帰還の虹 公演情報 帰還の虹」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
1-5件 / 5件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    以前一度だけ観たタカハ劇団はやはり「戦争」に関わる題材を扱ったタイムリープ物であったが、リアルに難あり(タイムリープそれ自体よりも人間関係や行動の動機等に)。ストレスな観劇であったが、本作では人物の口から自然に出てくる台詞によりリアルが積み上がっていた。
    舞台は都心から離れた田畑の広がる郊外に移り住んだ画家・藤澤の家屋。正に戦時中の「当局」を意識する画家たちの姿や、夫を召集された女とその弟ら地元の者たちを通して、時局の肌感覚にある程度迫れており、物語世界に入りドラマを堪能する事ができた。主役の藤澤はフランス帰りの著名画家で戦争画の製作に勤しみ、妻キヨ子のヒスにも悩まされている。藤田嗣治がモデルに違いないが、二人の画家仲間、その一人が連れて来る見込みのある弟子(乞われて書生として住まわせる事になる)、時折アトリエを訪れる軍人により、架空の物語が進行、兵役を逃れている高等遊民の階層特有の空気感がある一方、地元の女性が女中に雇われ(夫は出征中)、その弟も力仕事で出入りし庶民の空気も行き交っている。途中若者同士(女中の弟と書生)の会話がまるで現代日本の都会の一角で(否舞台の上で)聴けそうな会話で、笑わせ所を作っていたが、この部分はじっと過ぎ去るのを耐えた。
    幾つかの軸がある。戦争協力をしてでも画家は絵を描くべきと主張する藤澤と、それに耐えられず離脱していく画家内山(吉田亮)、むしろ軍人に取り入るのに汲々とする画家熊本(津村知与支)、その狭間でもう一人の主人公である書生貞本(田中亨)は揺らぐ。彼を揺るがすもう一人が藤澤の妻キヨ子であるが、彼女は「自分だけを書いていたパリ時代の彼」を最も彼らしい姿とし、戦争画を憎んでいる。もう一つは弟孝則に赤紙が来た事で爆発する女中ちづの訴え・・彼は一度出征して手を負傷して銃の引き金も引けない。貴方がたは偉い方たちと懇意にされているのでしょう、そうやって兵役を逃れて自適に暮らしているのに、自分らは暮らしもままならず、召集も二度かけられる。どうか行かないで済むように頼んで下さい。ダメなら貴方が息子の代わりに徴兵されて下さい・・!
    そして劇の山場を作る軸・・終盤になるにつれ藤澤が不審な挙動を示し、いつも出掛けてばかりいるが、何度かアトリエを訪れたあの軍人とつるんでいるらしいとの噂。彼が作製中の大判のキャンバスは開幕以来、ずっと布が掛けられたままアトリエの隅に置かれているが、ある夜藤澤は書生の貞本にこれを見せる。それは件の軍人がかつて味わった屈辱的で凄惨な敗北に終ったノモンハン事件で観た光景であり、藤澤は秘密裏にこれを描いていた。すなわち「本当の戦争とは何か・・」のテーマ。公式の歴史から排除されたその事実を刻み、残したい願望をその軍人は抑えられないと語る。これは画家が持つ「絵を描く」本質的な欲求に通じてもいる。
    このことは現実には、真実を伏せ美談で釣って若者を戦場に駆り出している構図に連結するが、その罪深さについて語るのは軍人ではなく、「赤」との接触をしていた画家・内山。彼は憲兵からの暴行で腫れあがった顔で、熊本に連れられてアトリエへ逃れて来るが、程なく例の軍人が現われ、逃亡は不可能である事、仲間が全て検挙された事でお前を拷問にかける必要が無くなった事が告げられる。教え子(書生の貞本)に最後の言葉を掛けると、彼は炭鉱へと連れ去られる。
    終章、赤紙が届いたことを知らせる母から手紙を書生は受け取り、最後の時を与えられる。ようやく彼は(物資不足で絵具がなく暫く描かなかった)油絵を、僅かに残されたその時に描こうとする。師匠藤澤が依頼され描いていた地獄絵図の大キャンバス(舞台上では額縁のみ。中は繰りぬかれている)に、絵ごてを当て、暗転となる。
    ストーリー上回収され切れてないものは幾つかあるが、胸に迫る幾つかのシーンの欠片が残る。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2025/08/12 (火) 19:00

