満足度★★★★★
こんなオペラがあるのか・・・!
カタルシスとか微塵もない、くらくて、不気味で、寒々しくて、さりげなくグロテスク。
見ていてざわざわしてくる、夢に出て来ちゃいそうな舞台。
こう言っちゃっていいかわかんないけど、まあ面白かった。
オペラを観るの自体がほとんどない自分としては、そもそもこんな表現もオペラとして「アリ」なのか、ってのが新鮮。
無調性のオーケストラ、歌い上げるアリアや迫力のある合唱のかわりに鋭いセリフの応酬や重苦しいうなりのようなコーラス、100分程度の上演だったにもかかわらず観ていて疲れること疲れること(とはいえそういう部分が演劇メインで観ている自分にとってはかなり見やすかったというのも事実かな)。
もっと他にオペラをたくさん観てから、観てみたかったって気持ちもあるかも。
にしても今回の上演、一面に水張った美術とか、照明のドライさとか印象的だったけど、なかでも歌わない役者による黒服の男たちがインパクト大。
歌(セリフ)もなく、匿名性の強い存在が、暗い、でもクリアな照明の中に浮かび上がってきた姿に、もうそれだけで「来る」モノがあった。
そんな彼らが最初の場面転換でびちゃびちゃ音たてながら出てきたところとか、「求職中」のプラカード下げながら黙って黒衣的な作業に従事してたのとか、ぞわっとした。
なにか「人間性」的なモノを剥奪されたように映る彼ら、最後の場面で出てくる子供たちすら同じ衣装であったのとか、いい感じに後味が悪い。
終盤、ヴォツェックが妻を刺殺すシーン。
歌われてる「赤い月」を観客に視覚として見せないっていうのは、ヴォツェックの心情、ってか抱えてるエネルギー的なモノってのをそう簡単に理解されてたまるか、っていうメッセージなのかな?などと考えたり。
自分たちの「神」から見放されて生きるしかない彼ら。
でもそうして転げ落ちていく姿の中に、その地平から始めるしかない姿の中に、「人間そのもの」の可能性を探っていこうとする、そんな意思を感じたのが印象的。
※ しかしまあ、劇中、客席でアラーム鳴っちゃってたのはアレだったなあ・・・^^;
あーしみたく、安売りだったチケットでのお客さんだったんかな?
満足度★★★★
アンドレアス・クリーゲンブルク演出
貧困が人間性を奪い、次世代も暴力の泥沼から逃れられない。水浸しの床に箱型の空間を浮かせた動的な美術に、グロ系スチームパンクの衣装も強烈…!悲惨な話がさらに悲惨に、凄惨に…。オペラだけど社会派かつ戦慄ホラー(笑)。オペラといえば「古典」の印象もありますが、演出でヴィヴィッドな現代性を持つものなんですね。
満足度★★★★★
貧困による破滅
貧しさから身を滅ぼしてしまう男を描いた、オペラと聞いて一般的にイメージされる様な華美なイメージとは無縁の作品を大胆なヴィジュアル表現で演出し、演劇としてもインパクトがありました。
舞台全面に数センチメートルの深さの水が張ってあり、その上空に吊られた巨大な部屋が前後・上下に移動する斬新な舞台美術の中で物語が展開し、主人公とその近しい者以外は奇怪な出で立ちで、ヴォツェックが狂っている様に見えるが実はヴォツェック以外が狂っているのではないかと表現している様でした。
黒いスーツに帽子姿のアンサンブルがパンやお金がばら蒔かれる度に水しぶきを上げて拾いあげようとしたり、鼓手長や楽隊が乗るステージを持ち上げて歩いたりと権力に支配された貧乏な庶民達を象徴していました。酒場のシーンでは髪が薄く白塗りのメイクにすすけた衣装でゾンビの様な人々が群れていて不気味でした。
ヴォツェックとマリーの子供が本来登場しないシーンでも舞台上にいて、端で佇んでいたりペンキで壁に単語を書いたりするのが、この作品が持つ救いの無さを強めていました。最後のシーンで登場する児童合唱も黒いスーツに帽子の姿で、貧困が子供の世代に連鎖することを象徴していたのが印象的でした。
音楽は無調で親しみ易い旋律が皆無ですが、調性のある音楽では表現出来ない緊張感や不穏感が出ていて、所々で現れる調性感のあるハーモニーが際立っていました。舞台裏で演奏する軍楽隊や、舞台上で演奏する酒場の楽隊、ピアニスト(わざと調律を狂わせたピアノを演奏)が狂気で歪んだ世界を描いていて効果的でした。
ヴォツェックを演じたゲオルク・ニグルさんの狂気に侵されて行く演技が素晴らしかったです。