CoRich舞台芸術まつり!2016春 グランプリ受賞作
カンパニーデラシネラ『椿姫』『分身』再演 特別インタビュー

カンパニーデラシネラ

写真左から:崎山莉奈、大庭裕介、王下貴司、野坂弘

 CoRich舞台芸術まつり!2016春・グランプリ受賞作のカンパニーデラシネラ『椿姫』が、こりっちスポンサード公演として再演されます。⇒特設ページ ⇒グランプリ受賞ページ ⇒審査員クチコミ評

 2018年3/16(金)~21(水)世田谷パブリックシアターにて、『分身』との2本立て上演になります。
 初演に続いて出演される大庭裕介さん、崎山莉奈さん、王下貴司さん、野坂弘さんに、世田谷パブリックシアター稽古場でお話を伺いました。

インタビュアー

 カンパニーデラシネラ(以下、デラシネラ)は俳優、演出家、振付家として国内外で活躍されている小野寺修二さんのセルフユニットです。中心メンバーの藤田桃子さんはデラシネラの前身であるパフォーマンスシアター“水と油”の旗揚げメンバーでもあり、お二人の活動は二十余年にわたります。
 まずは「CoRich舞台芸術まつり!」に応募した動機を教えていただけますか?

 
 

 小野寺さんは当時、自分のような年長者が若者に門戸を開いたフェスティバルに参加していいものかどうかと、すごく悩んでたんです。でも『椿姫』は若者を集めた“白い劇場”シリーズの2作目で、小野寺さん自身もこれから新しく始める気持ちだったから、皆で参加するつもりでやってみようということになりました。

大庭さん
インタビュアー

 “白い劇場”シリーズは2014年から始まり、3年間で『分身』『椿姫』『小品集』が上演されました。オーディションで選ばれた若手のパフォーマーが出演し、小野寺さんと藤田さんは出演せず、演出方面に専念されるんですね。

 
 

 そうです。第一次審査に通らなかったり、なんの賞にも絡まなかったりしたら…というのもあったと思うんですけど、僕は「やってみましょうよ」って言いました。小野寺さんも、参加するからにはもちろんグランプリを獲るつもりで、本気で行こうって。自分たちを焚きつける意味でも。

大庭さん
インタビュー風景 写真1
 

 僕はノリノリだったんですよね。「小野寺さん、こういうのがあるんですよ!」「再演できるんですよ! しかも賞もらえたら100万円ですよ!」って、まるで自分が新しい情報を持ってきたかのようにプレゼンしました(笑)。再演もしてみたいし、なるべく長くデラシネラに関わりたかったし。
 自分は演技賞をいただきました。演劇の俳優が個人賞をもらえる機会って、ないんですよ。無名の若手がいきなり紀伊國屋演劇賞、読売演劇大賞なんて獲れない。こういう賞が設けられてるのは名誉なことだし、やるからには獲りたいと思ってた。僕が自分の団体で応募するより、ずっと可能性があるしね。

野坂さん
 

 野坂くん、すごいね…僕はそんなこと一回も意識したことない。小野寺さんが応募した時点でワクワクはしてたけど。

王下さん
 

 私もデラシネラとしてCoRichの賞をいただけたらいいなとは思ったけど、個人賞があることは知らなかった。グランプリを受賞して「再演だ、イェーイ!」と思ってたら、野坂君が演技賞も獲ってた。

崎山さん
 

 その時まで知らなかったの!? 僕は6月ぐらいから心臓バクバクだった…そろそろ発表かな〜って。

野坂さん
 

 そうだったんだ!

王下さん
 

 誰も「おめでとう」のメッセージくれなかったよ…。

野坂さん
 

 ちょっとジェラシーだったし。「おめでとう」!(笑)

崎山さん
 

 今なんだ(笑)。

野坂さん
インタビュー風景 写真2
インタビュアー

 グランプリを受賞したことで、何か変化はありましたか?

 
 

 僕は一時期、“受賞俳優”というニックネームが付きました。からかわれる感じで(笑)。でもすごく光栄です。一生、自分の経歴に書けるので。

野坂さん
 

 「デラシネラの集客に繋がるんじゃないかな、きっとお客さん来るよ!」って盛り上がりました。賞を獲った団体って華やかですよね。観に来てもらえるきっかけになると思いました。

崎山さん
 

 デラシネラは演劇なのか、ダンスなのかという曖昧なところで勝負しています。小野寺さん個人はよく知られているけど、賞を獲ったことでカンパニーの知名度が上がって、より幅広い層に触れてもらえるんじゃないかと。若手に“白い劇場”というチャンスの場があることも広まったんじゃないかな。

大庭さん
インタビュアー

 “白い劇場”シリーズのオーディションは毎回行われるんですか?

