新ハムレット 公演情報 新ハムレット」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    深刻劇や英雄譚のようにとられるハムレットを、ただの世慣れない反抗的若者に変えて見せた。それは自負と自己嫌悪がない混ざった太宰治その人の分身なのである。だからハムレットは「自殺 苦しみから逃れる方法はそれだけなのだ」「よってたかって僕を機違いにしようとしている(バビナール中毒事件!)」とごちる。それを、クローディアスは「国のため)君の実感を欺いてください」といさめ、「先王が生きてていれば先王に反抗している。先王を軽蔑し、てこずらせているでしょう」と見抜いている。一場の二人のやり取りだけでも、太宰治の才能は明らかであり、五戸真理枝のカット・演出はよくできていた。

    レアチーズ(駒井健介)は屈託のない陽気な青年、ポローニアスはただの子煩悩の好々爺である。これはハムレットの家族と対照的。ただポローニアスは次第に舞台回しへと役割を上げていき、王を試す芝居もポローニアスの発案で行われる。太宰版ハムレットはそんな人物ではないからの選手交代である。

    男優陣が好演。とくにポローニアスの池田成志は、この芝居の中軸を担って力演だった。ハムレットの木村達成もこんなにうまい俳優とは知らなかった。立ち姿もセリフも、感情のニュアンスもいい感じだった。平田満も、出番はこの二人に比べて少ないが、渋い苦労人ぶりがよく出ていた。唯一、家族外・宮廷外の人間であるホレーシオの加藤諒は、舞台をかき回すトリックスターで、ユーモアとデフォルメがよかった。

    太宰自身が「上演するための戯曲ではない」と前口上しているように、原作はそれぞれのセリフがとんでもなく長い。小説は人間の内面を語るためのものだということがよくわかる。特に一人称小説はそうだ。五戸真理枝さんは舞台用にうまく刈り込んでメリハリをつけた。編集はさすがだった。

    ネタバレBOX

    先王殺しはうわさに過ぎないようだが、ポローニアスの「私は見たのです。見たのです」(何を見たかは不明)の執拗な攻めに、さしものクローヂヤスもキレて刺し殺してしまう。太宰の改変悲劇である。ただ、クローヂヤスがシロなら、騒いでいるだけでポローニアスを殺すのは行き過ぎでは? 殺すということは「クロ」なのかという疑いも起きる。実はクローヂヤスの容疑はグレーのままと言えるだろう。(本人は「一度頭で考えただけ」というが、それも当人の弁でしかない)

    ガーツルードが(オフィーリヤのかわりに)池に身を投げるのも、少々苦しいつじつま合わせでしかない。(「ハムレット」なのだから、もう少し人が死なないと、という)

    しかし家庭の悲劇が高まったちょうどその時、大音響とともに「戦争」が始まる。なんと! 原作の出版は1941年7月。すでに日米開戦は必至と思っていたのだろうか。舞台でも中央の赤丸を大きく右にずらした日章旗もどきが掲げられ、クローヂヤスのカーキ色の服の胸にも同じ日の丸もどき。小さな悲劇(王家だけど)を、国家の暴力が飲み込んでいく様は、シェイクスピアのノルウエーの進軍をもとにしながら、それを超えた。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    太宰治はせりふがうまいなぁとつくづく思う。テキストは大幅(といっても半分くらいになっている感じだが)にカットされているが、台詞もスジも原作通りである。
    演出の五戸真理枝は新人ながら昨年大活躍で、「貴婦人の来訪」も「毛皮のヴィーナス」も面白く見たので大いに期待して観にいった。
    舞台は上手から下手にかけて、灰色の長い廊下、下手に行くほど広がっている六体画風。上手中央に玉座が二つ。王(平田満)と王妃(松下由樹)の座である。ハムレットは木村達成、オフィーリア(島崎由香)彼女の父ボローニアス(池田成志)、兄ホレーショー(加藤諒)。原作に起きる事件では、叔父の父親殺しをハムレットが解く、くだり、ハムレットとオフィーリアの恋愛沙汰(遂にオフィーリアは妊娠してしまう)、王権の中の忠誠争い、先王の幽霊の出現の噂(だけで現実には出てこない)、芝居による真相究明など、見ていればどの場のパロディだかはよくわかるが、物語はまったく原作と違う変な方向に進んでいく。
    太宰は、ハムレットを素材にその頃の時代風俗で、ないかと建前にこだわる西欧名作をからかってみたかったのだろうが、寝転んで原作を読む限りはなかなか面白い。太宰の各人物に対する突っ込みもさすが言葉がうまいのでで、大笑い。かつて、白石加代子の百物語で「かちかち山」を見て爆笑したことがあったが、声に出して面白い言葉(台詞)なのである。ところが、せっかく戯曲体で書いてあり、五戸の上演用のカットも的確なのだが、いざ、舞台で見るとわざわざ木村の資質を生かそうとラップまで入っているが弾まない。むしろ深刻な家族葛藤劇。見る前は爆笑喜劇になるに違いないと観にいったのに当て外れ、パンフレットを買って読んでみると、皆さんずいぶん真面目にこの作品に取り組んでいらっしゃる。期待の新人演出家も、この作品から人生の教訓を受け取ろうと、下北半島を三里も歩いたと? それはちょっと、と半分しか入って居ない観客席の一人は思った。


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