舞台芸術まつり!2018春

ゆうめい

ゆうめい(東京都)

作品タイトル「

平均合計点:22.0
川添史子
鈴木理映子
高野しのぶ
橘 康仁
山﨑健太

川添史子

満足度★★★

ブラックな労働環境や友人の自殺など現代性ある重いモチーフを扱いながら、客観的な視点で紡ぐことによって喜劇性も生み、だからといって突き放さず優しく寄り添っている……随所に見える距離感が素晴らしいと思いました。戯曲についてはもう少しスリムにできそうな印象を受けましたが、ア○ウェイやタルパなど、余計なようで可笑しさをかもすモチーフも多く、不思議と好感の持てる冗長さ。土手の一部を表現したような空間構成も絶妙で、シンプルな中に、男の子達がほろ酔いで喋る微笑ましい情景が浮かびました。芝居が面白かったので背景を知りたくなってアフタートークに残ったのですが、内容の話がほぼなく、初見の人間には内輪ノリに感じられて居づらく、始まる前に趣旨説明がほしかったと思います。

鈴木理映子

満足度★★★★

気弱でボンクラ、大人になりきれない、でもごくフツーの男が、状況に対して「立つ(のか?)」までのプロセスを楽しんで観ることができました。

人生において、常に安定して理性的、客観的判断ができる人などいないでしょう。この作品は、そうした人間らしい鈍感さ、それゆえの戸惑いや葛藤を、存分に表現してたように思えます。田中祐希さん演じる職場の後輩の虚勢や弱気ぶりも面白く、ほの香る男子っぽい甘え感も含め、人間関係をよく見ているなと思いました。

対話の妙よりエピソードの面白さと量とが先行している感があることは気になりますが、この全部盛り感が、ポップな作風を支えているのかもしれません。いわゆる「男子」の世界観で描かれている世界でもあると思うので、今後、さまざまなリサーチや経験を経て、どのようにその眼差しが変化していくか(変わらないのか)にも注目していきたいと思います。

高野しのぶ

満足度★★★★

会社員役の主人公が客席に向かって話しかけつつ、他の登場人物たちとも会話をしていく現代口語劇でした。下手奥に斜めに設置された平台(おそらく)は、表面が緑の芝生のように加工されています。上手にはイスが数脚と棚があり、移動して場面転換します。軽やかでシームレスな場面転換がかっこ良かったです。

弱くて優しい現代の若者が努力するゆえに失敗し、さらに苦しむ様子に、胸がキュっと締め付けられる瞬間が沢山ありました。
ただ、俳優は泣く振り、怒る振り、話しかける振りをしているようでした。ライブ・パフォーマンスはその場、その瞬間に生々しい出来事が起こるもので、次に何が起こるかわからないのが面白いんですよね。その状態を作るのは演じる側にとってはリスキーですが、個人的にはそれが会話劇の前提であって欲しいと常々思っています。

ネタバレBOX

デパートのディスプレイ施工を担当する会社員・川田(森山智寛)の中学生時代からの友人・桜井(小松大二郎)が、妻・南(深澤しほ)と保育園児の娘・なおを残して自殺します。桜井はカードローンで借りた金で風俗通いをしており、偶然、自分の車で愛猫を轢き殺してしまっていました。シングルマザーになった南は生活保護を受けながら子育て中。桜井の姉・美郷(児玉磨利)は母の介護をするかたわら、ねずみ講ビジネスにハマっています。

ねずみ講の話が出た瞬間がとてもスリリングで可笑しくて、一気に物語に入り込めました。川田がデザインフェスタで出品した消しゴムハンコを買った客も、ねずみ講の仲間だったという落ちも効いていましたね。

川田はタルパと呼ばれる桜井の分身を想像できるようになり、死んだはずの桜井と会話をします。桜井役の俳優がスルリと現世の会話に参加してくるのが楽しいです。タルパにはもっと大胆に活躍して欲しかったかもしれません。

川田の職場に新しく配属された清水(田中祐希)は、会社の文化に無理に馴染もうとして突然坊主頭で出社するなど、痛々しい行動がリアルです。次にやってきた新人の中野(古賀友樹)は不真面目で、清水とは対照的。登場人物は皆、現代の若者ですが、普段の言葉づかいが微妙に違います。発語や仕草の工夫によって、それぞれの個性を粒立たせられていたと思います。

クリスマスの大仕事を自分ひとりに押し付けられた川田が、本当は近所ではない保育園の発表会会場やセブンイレブンなどを、実際に自転車に乗って飛び回るのが痛快です。ただ2017年9月に拝見した『弟兄』に比べると大人しい目で、照明も、演技も、もっと派手にしてもいいのではないかと思いました。
「デイドリーム・ビリーバー」が流れた時は、ちょっと音楽の主張が強すぎる気がしました。

橘 康仁

満足度★★★

組み立て方が面白かった。主人公に不思議と引き込まれ、感情移入できたのがよかったのがよかった。お芝居がみんな上手い。

山﨑健太

満足度★★★

ゆうめいの作品を観るのはこれで3度目。初めて観た『弟兄』ではその巧さに唸りつつ、自らの痛々しい過去を笑えるものとして提示する池田の姿勢に疑問を感じた。観ていていじめの共犯者になったような息苦しさを覚えたからだ。2作目の『〆』は他人の痛みを笑っているようでさらにいただけなかった。
今作は前2作と比べると一歩引いた、客観的な視点から物語が描かれていて、その意味で前2作で感じた居心地の悪さはほとんどなかったのだが、一方で凄みも減じてしまい、結果として感じたのは物足りなさだった。
(その後、ゆうめいは6月に早くも新作『あか』を上演。こちらは文句なしの傑作だった。)

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