粛々と運針 公演情報 粛々と運針」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.2
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  • 実演鑑賞

    劇場内に入り、最初に目に飛び込んできたのは、銀色の巨大な輪が吊られた舞台美術でした。初演は新宿眼科画廊とのことで、空間性を考慮すると、舞台美術は全く別物でしょう。これは、今回の舞台美術で観劇した後だから感じたことですが、舞台美術がここまで大きく変わると、観客の観劇体験は全く変わってきます。無駄のないシンプルな舞台美術が作品の魅力に大きく貢献していました。

    ネタバレBOX

    その巨大な輪の後方には階段がふたつあり、舞台を見下ろすような高い位置に座った白い衣装を着た二人の登場人物が縫い物をしています。ワイヤーが降りてきて、巨大な輪が斜めに傾いた状態になると、別の登場人物が二人出てきて、会話が始まります。巨大な輪の内側はどこかの家で、後方の階段とは別空間のようです。

    物語は、序盤から中盤程度まで、とある夫婦、とある兄弟、の二組の会話で進んでいきます。夫婦は「妊娠したかもしれない新しい命を、産むか、産まないか」について。兄弟は「癌で入院中の高齢母親の延命」について、そして「母親に見せてあげたい孫の顔(=新しい命)」について、議論を続けます。中盤以降は、後方にいる二人も会話をします。この白い衣装の二人が、兄弟の母親であり、宿った新しい命を象徴する存在であることが、徐々に分かってきます。二人の会話劇が三組、それらが入り組んで構成された立体的な会話劇、という捉え方で観ました。

    夫婦と兄弟は、基本的に相対する意見を持っており、その議論が会話の中心。それは「すれ違う」というより、根本的に思想や立場が異なる議論であり、着地点を見つけるのはかなり困難な状況。それでも、何とか着地点を見つけようと対話は続くーー。

    全体の構成、会話の展開、俳優の存在感、そして舞台美術などが組み合わさった、演劇としての総合力は高いと感じます。個人的にはそれだけで十分見応えがありました。ただし、劇中で描かれる「命に関する価値観」が自身と合わず、あまり観劇に集中できなかった観客もいらっしゃるかもしれません。ですが、僕個人が作品から感じたことは、価値や倫理の提示、あるいは、価値や倫理の正解を描くことではなく、話し合いの場そのものを描く、その場を提供しようとする「試み」でした。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「コミカルに倫理を問う対話劇」

     2017年の初演以来再演を重ねている横山拓也の代表作を上田一軒が演出した

    ネタバレBOX

     客席に座りまず目に入った大きな銀色の輪っかと、舞台後方の白い布がかかった二つの高い段が静謐な空間を形作っている。やがて開演するとその輪っかが客席に向けて斜めに動き、脇にある台に腰掛けている俳優たちがそのなかで芝居をするという形式で物語が進行していく。

     子どもを持たないと決めて結婚した田熊應介(中山義紘)と沙都子(佐々木ヤス子)夫妻は、沙都子の懐妊の兆候によって関係にほころびが生じる。他方で病床の母親を見舞う築野一(花戸祐介)と紘(鈴鹿通儀)の兄弟は、実家の整理や今後について話し合う。この二組のやりとりを舞台後方の段から結(林英世)と糸(鄭梨花)が裁縫をしながら見守っている。生まれゆく命と消えゆく命を巡る双方のやりとりが、人間の醜くエゴイスティックな一面を浮かび上がらせる。

     深刻な題材ながらコミカルでテンポのいい会話は本作の大きな見どころである。関係性の薄い夫婦と兄弟の対話を積み重ね途中から交錯させる作劇や、終盤明らかになる結と糸の正体に、時間と空間を自在に行き交う演劇の特色が生きていた。ただしやや牽強付会で観終わってからもどこかぼんやりとした印象もまた残った点も付記しておきたい。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2026/04/12 (日) 13:00

    座席1階

    宿ったかもしれない命、消えていくことを決断した命。2つの家族の物語が融合していく見事な会話劇だった。極めて緻密に練られたと思われる脚本、そして構成。8年前の初演というこの舞台は、いまも輝いている。

    3度目の上演で、台本をチェックして練り直し、これまでとは趣きの違う演出がなされたという。自分は今回が初見だが、生と死をクロスさせる2人の女性を階段で上がる高い位置に置き、時計の針を進める踊り場とした舞台装置は見事だった。

