粛々と運針 公演情報 iaku「粛々と運針」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    劇場内に入り、最初に目に飛び込んできたのは、銀色の巨大な輪が吊られた舞台美術でした。初演は新宿眼科画廊とのことで、空間性を考慮すると、舞台美術は全く別物でしょう。これは、今回の舞台美術で観劇した後だから感じたことですが、舞台美術がここまで大きく変わると、観客の観劇体験は全く変わってきます。無駄のないシンプルな舞台美術が作品の魅力に大きく貢献していました。

    ネタバレBOX

    その巨大な輪の後方には階段がふたつあり、舞台を見下ろすような高い位置に座った白い衣装を着た二人の登場人物が縫い物をしています。ワイヤーが降りてきて、巨大な輪が斜めに傾いた状態になると、別の登場人物が二人出てきて、会話が始まります。巨大な輪の内側はどこかの家で、後方の階段とは別空間のようです。

    物語は、序盤から中盤程度まで、とある夫婦、とある兄弟、の二組の会話で進んでいきます。夫婦は「妊娠したかもしれない新しい命を、産むか、産まないか」について。兄弟は「癌で入院中の高齢母親の延命」について、そして「母親に見せてあげたい孫の顔(=新しい命)」について、議論を続けます。中盤以降は、後方にいる二人も会話をします。この白い衣装の二人が、兄弟の母親であり、宿った新しい命を象徴する存在であることが、徐々に分かってきます。二人の会話劇が三組、それらが入り組んで構成された立体的な会話劇、という捉え方で観ました。

    夫婦と兄弟は、基本的に相対する意見を持っており、その議論が会話の中心。それは「すれ違う」というより、根本的に思想や立場が異なる議論であり、着地点を見つけるのはかなり困難な状況。それでも、何とか着地点を見つけようと対話は続くーー。

    全体の構成、会話の展開、俳優の存在感、そして舞台美術などが組み合わさった、演劇としての総合力は高いと感じます。個人的にはそれだけで十分見応えがありました。ただし、劇中で描かれる「命に関する価値観」が自身と合わず、あまり観劇に集中できなかった観客もいらっしゃるかもしれません。ですが、僕個人が作品から感じたことは、価値や倫理の提示、あるいは、価値や倫理の正解を描くことではなく、話し合いの場そのものを描く、その場を提供しようとする「試み」でした。

    0

    2026/04/16 19:12

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大