    戦争画を扱った秀作。重い題材で迫力ある舞台になっていた。(2分押し)113分。
     2014年に下北沢駅前劇場で初演された作品の再演で、初演も観てるがよく覚えていなかった。1944年を舞台に藤田嗣治(劇中では藤澤元善・古河耕史)を取り巻く、戦争画に関わる人々のあれこれ。笑いを誘う熊本(津村知与支)という存在はあるものの、題材は重く特に終盤はシリアス。絵画(さらに芸術)と戦争の関わりについては、登場人物それぞれの正しさがあり、どれも頷けるものだし、どれが正しいと言えない面がある。役者陣も素晴らしかったという前提で、高羽の脚本がいい。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    高羽彩の旧作である。最初は旧作とは知らなかったが、10年も前にこれだけのものを書いているのに、去年だかに見たヒトラーの出てくる作品は、まぁもう二度と見たくない作品だった。波があるのは仕方がないが、これは人物設定も、時代設定も面白く出来ていて二時間あまり面白く見られた。
    物語は太平洋戦争の末期。芸術家として、徴兵を免れた画家が四人、満州開拓で空き家になった農村の空き家に憲兵大佐の見張りのもと住んでいる この四人の組合わせが、図式的といえばその通りなのだがドラマ設定としては上手い.まずフランス帰りの戦争画の大家。絵に関しては何を書かせても上手い、今は時局便乗。次ぎに共産党崩れ。さらに自らの限界を知っている現実派。大家のモデルだった時局達観型の女(護あさな)。家に付いている家政婦とその家族。
    戦争時の芸術家の生き方をそれぞれに託している。
    幕開きから、メインの場面になる大家のアトリエに白布をかぶったおおきなカンバスが置かれていて、何かというと、そこへ観客の目が向くように作ってある。その謎を最後までひっぱっていく。これが、戦争と芸術家の葛藤というところに落としていくのはいいとしても、結局は個人の思いになっているところが弱い。(まぁこれでもいいのだが、これでは娯楽作になってしまう。そこがこの作品の焦点だろう。折角冒頭から画家たちや地元農民・市民、憲兵など、戦後生まれの本の知識だけで書いているにしてはかなりうまく出来ているのに、もっと、戦争と芸術というテーマに直面した芸術家、市民というものに迫らなければ、三好十郎に勝てない。これからは知らないものの強みで戦わなければならないが、アフタートークで出てきた戦争記録の映像作家の作品共々、これではまるで実感が出ていない。色つき立体映像と復元再生音声だけで再現が可能で、演劇に勝てると思っているところも同じで、人間のない面を舞台で見せなければただの面白いお話の絵解き絵本で風化していくだけだ。そこは前に見たヒトラーの話と同じ安易さである。)
    と悪口に落ちていくが、いいところは、小劇場でよく見る役者たちがガラも生かして、画家四人など、小劇場らしい面白さも出している。高羽の演出については、そのつもりで見ていなかったが、演出の方がいいのかもしれない。女優も始めて見る人だが、男どもを押さえてタカラヅカばりにちゃんと演じきっている。


  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2025/08/09 (土) 14:00

    座席1階

    よく練られた戯曲だった。セリフの一つ一つがシャープで、戦時に生きた画家たちの無念が突き刺さってくるようだった。高羽彩自身はパンフレットで「戦争の話を書きたくないんです」と述べているが、劇作家として書かねばならないと強く感じていたのだろう。登場人物のそれぞれに物語があり、胸に秘めた思いがあり、スポットが当たる場面が丁寧に作られていた。

    冒頭、渡仏していた画家の妻の問わず語りから始まる。この人自身にも葛藤の物語があるのだが、狂言回しの役も与えられている。これが一連の流れをぐっと引き締めている。登場するのは3人の画家、書生として入った画家見習い。お手伝いさんとその弟、画家に戦争鼓舞の作品を書かせる役の陸軍中佐。おそらくどの画家も軍部に押し付けられた戦意高揚の絵など描きたくないと思っているが、舞台の前半では皆、その思いをストレートに外には出さない。
    舞台上には大小さまざまなキャンバスがしつらえられているのだが、その中でもひときわ大きく、布がかけられている対策が物語のカギを握る。舞台後段でそのなぞ解きがなされるのだが、こうした構成はタカハ劇団の過去作「美談殺人」でもあったように記憶する。客席を惹きつける仕掛けは今回も奏功している。
    絵画や文学、演劇など文化作品まで戦時体制一色に染められたこの時代。どうしたら繰り返すことがないようにできるのか。今作などを仕上げるために歴史を勉強しているという高羽がパンフレットで述べている一言に注目したい。

    ぜひ、目撃したい快作だ。舞台上の手話通訳や客席で使うモニターなど、耳が不自由な人も楽しめる配慮がなされている。


  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    優れた台本で単純でない人物像が良い。この物語の画家は芥川龍之介の「地獄変」を思わせる。

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