総員死ニ方用意 公演情報 総員死ニ方用意」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.8
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  • 満足度★★★★★

    覚めた目
    戦争という状況を直接「戦艦大和」に乗り組む(描く)のではなく、追航する練習特務艦「喜島」という距離を置いた視点から観せる。それもコミカルに描くことで、現したい本質を鋭く抉るのではなく、敢えて鈍らすことで観客に問いかけるようだ。笑いの下にある確固たる主張...見事な公演である。

    ネタバレBOX

    ラストシーンは山中博士の滅私奉公というよりは私利私欲(自分が発明した兵器の確認)という様相である。しかし、それを否定しきれない戦時中という特殊状況下の人間心理が怖い。少なくとも乗員は戦争という異常下における死生観、それが集団心理として共有せざるを得ないというアイロニーあるタイトル。
    戦争末期という異常情勢、海軍軍人という立場、戦友(大和乗組員)が死地に赴く緊迫した局面、そのような中で、悲劇の連鎖を断ち切る英断をするラストシーンは見事。
    演出のこだわりについて、男性キャスト(女性も1名)は坊主頭にするなど、外見から驚かされた。そしてキャスト個々の演技は確かであり、全体として調和力を感じる。

    現在、真剣に取り組まなければならない喫緊の問題...それだけに時節に合った内容であり、その慧眼には驚かされる。それを芝居という見た目の娯楽性とその底流にあるテーマ、骨太な主張を上手く融合させた秀逸な公演であった。

    次回公演も楽しみにしております。
  • 満足度★★★★★

    二度目の観劇である。
    初日と楽を拝見したことになる。改めて思うのは、シナリオの素晴らしさ、喜劇劇団としての品格とセンスの良さ、役者達の多様な個性が一堂に会することの楽しさ、何より着眼点の鋭さと適確な距離である。初日のレビューで、おんぼろパソコンは、何行か書いた文章を消失していた。読者の方々には、歯切れの悪い文章をお届けすることになり、申し訳なく思う。

