実演鑑賞
満足度★★★★
太宰治はせりふがうまいなぁとつくづく思う。テキストは大幅(といっても半分くらいになっている感じだが)にカットされているが、台詞もスジも原作通りである。
演出の五戸真理枝は新人ながら昨年大活躍で、「貴婦人の来訪」も「毛皮のヴィーナス」も面白く見たので大いに期待して観にいった。
舞台は上手から下手にかけて、灰色の長い廊下、下手に行くほど広がっている六体画風。上手中央に玉座が二つ。王(平田満)と王妃(松下由樹)の座である。ハムレットは木村達成、オフィーリア(島崎由香)彼女の父ボローニアス(池田成志)、兄ホレーショー(加藤諒)。原作に起きる事件では、叔父の父親殺しをハムレットが解く、くだり、ハムレットとオフィーリアの恋愛沙汰(遂にオフィーリアは妊娠してしまう)、王権の中の忠誠争い、先王の幽霊の出現の噂(だけで現実には出てこない)、芝居による真相究明など、見ていればどの場のパロディだかはよくわかるが、物語はまったく原作と違う変な方向に進んでいく。
太宰は、ハムレットを素材にその頃の時代風俗で、ないかと建前にこだわる西欧名作をからかってみたかったのだろうが、寝転んで原作を読む限りはなかなか面白い。太宰の各人物に対する突っ込みもさすが言葉がうまいのでで、大笑い。かつて、白石加代子の百物語で「かちかち山」を見て爆笑したことがあったが、声に出して面白い言葉(台詞)なのである。ところが、せっかく戯曲体で書いてあり、五戸の上演用のカットも的確なのだが、いざ、舞台で見るとわざわざ木村の資質を生かそうとラップまで入っているが弾まない。むしろ深刻な家族葛藤劇。見る前は爆笑喜劇になるに違いないと観にいったのに当て外れ、パンフレットを買って読んでみると、皆さんずいぶん真面目にこの作品に取り組んでいらっしゃる。期待の新人演出家も、この作品から人生の教訓を受け取ろうと、下北半島を三里も歩いたと? それはちょっと、と半分しか入って居ない観客席の一人は思った。