劇団あはひ

集合写真提供:劇団あはひ

 CoRich舞台芸術まつり!2019春・グランプリ受賞作の劇団あはひ『流れる』が、こりっちスポンサード公演として2021年2/3(水)~7(日)東京芸術劇場 シアターイースト(東京・池袋)にて再演されます。
 ※この公演は中止になりました。

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審査員クチコミ評

 劇団員の皆様(大塚健太郎さん、東岳澄さん、古館里奈さん、松尾敢太郎さん ※五十音順)にZoomでお話を伺いました。

インタビュアー

 劇団を立ち上げて、長編2作目の公演でのグランプリ受賞でした。そもそもなぜ応募をしようということになったんですか?

 
 

 公演と募集時期が重なったのでダメ元で応募したんですけれど、やっぱり僕としては、少しでも幅広い方に自分達のやっていることを観てもらいたかったからです。だからちょっと無謀かなと思っても挑戦しようと。当時は大学2年生で、旗揚げしたばかりで失うものもないし、やれるだけやってみようかという気持ちでした。

大塚さん
インタビュアー

 受賞発表時の率直な気持ちは?

 
 

 驚いたとしか言いようがなかったですね……。最終選考の10団体に残った時点でみんなで「なんで残ったんだろう!?」って大騒ぎしてたのに(笑)

大塚さん
 

 さすがに最初はないかなと思ってました……

古舘さん
 

 ですね……

東さん
 

 だから受賞を知ってすぐにみんなで集まって、何回もスクロールして発表画面を見たよね!

松尾さん
 

 受賞するとは夢にも思ってなかったから、すぐに気づかなかったですしね。

大塚さん
インタビュアー

 グランプリ受賞の影響はありました?

 
 

 けっこうありました。それまで誰にも知られていなかった団体だったのが、「CoRichグランプリの団体だよね?」と知っていていただけるようになりました。

大塚さん
 

 受賞後はCoRichへの書き込みが増えましたね。たくさん感想を書いていただきました。

松尾さん
 

 私、友達からすごくLINEがきました。「グランプリはすごいね!」って。演劇をやってる人達からは反応多かったですね。

古舘さん
 

 自分は演劇に詳しい友達がそんなにいないので……それでも、何人か知ってて声をかけてくれましたね。あと、SNSを通じて知ってくれた人達にはすごく驚かれました。

東さん
インタビュアー

 作品『流れる』は能の『隅田川』を原案にした作品です。観た方の反応は?

 
 

 「古典と現代との、大きな繋がりみたいなものを感じた」というような感想が嬉しかったですね。能や俳句ってちょっと小難しくみられかねないけど、古典がもっと現代に近いものに感じられる“翻訳”みたいな作業をする活動をしたいと思っているので。

大塚さん
 

 僕は、ちょっと軽快なやりとりが面白かったと言ってもらえたのが嬉しかったです。自分の役は松尾芭蕉の弟子なんですが、芭蕉との掛け合いを面白がってもらいながら、作品全体に漂っているやや悲しい雰囲気を感じてもらえたら。それらが両立している作品が、僕自身も好きなので。

東さん
 

 「難しい」って言われることもあったけど、「短編もふくめたこれまでの作品のなかでこれが一番好き!」という感想も多かったです。「切なさにぐっときた」と言っている人もいました。

古舘さん
稽古場風景 写真1
『流れる』初演の舞台写真
インタビュアー

 いろんな年代の方が客席にいましたね。

 
 

 大学内での公演なので、もちろん学生は多かったですが、意外と幅広かったですね。

大塚さん
 

 年配の方もけっこう来てくださいましたね。

古舘さん
インタビュアー

 アフタートークゲストが幅広かったからかも? アフタートークは必ずおこなうんですか?

 
 

 そうしています。次の再演はコロナでどうなるかわからないけど、できればやりたいです。 自分はアフタートークってけっこう大事だと思ってて、公演より長くてもいいくらい。作品を観るだけじゃわからないことを、いろんな専門家の方が「あれこうだったね」とか、演出家や俳優が話しているのもふくめて作品だと考えられるなぁと。アフタートークが批評になるのはさすがに難しいかなと思いますけど、演劇ってただでさえ一回やって終わりになりがちなので、もっと広がっていったらいいな。アフタートークに出た話題に触発されて「あの本読んでみようかな?」とか繋がっていった方が、演劇がもっと面白くなっていくかなと思うんですよね。

大塚さん
インタビュアー

 アフタートークのゲストにさまざまなプロフェッショナルが並んでいたことから、劇団あはひが、作品を深めることや、人目に触れることを大事にしているのはすごく感じます。

 
 

 CoRichの最終選考に残ったことも、批評の場みたいなところにあげていただけたのでとても嬉しかったです。作品を実際に観に来ていただいて、プロの方々が批評してくださることは、作品に対する応答として非常に嬉しいことでした。偶然にも自分たちは評価をいただけたけど、そうじゃなくてもいい。ポジティブなことを言ってくれても「全然そうじゃないんだよ!」と思うこともあるし、ネガティブなことを言われていても「いやあ、そうなんだよ!」という別の嬉しさがあるので。そういう場に、まだ学生で第2回公演という状況で乗せていただいたのは、すごくありがたかったです。

大塚さん
インタビュアー

 第一次審査の応募文にも「演劇の可能性そのものを探したい」から始まる思いや目的が書かれていて、ネガティブな反応があることにも貪欲だなぁという印象でした。

 
 

 やっぱり、批評の場にあげていただいて、しかも認めていただけたのは、活動していくなかでのモチベーションになっています。受賞した時は自分もトガっていて「まぁ賞って言ってもねぇ、これからも面白いものを作っていくしかないでしょ」みたいなところもあったんですけど……。

大塚さん
 

 笑

松尾さん
 

 でも、この1年は「大学を卒業してどうするんだろう」っていう不安感がすごくあって。そこでグランプリをいただいたことはすこし自信に繋がっていて、「もう少しだけやってみようか」という気持ちにも働いていると思います。それは本当にありがたかったし、がんばります……!

