犬と串
採点【犬と串】
★★★意外に?意外に!

鈴木アメリと二階堂瞳子の、ブリブリVSブチキレ対決に、聖書の有名な文句が絡み、両極にあるものがぶつかり合い別の磁場(ステージ)を生み出すという、この芝居のテーマである「世界平和」に向けても、多少深みのあることを感じさせなくもない……いや、まぁ、でもやっぱり、そんなには感じないけど(笑)……な舞台でした。 前説が芝居仕立てなのには「はっ!押し付けがましい、ご親切なエンターテインメントの始まりか?」と多少警戒もしたのですが、本編では多少の暑苦しさも、余裕を持って楽しむことができました。身体もきくし、歌も上手かったりするんですが、そのことに溺れていないせいかもしれませんね。センターの女子2名、周囲を固める男子たち、共にパワーがあり、好感を持って劇場を出ました。

★★★学園祭ノリを謳歌

 劇場に入るなり、笑いを前面に押し出すような舞台美術が目に入りました。そういえば劇場入口から、にぎにぎしいムードを演出されていましたね。受付付近の若い女性から劇団ファンクラブ用(?)のカードをいただきました。
 内容はお芝居というよりはコント集だったな~と思います。ただ、私は笑えなくて…「このままクスリともできず終演したらどうしよう…(汗)」とおののいたのですが、1か所、本気で笑えるところがあって良かったです。

 笑っている観客は大勢いらっしゃいました。固定ファンを多く獲得されているんでしょうね。全体的に元気な若者が集う学園祭のような雰囲気で、私がそのノリにフィットできなかったんだと思います。ただ、ノレない客をノセるのが、お笑いには必要なんじゃないでしょうか。役者さんは体を酷使してがんばっていらっしゃいましたが、舞台上だけに納まっている感もありました。押すだけじゃなく引いて欲しいし、言うだけじゃなく聞いて欲しい。観客とのコミュニケーションをもっと意識してもらいたいと思いました。

 ここ数年(もしかすると10年以上?)、テレビをほぼ見ない私でも意味がわかるギャグが多くて、懐かしく感じることもあり、意外でした。作・演出のモラルさんは20代だそうですが、昔のお笑いがお好きなようですね。そういえば、今はインターネット上でいつでも昔のテレビ番組を見られます。ネット社会は色んなものの価値を変えて行きますね。興味深いです。

★★★★★毒と中毒性

鈴木アメリ、二階堂瞳子、この二人の個性的な女優を競わせる作りが面白い。無意味なギャグの応酬のように見せかけて、演出家が仕掛けているものは意外と深い。笑いの仕掛けは多重構造の上にびっしりと敷き詰められていて、年代によって反応するところが違うが、実はこんなところまでという細部まで計算づくである。そしてそういった笑いの中に毒とメッセージが気づかれないように仕込まれているのがこの劇団の特徴。それに気づいたとき、非常に中毒性がある。

鍛えられた役者の肉体を見ただけで、この団体がただのコメディ劇団ではないということがわかる。躍動感というのを演劇の中でここまで感じられる劇団は少ない。

★★★学園祭のような楽しさ

劇場に入ってみると、手作り感のあるパネルが目に入りました。
劇場入口の物販ブースの雰囲気も含めて、小劇場演劇というよりは学園祭のような楽しさでしたね。
開演前の小芝居も嫌いじゃないです。
コントを積み重ねていくような内容で、舞台上でも出演者が学校ノリで存分に楽しんでいる感じ。自分の同級生が出てたらめちゃくちゃ面白いだろうな~。

劇団員が全員20代という若い劇団なのに、内容が「笑ってる場合ですよ!」「おれたちひょうきん族」「ぐるぐるナインティナイン」など、80~90年代のバラエティー番組のようで意外でした。
選曲が懐かしい!みんなで考えて、がんばって作っていると思いましたし、犬と串という集団がやりたいことも伝わってきました。

ただ、笑えなくはないけれど、コント演劇を大人の鑑賞に耐えうる完成度にするのは難しいですよね。
たとえば「表現・さわやか」のように15~20分の短編コントをつなぐ構成にしてもいいんじゃないかと思いました。

チラシが可愛らしくて、すごく楽しそうなデザインです。
字はちょっと小さすぎる気もしますが、必要な情報が全部わかるし、チラシだけで観に行きたい気にさせてくれます。真ん中の戦車もいいですね。
舞台美術は、チラシと関連性を持たせたら良かったのではと思いました。

★★★紋切り型の範疇を超えてくれない

観ていて、少々しんどく感じられてしまった。鈴木アメリと二階堂瞳子の闘いは見所ではあったし、好感を持つ部分もあったけど、あるあるネタ=クリシェ(紋切り型)の扱い方がいささか凡庸に感じられてしまう。他の劇団の例を出すのはできるかぎり避けたいところではあるのですが、例えば、クリシェをバラ撒くと見せてそれをむしろ裏切っておかしなほうに物語を転がしてしまうサンプル(松井周)とか、あえて「ハンカチ落としましたよ」とかのベタな展開に持ち込んでおいて、からの、マジカルな回路を幾重にも見せてくれるロロ(三浦直之)のような名手(?)に比べると、犬と串はまだ無自覚にクリシェに振り回されているように見えてしまう。 それと、わたしはこういう熱量押しみたいな舞台は苦手で、というのは、こういう「かつての小劇場」っぽい(あるいは学芸会っぽい)身体や言葉から自分にとって未知の(だがどこか切迫感を持った)何かが生まれてくるという感じは受け取れないから。時間とお金をかけて観に行きたい、という気持ちにはなかなかなれないのです……。

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