 
 

 オーディションなしで参加するのは今回が初めてです。

野坂さん
 

 グランプリ受賞作の『椿姫』のメンバーは受けなかったので。

崎山さん
 

 “白い劇場”の1回目のオーディションに受かった時、3年計画と聞いていたので、僕らは次も出られるだろうと思ってたよね。でも『分身』の当日パンフレットに「オーディション開催」って書いてあって、「…え!?」って。
 ※皆さんが「そうそう!」と同調。

大庭さん
 

 毎回、喉元にナイフを突きつけられているような状態ですね。小野寺さん自身もそれぐらいの緊張感を持ってやりたいし、「お前たちもそれぐらいの緊張感でやれよ」っていう意味だと思います。

王下さん
インタビュー風景 写真3
インタビュアー

 本番まであと1か月ですね。『椿姫』の稽古はどんな状況ですか?

 
 

 ひたすら振付を思い出している段階です。

野坂さん
 

 前回をベースにすると決まってるので、新参加の2名を含め、皆で映像を見ながら、こうだった、ああだったと。

崎山さん
 

 さすがにもう、2年経ってるからね。

大庭さん
インタビュアー

 『分身』はどうでしょう?

 
 

 『分身』が“白い劇場”の第一弾でした。ほぼ全員が新キャストになってるし、初演は3年前ですから、雰囲気はガラッと変わるんじゃないかな。「変な先入観を持たせたくない」という小野寺さんの意見もあって、記録映像は見ずにリクリエーションをしています。テキストはあるけど…ほとんど新作みたいな感じですね(笑)。

王下さん
 

 小野寺さんが「その人だからできる作品をつくりたい。新しいメンバーになってるのに前作を追うと、それは嘘になっちゃう」とおっしゃってて。素敵だなと思います。今の新しいメンバーだからこそ、今の小野寺さんだからこその『分身』になる。

崎山さん
 

 もともとあったシーンにプラスするピースをつくるんです。宮河愛一郎さんという素晴らしいダンサーと新しいシーンを一緒につくってて、すごくワクワクしてます。

王下さん
 

 演劇だと台本があってセリフがあるんですが、小野寺さんはエチュード(即興劇)でつくるやり方だから、そこにいる人の動きがだんだん積み重なってく。人が変わるとまっさらな状態になるから、本当に違うものになるんだろうなと思います。
 僕と崎山は『分身』初演に出てたこともあって…

大庭さん
 

 クリエーションに参加させてもらってます。

崎山さん
 

 逆に王下くんは『椿姫』の稽古に来てくれてる。僕は気が向いた時だけ、『分身』の稽古をただ見に行ってる(笑)。

野坂さん
インタビュー風景 写真4
 

 人が足りない時に人数合わせで入って、一緒に動いたりしてます。人が余分にいると早く回るから助かる。

大庭さん
 

 同時進行の稽古ってよくやるよね。2〜3人のチームに分かれて、違うテーマでピースをつくっていく。それぞれにインプロ(即興)でクリエーションして、小野寺さんが見て回ってチェックして、「繋げる/繋げない」「使う/使わない」の判断をする。

野坂さん
 

 お蔵入りしたシーンがいっぱいあるよね。

大庭さん
 

 そうそう。あるピースが最初の想定と全然違う意味合いで使われたりもして。小野寺さんが最初に示したディレクションから大きく変わることもある。

野坂さん
 

 いざ流してやってみたら、「へ〜〜」って納得できる瞬間がたくさんあって。それが毎回不思議でしょうがない。

王下さん
 

 つくったピースで決して“説明”はしない。でも“行為”だけは確か。つまりアクションがしっかりしてるピースがいっぱいあるから、意味合いは後からいくらでも付けられる…というのが小野寺さんのクリエーション。いつも豊かだなと思います。

野坂さん
 

 そうだよね。

大庭さん
インタビュアー

 出演者との共同作業なんですね。

 
 

 信頼されてるなって思います。もちろんナイフを突き付けられるような緊張感、試されてる感覚もすごくあるけど。逆に言うと、そういう形で信頼をしてくれてるんだと思う。

野坂さん
インタビュアー

 皆さんに任せることで、小野寺さん自身にもナイフが向いているわけですね。

 
インタビュアー

 今回は2本立て上演で、両方に出演する人はいないんですね。

 
 

 僕は両方出して欲しいです。いまだにちょっと狙ってる…。ギャラすえおきでも出たい。

野坂さん
 

 言ったな〜! だから稽古場の端っこで見てるの?