    ネタバレBOX

     
     初稿でも指摘しておいたことではあるが、今作、冒頭のシーンと科白で見事に、この時代と今作の要点を示唆していた。喜島艦長、谷村の兵学校時代の同期、親友である大和艦長、有賀からの便りには、大和艦長に就任した旨綴られていた。折しも1945年3月26日には、米軍は座間味に上陸。その後島の形が変わる程の艦砲射撃の後、4月1日米軍は沖縄本島に上陸。島民の四分の一が亡くなる壮絶な沖縄地上戦に突入していた。先にも書いた通り、最早、軍部に有効な対抗手段も武器も無く、「国体」護持に固執する指導部には、非合理・不合理な戦法しか残されていなかった。つまり特攻である。大和は、第二艦隊旗艦として、沖縄の窮地を救うべく成功率ほぼ0%の海上特攻の任を担ったのである。時に4月5日、徳山沖に停泊していた大和に出撃命令が下る。谷村、有賀両俊英の見立て通り、僅かに残った日本の救援・援護機の援護が届かなくなる海域に入った途端、大和は敵機動部隊の総攻撃を浴び、海の藻屑と化したことも既に書いた通りである。
     が、元々、喜島が大和救援に向かうことは、谷村の一存で決められた作戦であり、腹心の者以外、この事実は知らなかったのだが、先にも書いた通り、大和の正確な位置と出帆時刻を喜島に伝える任に当たっていた者が、軍部に怪しまれ拘束された為、連絡が遅れ、大和出撃15時間後に佐世保を出発することになる。喜島出撃に際し、谷村が檄を飛ばすが、乗り組み員は僅か4ヶ月の訓練しか受けていない。ここにも、戦局の悪化が如実に現れている。言う迄も無いことだが、艦長谷村がその檄を飛ばす際、甲板左方、右方双方を見ながら言を発しているのは、舞台では、役者が7~8人しか出ていなくとも、水兵は全員甲板上に集まっていることを表しているからである。観客は、このような想像力を要求されるのだ。即ち、乗員は148名+αであるという科白情報と谷村の所作、顔や目の動かし方から、甲板上に整列しつつ、艦長の訓示を聞いている兵士達の姿をヴィジョンとして観ることをだ。一般兵士は、気をつけの姿勢でしゃちこばっている。その中で、特異な兵士達をこそ、今作は、役者を用いて描いているのである。では、第一分隊、第三班の兵達は、何処が特異なのか? 無論、翼賛体制に関わる総ての言動をどこか否定的に見たり、距離を置いて自らの思想を確立していたり、要は自分自身の頭で考え判断する自由を持っているという意味で特異であり、それ故、翼賛体制に悖る落ちこぼれとされた人々であった。今作の凄さは、このような自分の考えを自分の思考によって構築できる“落ちこぼれ達”を主人公にしている点にある。
     これも、何度もあちこちで書いたことだが、有史以来日本に日本人自らが根本のレベルから発明した行動原理としてのprincipleなど一度たりともない。総て借り物である。“葉隠”でさえ、根底にあるのは朱子学であるから、思想の根底からの独自性には、疑問符がつく。他は推して知るべしである。従って日本人の行動原理を定めるのは情緒原理主義を於いて他は無い。情緒は、自分の頭、即ち理性を用いて制御しない限り暴走したら止めようが無い。これが「一億総火の玉」の正体である。阿保を絵に描いて壁に貼り付けたような滑稽で幼稚でチンケな日本の指導層は、この日本人の性向には敏感である。そして、狭い了見でミスリードを繰り返す。劇中、山中博士が、軍部がもっと科学技術に理解と関心があれば、こんな負け方はせずとも済んだ、という意味のことを吐く科白があるが、然り。ドローンが首相官邸屋上に降りて、「盲点」だったと散々、警備関係者は言っているが、馬鹿としか言いようが無い。秘密保護法が通り、唯でさえ、情報開示が出来ない糞官僚と政治屋、経団連、連合、メディア、研究者とは名ばかりの下司、日本人CIAエージェントと日本という植民地で自由に活動できるCIA要員等々が、愛する土地や人々を蹂躙したいだけ蹂躙しているのに、パトリオットたる国民が、利用できるものを利用するのは、当然のこと。その程度のことも予測できないのは、プロという以前、単なる無能というより、脳みそあんの? なのである。
     今作が訴えているものは、以上のように、現在にもそのまま通じる内容である。為政者共に媚び諂って“勝ち組”などと称する馬鹿共が如何に自分の頭で考えず、見た物をキチンと認識していないか。聞いたことを正確に捉えていないかを自問してみる良い機会であろう。
     敵機に襲われた喜島を神雷が救った夜、谷村は無礼講の宴を許し、三班の若い兵士、看護婦らと歓談する。そこで彼が得た教訓は闘いによる死ではなく、生きて作り出す未来であった。俊英谷村は、自分の頭を使って判断することのできる若者達に、未来を見たのである。それ故、神雷を用いて戦争を長引かせ、更なる犠牲を双方に齎す道を避け、自身の誇り、職業倫理、親友とのあの世での邂逅を思って総員退艦命令を出した後、自沈する。その最後の命令が、“総員生キ方用意”であった。
     因みに、今作に出てくる大和艦長の名前は、実際のものであり、科白の中にも、実際に交わされた表現が多く出てくる。それらは、子を思う母の偽らざる心情であり、母を思う子の思い遣りであった。実際、兵士が死の間際に天皇陛下万歳などと言わず、母ちゃん! と叫んで死んでいった者の圧倒的に多かったことは、戦争しない為の努力を続けて来たこの国の人々の常識であり、自らの見た物・ことを見たと言い、聞いたことを聞いたと言える、自分の頭で考えることのできる理性を具えた者からのメッセージである。
     また、最大・最高の防衛力とは、軍備を増強することでもなければ、強くなることでもない。正確に世界を分析することのできる正確な情報を持ち、その情報を判断する理性を持って、例え意見の会わない者たちとも話し合うことであり、いつでも話し合えるだけの関係を構築しておくことである。
  • 満足度★★★★

    総員”生き方”用意!
    正直な気持ちを表すことが出来ない時代が劇名を物語る。
    そして、記録に残らない犠牲者たちを忘れてはいけない!
    谷村艦長役谷口さんの毎度のボヤキが何とも言えず癖になる。
    衣装と舞台セットのサプライズは期待通り、面白かったです。
    デリケートな問題を肩を張らずに観られるのが良い!

