ミナモザ(東京都)
作品タイトル「Ten Commandments」
満足度★★★
「原子力」という、現在日本に住む多くの人が興味を持ち、語るべき主題を持って来たことがまず素晴らしいと思いました。内容としては、“その近さと遠さ”を迷いも含めて率直に提示していて、その正直さは好感の持てるものでした。ただもう少しこの題材が作家の腹に落ち、「書ける」と思ってからあたってもいい作品だったのかな?と感じられ、クリエイション途中のものを観ている印象。俳優達は魅力的でした。
満足度★★★
世の中には容易には解決できない、立場を決することもできない命題があります。
「原子力」を通して、人間の夢や欲望、性質に迫ろうとしたこの作品もまた、こうした命題に果敢に挑んだものだと思います。
主人公の女性は、言葉を失った劇作家。言葉を紡ぐことで生まれてしまう欺瞞、取り返しのつかない事態への抵抗や恐怖のために口を噤む彼女は、しかし、未来へ向けた手紙を書き綴っています。作・演出の瀬戸山美咲さんの表現者としての葛藤がそのままに投影されたと思われるこの女性のありようは、あまりにも真摯で、見方をかえれば、ナイーブにすぎるともいえるでしょう。加えて、「みえない雲」やレオ・シラード「十戒」を引用した手紙の朗読を軸に展開する舞台は、ともすれば「意見表明」的で単調にもなりがちです。
にもかかわらず、印象的なのは、登場人物らが発する「声」はとてもよく聞こえてきたということです。それは選ばれ、書かれた言葉の精度の高さでもあったでしょうし、この世界に向き合った俳優のあり方にもよるものでしょう。また、宇宙を感じさせる青い床面、舞台上から発せられる音響など、空間設計も魅力的で、ここで語られていることをより広い視点でとらえる助けになりました。
発語、表現は、いつでも慎重に行われるべきですが、それだけでは表現は成り立たないとも強く感じます。言うまでもないことですが、今作に表れた繊細さと、それを作品にした潔さ、図太さ、この両極を揺れることなしに、創造はないのだな……と、身にしみて感じました。
満足度★★★★
青く光る鏡面の床に白いイスとテーブル。上手奥には音響卓とオペレーターがいて、白い衣装の男女が登場する抽象空間です。作・演出の瀬戸山美咲さんご本人であろう女性劇作家(占部房子)とその夫(浅倉洋介)の家、または彼女の脳内あるいは宇宙空間であるようにも受け取れました。
原子力とそれを研究する人、作った人、使った人について調べ、思考の海に深く潜るうちに、瀬戸山さんは言葉を扱う劇作家であるご自身の責任を問うことになったのだと思います。その苦闘の過程がさらけ出されました。瀬戸山さんがたどり着いた絶望的な境地と、そこから這い上がる姿を観て涙が絞り出され、終演後はしばらく席を立てませんでした。瀬戸山さんの勇気に感銘を受けました。ありがとうございました。
私は過去にミナモザ『ホットパーティクル』(2011年9月)を拝見したことがあり、今回も冒頭あたりから“セルフ・ドキュメンタリー”であることがわかったので、その心構えで観ることができました。手紙を読み続ける時間が長く、朗読劇のように見えるのは改善の余地ありではないでしょうか。この上演を土台に新しい“物語”を立ち上げる機会を見計らってもらえればと期待します。
主人公を演じた占部房子さんは瀬戸山さんの苦悩を自身のこととして受けとめ、心を尽くして全身で演じてくださっていたように思います。浅倉洋介さんは包容力のある物静かな夫役で、柔和ながらずっしりとした存在感に説得力がありました。私が知らなかった浅倉さんの一面を発見できました。
満足度★★
今の日本で原子力を扱った作品を書くにあたって、書くことの葛藤それ自体を作品に反映することは作家として誠実な態度なのかもしれない。だがそれは表現者ならば、いや、言葉を発する誰もが持つべき葛藤であって、それ自体を作品の主題に据えた瞬間に、興味の中心は「書く私」になってしまう。よく言えばナイーブ、ともすればナルシスティック。それでも一応は「見られる」作品になっていた点にベテランの力量を見たが、作品としては評価できない。