    物語は母親が命に関わる病で入院した二人の息子、子どもは作らないという前提で家を新築した夫婦の会話が交互になされる形で進行する。その中で、それぞれが置かれた立場、胸の中にしまい込んでいた思いが少しずつ明らかにされる。同時進行だから、物語の進行のスピード、セリフの分量などをかなり綿密に考えて組み立てたことが伝わってくる。

    横山劇の特徴である、世相をうまく捉えた群像劇が今作では映えた。親密な間柄であっても、血を分けた兄弟でも、実際に言葉に出さないと相手には通じないし、思いを受け取ることはできない。それは言葉をまだ持たない生まれようとする命にも、これまで懸命に生きてきた命にとっても同じである。リアリティが涙を誘う、秀作と言ってよい。
    これが当代人気劇作家の原点かな、とも思った。三鷹まで遠征しても絶対に損はない。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2026/04/11 (土) 13:00

    なんという台詞劇だろう。芝居を観ていることを一瞬忘れる。
    よその家族をのぞき見しているような変な緊張感。
    登場人物全員に共感してしまう。
    理解してもらえないもどかしさに息苦しさを覚える。
    脚本と演出、役者陣のすばらしさに圧倒された95分。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    幾何学的なデザイン。ステージと客席はシームレス。大きな円形の輪っかが天井から吊り下げられている。バックには左右から登る階段と中央の谷間、その上に白く長いシーツが被さってM字を描いている。開演すると円形の輪っかが斜めに降りて来る。階段を登って鄭󠄀梨花(チョン・リファ)さんと林英世さんが左右に腰を下ろし、白い布を手に取り縫い物を始める。チクタクチクタクと。運針=並縫い。輪っかの下りた中央がステージ。その外では椅子に座って出番まで待っている役者達。

    中山義紘(よしひろ)氏と佐々木ヤス子さん夫婦の物語。オカマを掘られて首にコルセットを着けている中山義紘氏。夢だった一軒家を建てローン返済の為にもバリバリ働く佐々木ヤス子さんは課長代理38歳。家の周囲で子猫の声がする。猫を見付けたい。中山義紘氏は小動物が苦手で見付けた所でどうするの?と口論になる。変な空気。佐々木ヤス子さんはある相談をする。

    花戸祐介氏、鈴鹿通儀氏兄弟の実家。家を出て結婚もしている弟と40過ぎても高校出てずっとコンビニのバイトを続けているだけの兄。母親が膵臓癌で入院、手術が必要。本人は尊厳死を望むと言う。それに肯定的な弟と絶対に許せない兄の口論。

    三組の会話が並行して語られる。
    佐々木ヤス子さんは38歳設定にしては若すぎる。井上貴子と福田麻貴をフュージョンさせたような感じ。凄く魅力的な女優。
    中山義紘氏は村野武範の若い頃みたい。

    テーマは「生と死と自分と他人」。ずっと自分のことも含め考え続けてしまうような舞台。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    運針の手を止め、林英世さんが鄭󠄀梨花さんに話すのは実家の川沿いに立つ桜並木の思い出。春に満開の桜が咲き誇り桃色の花びらが風に舞って飛ぶ様。川に降り落ちる花びらを筏に乗り法被を着た職員が笊で掬う風物詩。今では桜の樹は全て切り倒され川にはフェンス。当時の面影の欠片もない。個人的にはこのエピソードが一番好き。

    花戸祐介氏が母親に孫の顔を見せてあげたいからと弟に子作りを求める。その論理に無理があってイマイチのれない。(作品展開上の都合みたいで)。

    佐々木ヤス子さんの抗弁が光る。世間的に「正しい」とされていることは果たして「正しい」のか?観客が求めるのは所謂「正しさ」のハッピーエンド。それで安心する。だがそれは思考放棄した所謂「正しさ」、現実とは繋がらない。嘘じゃなく本当が欲しいんだ。

    生きている人間の世界外にいる存在がチクタクと時間を縫って進めていく。どんな答が出ようが出まいが時間だけは過ぎていく。100%の正解なんて何処にも見付からないまま、小さな選択を繰り返して生きていく。それが正しかったのか間違っていたのかさえもう誰にも解らない。

    まだ産まれてもいない鄭󠄀梨花さんの存在が微笑ましい。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2026/04/09 (木) 19:30

    95分。休憩なし。

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