    ネタバレBOX

    斎藤さんの坊主頭気合い入ってましたね!役者魂感じました!
  • 満足度★★★★★

    花五つ星
    このタイトルの余りの的確さに惹かれた者も多かろう。特に多少とも軍や軍事、戦争について注意を向けてきた者達にとって、今、この「国」が置かれている状況を、これほど適確且つ大胆に表現することは極めて難しいからである。(ネタバレは更に後ほど追記2015.5.15追記)

    ネタバレBOX

     
     国会では本日午後、安保関連法案が閣議決定され、明日15日には、法案が衆議院に提出される。無論、安倍は丁寧に国民のコンセンサスを得るようなことはしない。それは、先ず、海外で肝心なことを外交的に詰め、コンセンサスを得て、事実上憲法判断のできない“最高裁判所”のある植民地「国」内に持ち帰って、実質憲法の上位にある地位協定を根拠に2+2で詰めてきたことを実現するだけだからである。様々な擬態や嘘、秘密協定と情報公開の不備、官僚達の勘違い(彼らの主人は日本国民であるはずが、実際は、大日本帝国憲法が定めた唯一の主権者であった天皇の代わりにアメリカが居座っただけである。)等々、この植民地の実情は、基本的に隠されている。それは、戦前も戦後も変わらない。その辺りのことは、開演前、舞台上の練習特務艦「喜島」の砲塔二門の間に吊り下げられた垂れ幕に書かれた岡倉 天心の以下の文句“我々は我々の歴史の中に我々の未来の秘密が横たわっていることを本能的に知る”で示唆されている。
     今作で谷村艦長以下の人々が乗り込む船喜島は、第一次世界大戦時に就航した船で、排水量9700t、全長134.72m、最大速21.5kt(時速約39.8km)、乗員726名で現在は練習特務艦として用いられている。尚、谷村と沖縄への海上特攻の任に当たる第二艦隊の旗艦大和の艦長有賀 幸作は、同期のライバルで親友、互いに日本一の軍艦の艦長にどちらが先になるか競争した仲の俊英二傑。片や大和の艦長有賀、片や大怪我の為、下船の憂き目を見た後も海と艦への愛着が経ち切れず特に願って練習艦艦長として帰任した谷村の因縁は、ミッドウェー海戦以来負けっぱなし。暗号は解読され、空母、艦載機、巡洋艦、駆逐艦、潜水艦等々の殆どを失った日本は、起死回生の望みを絶望的な特攻作戦に賭けていた、態々、死にに行く親友を助けるべく、山中博士の発明した新兵器、神雷を装備した喜島で大和救援の為、秘密裏に船出した喜島だったが、軍上層部へは秘密の作戦だった為、大和の正確な位置、出発時刻などの暗号解読で、怪しまれた担当者が軍部から拘束を受け、救援の任に就いたのは大和出撃後15時間の後であった。未だ初日が終わったばかりで、本日2日目だから、ここ迄にしておく。見どころは満載。殊に戦争が始まるということで何が失われてゆくのか、という本質をぐっと掴んで取り出し、登場人物達のキャラクター設定に巧みにそれらを配し、観客に自然と本質が伝わるように書かれたシナリオ、悲痛極まりない現実をキチンと喜劇仕立てにしつつ、見事に本質を表出せしめた演出、各々の役者の演技が相俟って必見の舞台である。
     ところで、今作で喜島に乗り込んだのは実際には百五十数名に過ぎない。艦長、副艦長、神雷の発明者、山中博士そして志願看護婦5名を含めての数である。駆動・操船にさえ不安が募る通常の5分の1の人数だ。海上特攻する大和を救うべく出撃した喜島からは、出港前、鼠が大挙して繋船ロープを伝い逃げて行った。船乗りの常識として、この船は沈む、と言うことである。即ち全員、命は無い。而も、下級兵士たちの噂では、艦長に勝算ありとの判断があったのだと言う。(この矛盾をどう処理するかも注目)論より証拠、大和を追い出撃した喜島に敵機が襲いかかった。博士は、すぐ神雷を作動させ、襲来する敵機を見事木端微塵にした。博士は大空襲で妻子を失っている。彼にとってアメリカは、必滅の敵国である。だが、神雷が、活躍すればするほど、戦争は長引き、双方の損失は、益々増える。救援に向かった大和は、残念乍ら、谷村・有馬両俊英の予測通り、大日本帝国軍の援助の及ばなくなった海域に入った大和への敵機からの総攻撃で3332名の乗組員ともども海の藻屑と消えた。谷村は自問する。神雷を使い続けて、戦争を長引かせ、双方の犠牲を更に増やすのか? それとも喜島と共に引くべきかを。
     この難しい決断の結果は、作品を観るべし!! 何度でも観たい舞台である。観れば、引き込まれて損をした気になどなるまい。

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