子供の時間 公演情報 スターダス・21カンパニー「子供の時間」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    素晴らしい傑作!
    Truth exaggerated may be falsehood.

    リリアン・ヘルマン『子供の時間』を,阿佐ヶ谷で観た。とても良い演劇だった。スピード感あり,心理描写が卓越していて,たいへん良いものだった。

    ドビー寄宿学校には,美人教師カレン・ライトがいた。結婚も決まっていた彼女には,創設以来の無二の親友マーサ・ドビーがいた。彼女は,どうも男には縁がないようだ。むしろ,カレンと毎日同じものを見て,同じ作業をし,生活をすることが唯一の幸せである。マーサは,どこか変なのだ。女性なのに,カレンしか見ていないのだ。

    子供というものは,動物的感がさえている。だから,このことに大変心を悩ます。一番のお転婆むすめメアリーは,カレンと悉く対立する。あいつは,自分ばかりしめつける。これじゃ息もできないじゃないか。こんな化けものみたいな学校,おばあちゃんに言いつけてつぶしてやるんだ。カレンは,世間知らずで,このような意図になぜか気がつかない。

    あるとき,メアリーは,ロザリーが,外出するのに,黙って友達の「飾りもの」を拝借した現場を目撃する。ようし,あいつは,この弱みで今後アタシの子分だわ。いざとなったら,なんでもあの子のせいにしてしまえばいい。メアリーは,ロザリーをうまく利用して,カレンと,マーサがレズであった!というデマをばらまく。

    この事件を,ティルフォード夫人が膨張させてしまう。やがて,カレンとマーサは,裁判において負けていく。彼らは,学校経営において,平気でほかの同僚を追い出すような自分勝手なひとたちだったので,証言を拒まれてしまったのだ。

    カレンは,恋人との関係もギクシャクしていくのに気がつき,別れを口にする。ここにいたって,カレンにはさほどそのような感情はなかったかもしれないが,アタシには,結構そのような不自然な感情が確かにあったのかもしれない・・・と,マーサが反省をすることになる。マーサは,結局自殺するのだ。

    ネタバレBOX

    Mary told the same lie so often that the public came to believe it.

    『子供の時間』(リリアン・ヘルマン)は,非常におもしろい演劇だった。何が,強く引かれるのか,良くわからない。私が,この演劇が非常に興味深いのは,同じ演劇を観ていても,非常に意見がまちまちなことである。つまり,登場人物になって,関係者となった場合,この事件をどう理解しただろうか,ということとつながっている。

    一番のネックは,主人公のメアリーは,本当のところ,どのような娘だったのだろうか。確かに,カレンは,メアリーに虚言癖があるから,しつけようとしていた。メアリーの,カレンに対する憎悪は,度を越えていた。ごく普通に考えれば,子ども好きで教師になった人は,あそこまで小さな敵対者に,敵愾心を燃やそうとするのだろうか。

    Corichなど,コメントでは,このメアリーには,なぜ厳罰を与えられないのか,という意見があった。しかし,メアリーは,カレンの抱く良家のお嬢様教育観にすごく反発を感じていて,自分を一番の問題児に仕立て上げるやり方に,うんざりしていた。だとすると,メアリーは,窮鼠猫を噛むのような反撃に出ただけかと,思われる。

    この事件は,ある種の教訓だと思う。カレンは,メアリーというしたたかな小娘に,かき回されて,没落していく。カレンは,比較的早い時期に,マーサーとは,手を切っておくべきだった。少なくとも,関係を少しでも希薄にしておくべきだった。自分には,聖職としての教師であるがゆえに,めんどうとは,無縁にしておく方がよかった。

    結論からいえば,たったひとつの子どもの虚言に,人生のすべてを失うようなことがあったとすれば,カレン自身も,この事件を招いたとの厳しい見方をすべきと思う。でないと,次に自分たちは,同じようなミスをし,無邪気な『子供の時間』にいつも翻弄されることになりかねない。『子供の時間』は,残酷な面もあるし,無責任なことも多い。

    いずれにせよ,物語の展開では,メアリーのウソは暴かれ,ティルフォード夫人は,死ぬまで良心の呵責に苦しむという。メアリーのウソは,実は,ウソではない。少し大げさにいっただけで,よくあることだ。同性愛者でない人間は,だれだって,あるとき自分にそのまなざしを向けられると,困惑し,ケースにもよるが,嘔吐すらするものなのだから。

    私のいわんとするところは,ごく普通の常識があれば,この程度の悲劇は,逃避できたはず。むしろ,カレン自身が,思慮不足で,自ら罠にはまっていった喜劇のように思う。イプセン『人形の家』のノーラが,教師にでもなったようなもので,世間知らずで,無防備,でありながら,他人を枠にはめて教育しようとしたのだと。

    ティルフォード夫人が,子どもたちを学校から全員引き揚げたことは,まちがいともいえない。あるべき選択の一つだったと思う。マーサーは,実際,終末で,レズビアンであったと告白している。メアリーに限らず,子どもたちは,恋愛の対象は,男の子であって良いと知っている。マーサーの餌食に,子どもたちだってならない保証はないのだ。

    ちなみに,男の場合でも,最初から,ゲイだと明らかにして近づいて来るとは限らない。ずっと,友情を装い,とにかく近くで舞い,跳ね,じゃれあって,距離をなくそうとする。気が付いたときは,相思相愛にされてゆく。あぶない,と思った時点で逃げないのは,かえって問題を複雑にする。あぶない!と判定するのは,この場合自分なのだ。

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    2014/06/29 01:42

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