満足度★★★★★
素晴らしい傑作!
Truth exaggerated may be falsehood.
リリアン・ヘルマン『子供の時間』を,阿佐ヶ谷で観た。とても良い演劇だった。スピード感あり,心理描写が卓越していて,たいへん良いものだった。
ドビー寄宿学校には,美人教師カレン・ライトがいた。結婚も決まっていた彼女には,創設以来の無二の親友マーサ・ドビーがいた。彼女は,どうも男には縁がないようだ。むしろ,カレンと毎日同じものを見て,同じ作業をし,生活をすることが唯一の幸せである。マーサは,どこか変なのだ。女性なのに,カレンしか見ていないのだ。
子供というものは,動物的感がさえている。だから,このことに大変心を悩ます。一番のお転婆むすめメアリーは,カレンと悉く対立する。あいつは,自分ばかりしめつける。これじゃ息もできないじゃないか。こんな化けものみたいな学校,おばあちゃんに言いつけてつぶしてやるんだ。カレンは,世間知らずで,このような意図になぜか気がつかない。
あるとき,メアリーは,ロザリーが,外出するのに,黙って友達の「飾りもの」を拝借した現場を目撃する。ようし,あいつは,この弱みで今後アタシの子分だわ。いざとなったら,なんでもあの子のせいにしてしまえばいい。メアリーは,ロザリーをうまく利用して,カレンと,マーサがレズであった!というデマをばらまく。
この事件を,ティルフォード夫人が膨張させてしまう。やがて,カレンとマーサは,裁判において負けていく。彼らは,学校経営において,平気でほかの同僚を追い出すような自分勝手なひとたちだったので,証言を拒まれてしまったのだ。
カレンは,恋人との関係もギクシャクしていくのに気がつき,別れを口にする。ここにいたって,カレンにはさほどそのような感情はなかったかもしれないが,アタシには,結構そのような不自然な感情が確かにあったのかもしれない・・・と,マーサが反省をすることになる。マーサは,結局自殺するのだ。
満足度★★★★★
蠅の王にも似たテイストながら、女の子
1934年に発表された”Thf Children’s Hour”は、リリアン・フローレンス・ヘルマンによって書かれた作品の中でも最も有名な作品の一つだが、寡聞にして自分は読んだことがなかった。今回、小田島 雄志の名訳で初めて接したこの作品、当に衝撃! (追記後送)
満足度★★★★
【B】序盤の「寄宿舎」は雑踏に終ったが、とても高貴な翻訳劇である
阿佐ヶ谷の地下で、こんな高貴な物語を紡ぐとは衝撃的である。
少女の「嘘」が教師、親類、クラス・メイトの人生をも変えた、アメリカ片田舎の事件を追う。
「黒板」と西洋家具が連結した舞台装置はシック。音響も最小限に控えている。
この空間に対し、私が抱いた感想は次の通りである。2013公開映画「『ムーン・ライズ・キングダム』の色調だな」と。
タイトル『子供の時間』。英訳すると「KINDAR HOUR」。「黒板」に パリのカフェ従業員の書く字体で2時間10分占領する。(同文以外は消されている。)
これが、映画冒頭の「字幕」がアンティーク化するイメージと ぴったりだったのだ。
10代の「問題児」メアリー・ティルフォードに周りの大人が翻弄し、描かれるテーマも 「モラルと権威社会」で、ところどころが重なった。
いかにクラス・メイトを掌握していくか。いかに、祖母を騙し、大嫌いな寄宿学校を破綻させるか。
「問題児」を、滑稽に、子どもらしく、それでいて計算高く演じたのが荒川 真琴だった。
別の、彼女が登場しないシーンであっても、舞台袖にいながら他のキャストと共演する離れ業をみせた。それは、脚本どうこう以上に、荒川の演技に答えがあるように思う。
いやあ。子どもは残酷な生き物だ。
満足度★★★★★
素晴らしい!
農家を改造した寄宿舎が舞台である。そこに居る女生徒の戯れについた嘘が、その学校の女教師二人の運命を狂わすという物語だ。この戯曲は、リリアン・ヘルマンが書いた問題作。物語は、女教師の視点から描いており、女生徒の深層に触れていない。フライヤー(チケットも同じ)デザインは、暗色に少女が膝を立て安座した姿のもの。膝の間に顔を伏せているから表情はわからないが絵柄から陰鬱な雰囲気が漂う。女生徒が何故嘘をついたのか、という核心は定かではないが戯れについた嘘が大事になり、取り返しがつかない事態になったということだろう。日常に潜む「チョットした出来心」「いたずら」が思わぬ事態を招くことは往々にある。そう考えると恐ろしい。本公演は、人間が持っている”悪意のない悪戯“を怖いまで、一方、転落時の不条理を悲しいまでに描いており、秀逸だと思った。
なお、説明に「勢いだけでは乗切れない作品を若い役者とどう作るか」とあったが、それは杞憂だったと思う。確かな演技で2時間10分を観せてくれた(Aキャスト)。今後も素晴らしい公演を期待しております。