部素なんじゃないの?」と思えるほど、自分が思ったことをそのまま言っているように思えますし、たぶん実際そうなんじゃないかな、と、思います。実は今まで、そういうのが役者の資質として良いものなのか少し迷ってもいたのですが、原サチコさんの公演などを通じて吹っ切れました(笑 台詞を言っていて自分の心に少しでも後ろめたいことがあれば、どんなに演技が上手くても役者の目を見ればすぐ分かるように思います。役者は普段の生活から、役に相応しいまっとうな生活を心がけてほしいように思われます(苦笑
ちなみに片岡さんは今年の自分にとってのベスト俳優です・・。それは演技ということだけではなく、自分も感じていることを、真っ直ぐな眼のまま、舞台の上で叫んでくれたという意味でもあります(笑

大阪公演:バーニングスキン

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大阪公演:バーニングスキン

劇団子供鉅人

関西の劇団ばかり続いてしまって申し訳ないです。ただ、自分は良くできた作品より、荒削りでもほかに似たものがなくて、役者や演出家が感じたありのままが舞台に存在するものが好きなので。その点で、子供鋸人はまさに独創的の鑑。そして登場するすべての・・目が落ち窪んで虚ろな幽霊みたいな、見捨てられたような変わり者たちに温かな愛の視線が注がれているように思います。また、ビザールな雰囲気も良いです。まるで、月の裏側で一年中ハロウィンをやっている国があったら、きっとこんな気怠い灯りが家々から漏れてるんじゃないか・・などと思ってもみたり・・。まぁ、それはともかく子供鋸人&猫町谷六LOVEな感じで・・(苦笑

七福神!

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七福神!

ベビー・ピー

以前と比べると作風がだいぶ変わりました。自分が初めてベビー・ピーに出会ったのは「みんなボブ」。その時は、出町柳駅を出たときに感じるような、とても瑞々しくて自由な左京区の風が吹いていたような気がしました。それ以後、東京で話題になることはほとんどありませんが、有名になりたいとかそういうんじゃなく、自分たちの伝えたいこと(別に主義主張ではありません)、気持ち、そういったものを西部講堂に寄り添うように紡いできたように自分には思われます。2011年はその西部講堂をフェリーニの夢の中に引っ張り込むような作品作りを体当たりで遂行し、とても素晴らしい夏の夜の夢を観させてもらいました。

あたらしい草

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あたらしい草

chon-muop

東京の劇団の舞台の中で観劇後に瑞々しい気持ちを味わえたものがいくつかありますが、そのどれもが小さなスペースのものであったように思います。思うに、東京のせわしない街中の普通の劇場では、舞台を出た後ですぐに日常に引き戻されてしまって、なかなか余韻を味わう機会が少ないのではないかと思います。自分が今年観た東京の舞台のなかで一番好きなのがこの作品。ラストの演出がとてもステキでした。詳細については・・・誰か観た方に聞いてみてください。たまにはそんなちょっぴり秘密めいた公演があっても良いでしょう(笑

こいにょうぼう

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こいにょうぼう

ナントカ世代

ちいさな和室を使ったささやかな公演でしたが、今まで観たこともないような素敵なセンスに満ち溢れた公演でした。京都では、たまにこんな不思議で素晴らしい光景に偶然めぐり合ったりして、東京では想像もできない町の深さに気づきます。公演前に賀茂川でパンを食べていてトンビにさらわれたのも今では良い演出のようにさえ記憶の中にとどまっています(笑

Jのとなりのオニク

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Jのとなりのオニク

男肉 du Soleil

ジェローム・ベルが、老若男女に舞台の上で踊らせた精神は、男肉がまさに持っているもののように思います。ただ「踊りたい!」その気持ちがあれば十分のように思います。男肉を知るまでは、技術的に優れた人が熱意に最も溢れた人なんじゃないかと漠然と思っていたようにも思いますが、男肉を観て、技術云々が先に立つより、情熱のあまり弾けだすような魂のほとばしる動きの中にこそ熱情があるのだと気づきました。自分には、優美なだけの動きより、心の叫び声が聞こえるようなダンスの方に魂を揺さぶられます・・。

錆び

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錆び

岩渕貞太 身体地図

岩淵さんの動きは素晴らしい。「永遠」とでもいうようなものがこの世に存在するとしたら、それは人の一瞬の動きの中に存在するのではないかと思ったりもします。岩淵さんの動きの中には「永遠」が閉じ込められているようにも思います。

総評

上記の公演以外にも、ギャラリーやライブハウスなどで一夜限りの想像を絶するパフォーマンスをいくつか拝見しました。「光景」という意味では、それぞれが記録にはほとんど残らないものの、現在の日本の想像力の頂点と言ってもいいもののように思います。 震災の影響で、海外のミュージシャンやアーティストの来日は若干少なめだったようにも思いましたが、その結果空いた時間でそうした公演にめぐり会えたことは運命のようにも思います。日本は本当に広い。先入観を捨てて新たな出会いを求めれば、夢のような想像力の塊にめぐり合う事が出来るように思います。それは何もパフォーマンスだけでなく、手作りのぬいぐるみや服、あるいはちいさなおばぁちゃんのお店の小物に至るまで、常に敏感であろうとすれば、どんな激しい風の中でも、その中に紛れたささやかな想像力の香りを辿ることができるように思います。今回選んだのは、そんな新たな世界を切り開いてくれる想像力をもった作品群です。「前回と同じような公演」をする劇団はどれ一つとしてないです。どこも常に自分を一新し、新たな世界に向かっていく気概を持っている劇団だと思います。

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