舞台芸術まつり!2018春

壱劇屋

壱劇屋(大阪府)

作品タイトル「二ツ巴-Futatsudomoe-

平均合計点:22.4
川添史子
鈴木理映子
高野しのぶ
橘 康仁
山﨑健太

川添史子

満足度★★★

台詞なしで、役者の演技と殺陣で物語を見せていく構成に驚きました。キレのあるアクションシーン、くっきりとした輪郭のキャラクターたち、そこに親子のつながりといった普遍的なテーマを絡め、盛りだくさんの内容は満足度が高く、創意工夫のあとが見えました。複雑な手で考えられた殺陣も面白い。ただ動きがなく表情だけで見せる場面は時に再現ドラマのように見えることがあり、演劇/生のパフォーマンスを観る感覚から離れる瞬間があり、課題を感じました。NMB48の久代梨奈さんの動きが素晴らしく、アイドルのポテンシャルを再確認。ゲスト赤星マサノリさんの身体能力も堪能しました。あ・うんの呼吸の見事なアフタートーク、商売魂みなぎる物販まで、観客を楽しませることに徹した劇団力は特筆物です。

鈴木理映子

満足度★★★

「ノンバーバル(ワードレス)でもここまでできるのか!」と「やっぱり限界があるなぁ」と、両極の感想を同時に感じた観劇でした。言葉がなくても基本的なストーリーは無理なく理解できる一方、人間関係が入り乱れ、さらに殺陣に突入すると、正直その一太刀ひと太刀の背景、理由が読み切れなくなってしまいました。殺陣が軸になる芝居なので、息もつかせぬアクションの一方で、よりドラマのある一太刀もみせてもらえると印象が深まったのではないかと思います。また、もし、それが台詞なしで可能になるとしたら……それは大変な発明にもなりうるのではないでしょうか。

もちろん、エンターテインメント性と表現力を持った身体(俳優)が次々と登場する展開は鮮やかで爽快感がありました。アンサンブルキャストによる水の表現なども(アンサンブルは終始同じ格好なので、敵味方を始めとする役割の変化が分かりづらい面もあったのですが)面白く拝見しました。

人力で、汗を書いて表現する、直球のエンターテインメントに挑んでいると感じました。

ネタバレBOX

舞台をよく知るベテラン勢の中、NMB48のお二人も健闘されていたと思います。特に久代梨奈さんは身のこなしがよく、軽すぎない、骨太の存在感を見せてくれました。また、谷川愛梨さんも華奢ながら芯の強さを見せる演技ができていたのではないでしょうか。
ひとつだけ、注文があるとすれば、不慣れな殺陣では、ともすれば手数に追われ、顔がうつむきがちになる気がします。お嬢様的な役柄の谷川さんのロングのヘアスタイルは、久代さんとの対比という意味でもよかったと思いますが、もう少し顔を見せる工夫もあるとさらに素敵だったのではないかと感じています。

高野しのぶ

満足度★★★★

作・演出・殺陣・出演の竹村晋太朗さんによる前説で少しばかりの設定解説はあったものの、「劇中に台詞は一切無し!wordless殺陣芝居!」という宣伝文句に偽りのない娯楽大作でした。NMB48という女性アイドルグループの2人(久代梨奈、谷川愛梨)が主演ですが、“アイドルとそのファン向けの舞台”にはなっておらず、幅広い客層に届く内容で大変楽しませていただきました。

終演後の物販はやはり長蛇の列。商品も充実していて、劇団員らののぼりで装飾されたロビーは艶やかでした。

ネタバレBOX

主(岡村圭輔)とその姫君トモヱ(谷川愛梨)、農夫(竹村晋太朗)とその娘ともえ(久代梨奈)という2組の父娘をめぐる物語です。
渇水が続く村では主の命により、人柱として若い女性が生き埋めにされています。トモヱとともえの身代わりになって農夫が人柱になり、2人は生き延びますが、ともえは父を見捨てた主を許せません。彼女は水神(赤星マサノリ)の剣を手に入れ、剣の達人になり主と対峙します。

一方、都の宰相である久沓(大熊隆太郎)は、大剣を使う我斜(小林嵩平)と弓を操る戸笈眼(西分綾香)を部下に従えて、国を乗っ取ろうと奸計をめぐらしています。次から次に強敵を上回る強敵が登場し、必殺技を超える技が繰り出される展開は、まるで人気少年漫画やロールプレイングゲームのようにサービス満点でした。

舞台を横切る太鼓橋とその両端に続く上下(かみしも)の階段がある舞台装置で、アンサンブルの俳優たちが半透明の大きなビニールを使って水の動きを表現します。ビニールは場面転換や時間の経過を表すのにも適していました。

CGゲームのキャラクターのようなヘアメイクと衣装が贅沢で、武器などの小道具も凝っています。ムービング照明が派手で良かったです。音響は客席の椅子にビリビリと振動が伝わるほどの大音量で、情感たっぷりの音楽がハードロック調に切り替わるのが鮮やか。音楽で物語の背景や意味を補完するのは、少々やりすぎかなと思うところはありました。

我斜が大ナタを振るって二刀流になったり、戸笈眼が一度に5本の矢を放ったり、戦法がグレードアップするのが楽しい!久沓は実は呪術使いで、人々を意のままに操り、死んだ者たちがゾンビになって蘇るのもまた楽しい!

水神は人間の体に乗り移って可視化され、地上に現れます。ともえの死んだ父も同様に、誰かの体に乗り移って登場するのですが、演じる俳優の動きがシンクロすることで、それがわかる仕掛けになっています。矢の動きを手で表すというアナログな見せ方も素晴らしく、ファイト・コレオグラファーとしての竹本さんの力量は色んな場面、公演で発揮してもらいたいと思いました。

ラストで父娘が闘う意味がわからなかったこともあり、終盤の10分間ほどはカットしてもよかったんじゃないかと思いました。パフォーマンスで見せる公演は腹八分目がいい塩梅ではないかと、個人的には思います。

ともえ役の久代梨奈さんは動きがとても俊敏で、たとえば一瞬だけ首を後ろに引いて敵の攻撃をかわす仕草に魅せられました。ヒロインとしての華もありドキドキさせられました。
我斜役の小林嵩平さんはただ立っているだけで強そうでしたし、刀裁きからは風の音が聞こえるようでした。

橘 康仁

満足度★★★★★

台詞なしの殺陣芝居でとても面白かった。MNB48の二人を起用し、いわゆるプロデュース公演な感じだが、東洋的な世界観も入っており外国人にも観てもらえるものにできそう。

山﨑健太

満足度★★★

エンターテイメントとして面白く見た。布を使った水の表現や人力で矢を飛ばす演出も、一歩間違えばチープになりかねないところをカッコよく見せていて◎。少年マンガ的な敵キャラや武器、必殺技(?)も楽しい。
一方、物語には疑問を感じるところも多い。言葉なしでやるのであればもっとシンプルな筋でもよかったのではないだろうか(そもそも言葉なしでやる必要性もよくわからないのだが……)。特に疑問なのがラスト。

ネタバレBOX

争いを止めるためとは言え、トモヱに主(=トモヱの父)を殺させるというのはあまりにともえとともえの父の都合でしかない、トモヱの気持ちを考えていない解決ではないだろうか。トモヱからして見ればともえ父娘が揃ってトモヱを騙して父を殺させている(いやその前に一度死んではいるのだけど)わけで、万が一トモヱが真相を知ったら新たな復讐劇がはじまってしまうのでは、と余計な心配をしてしまった。

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