王下さん
 

 そう、「絶対俺がやったほうが面白い」って思いながら(笑)。

野坂さん
 

 そう思ってるんだろうとは思ってたけど…やだねー! 稽古に来ないでほしいよね!(笑)

王下さん
インタビュアー

 仲間に切りつけられそうな気配が…(笑)。皆さん、両方やりたいですか?

 
 

 やりたいです!

全員
インタビュー風景 写真6
インタビュアー

 『椿姫』『分身』の見どころと、お客様へのアピールをお願いします。

 
 

 僕らがやってきたことをシンプルに見せられると思います。デラシネラらしさ、僕ららしさ、いろんな「らしさ」がいろんな形で見えてくると思う。演技とダンスのインプロを積み重ねてつくった作品だから、舞台芸術のいろんな可能性がまた新しく見えるんじゃないかな。
 『分身』はドストエフスキーの作品で、『椿姫』はデュマ・フィスの作品。全然違うんだけど共通するところもあって、2本立ての意義がすごくあるんです。

野坂さん
 

 両作品ともデラシネラらしさ、小野寺さんっぽさがありつつも、本当に色が違う。男が主人公の『分身』と、女が主人公の『椿姫』という対比もある。比較することで楽しさが倍増するんじゃないかと。なので1本より2本と思います!

大庭さん
 

 リクリエーションしている『分身』は初演と全然違う作品になると思うので、前回観られた方にも楽しんでもらいたいですね。あと、1本観たら、もう1本きっと観たくなると思うんですよ。

王下さん
 

 それはそう、確実にそうだね。

大庭さん
 

 ええ、確実に。そういうものをつくりたい。もちろん野坂くんにも悔しがってもらいたいし(笑)、前回『分身』に出てたメンバーに「くっそー!」って思わせたい。個性が違う作品を個別に楽しんでいただけたら。僕らも楽しめたらいいな。実際楽しいです、今。

王下さん
 

 『椿姫』の小説を読み直したら、初演の時とは違う面白さが詰まってました。2年前、3年前の自分とはまた違う汲み取り方をして、新しい見方で挑んでます。あとは演出家(=小野寺さん)をびっくりさせないと!「あ、そう来たか」と言わせるようなことをしなきゃと思ってます。
 前回観てくださった方がまた来てくださるのも嬉しいです。「前回よりいい」と思っていただきたい。そのための稽古を今日もがんばります。

崎山さん
インタビュー風景 写真7 変更箇所
 

 再演だと思った時点で終わっちゃう気がするので、極力、再演だと思わないようにしてます。前回の良さを取戻しつつも、新しくやってかないといいシーンはできない。再演って怖いよ。油断するとつまんなくなっちゃうから。野坂くんは“受賞俳優”だからそんなことないだろうけど(笑)。

大庭さん
 

 さっそくイヤミ言われちゃったよ(笑)。一番の敵は小野寺さんだよね。稽古場の小野寺さんを飽きさせなかったら大丈夫。稽古場が一番の戦い。

野坂さん
インタビュアー

 演出家との間に常に緊張感があるんですね。小野寺さんは厳しいですか?

 
 

 すごく人のことを見てる方なので、ちょっと気が抜けてるとすぐバレちゃう。だからいつも油断できない。(※ここで小野寺さんが登場)。あ、小野寺さんが来た!

大庭さん
 

 (小野寺さんに向かって)悪口は言ってないですよ〜!(笑)

野坂さん
インタビュアー

 これから稽古場の“厳しい戦い”が始まるんですね(笑)。皆さん、率直に話してくださってありがとうございました!

 

インタビュー実施日:2018年2月18日 世田谷パブリックシアター稽古場にて 取材・文:高野しのぶ 写真撮影:CoRich運営事務局 ※文中敬称略

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