大塚さん
インタビュアー

 みなさん学生なので、演劇をどのように続けられるか、続けるのかすらも迷われていたかと思います。そもそもどういう成り立ちの劇団なんですか? 松尾さんと大塚さんが共同主宰ということですが……

 
 

 どうだったかな……。僕自身、劇団をやるという発想がとくになかったんですけど……

松尾さん
 

 えっ、なかったんですか?

大塚さん
 

 え(笑)

松尾さん
 

 自分の方が劇団をやるという発想はなかったと思うけど……

大塚さん
インタビュアー

 えっ、どうやってそれで劇団ができるんですか?

 
 

 ええと……大学が始まって、偶然となりの席になった松尾が「役者をやりたい」と言ってて、自分は「宮藤官九郎さんが好きで、脚本とかやりたいと思ってる」と言ったら、「じゃあ名前も似てるし、やれたらいいかな」みたいな(笑)。半年後に松尾に呼び出されて「大学の間だけでもなにかやってみようか」と言われた覚えがあります。

大塚さん
 

 ああ、そうです、そうです。そんな感じです。

松尾さん
インタビュアー

 東さんと古館さんはどうして劇団員に?

 
 

 自分は大塚と中学高校が一緒だったんです。小学校からサッカーをやっていたけれど、両親が演劇を昔やっていたり、なんとなく他の人よりは演劇が近くにありました。高校の頃に大塚と演劇を観に行ったりもしてました。でも大学も別のサークルに入ったし、やるつもりはなかったんです。それがある日、大塚から「旗揚げ公演やるんだけど役者として出てみないか?」と声をかけてもらって。経験もなかったんですけど、彼が高校の文化祭で脚本を書いた芝居を観ていたので、面白いんじゃないかな、と参加しました。

東さん
 

 私は、それこそCoRichの掲示板に旗揚げ公演のオーディション情報があったんじゃないかな……。大学で俳優をやりたくて受けていたオーディションのひとつでした。旗揚げ公演を一緒にやってみて、みんなの志がいいなと思って「一緒にやりたい」と言いました(笑)

古舘さん
 

 オーディションやってましたね、いっちょ前に(笑)

松尾さん
インタビュアー

 それで劇団になり、旗揚げから約半年で「CoRich舞台芸術まつり!2019春」に参加される……と。

 
稽古場風景 写真2
『流れる』初演の舞台写真
インタビュアー

 その後もさまざまな活動を経ています(第4回公演『どさくさ』(2020年2月)では史上最年少で下北沢・本多劇場進出)。『流れる』初演から、次の再演までの2年間にどんな変化がありましたか?

 
 

 僕は……体重が10キロ増えたとかしかないです!マジで!

松尾さん
 

 笑

全員
 

 いや、なにを言ってるの?ってなりますけど、体形がまったく変わったんですよ!自分の体格と演技のバランスについて考えるようになりました。

松尾さん
 

 それらしいこと言っても取り返せないよ(笑)

大塚さん
 

 あ、いや、マジで!身体のバランスを考えるようになりました!

松尾さん
 

 じゃあ私、まじめなこと言っちゃうよ?(笑)

古舘さん
 

 いや、うん、お願い……

松尾さん
 

 私にとってこの2年は大きくて。「いよいよどうするんだ」と就活の時期が迫りくるなかで、最近やっと「やっぱりまだこの道を続けたい」と覚悟をきめて舵をきったんです。2年前はまだ知らないことも多かったし、だから卑屈になっちゃっていたんですけど、もうそんなこと言ってる場合じゃない。劇団員のみんなと過ごすなかで、いろいろ知識や経験を増やして、自分で責任を持ちながら自分の足で立てる実感がやっとでてきました。初演の頃とは、人として相当変わったかな。……なんか恥ずかしくなっちゃう(笑)

古舘さん
 

 自分は……なんだろう、正直そんなに大きく変わってないかも。ただ、こんなに演劇の世界に関わっていくことになるというのは夢にも思わなかったです。これからも続けていくかは、今、ほんとに悩みどころです。たぶんこれから大きな決断をすることになると思います。

東さん
 

 どういうふうに変わったのかはね、まだわからないですね。でも一番大きな出来事はやっぱりコロナだとは思うんです。自粛期間とか、明らかに今まで生きてきた感じとは違う時間が流れていた。ひさびさに芝居に直結しない本とかたくさん読めたし、自分にとっては悪いことだけじゃなくて……今まで絶対だと思ってた色んな価値観みたいなものが相対化されていった感覚があったように思います。

大塚さん
稽古場風景 写真3
『流れる』初演の舞台写真
インタビュアー

 コロナは、演劇にも大きな影響がありましたね……

 
 

 ひとつ、コロナの影響なのかも、演劇に通じているのかもわからないんですけど、なんとなく聴覚が鋭くなったように感じています。とくに芸術作品を受容する時に。これから演劇をつくっていく時のテーマとして「音」があるかもと思うくらい感覚に変化がありました。わからないですけど……いろいろやってみます!

大塚さん
インタビュアー

 それは『流れる』再演にもなにかしら影響するのかも……? 再演にあたって、初演との違いは?

 
 

 Wキャストになることと、劇場が大きくなるので舞台美術が大きくなります。杉山至さんにお願いして、ずいぶん豪華になるかなと。空間は新しくなるぶん、豊かになりそうな感じはしますね。初演では客演のみなさまがすごく脚本を鮮やかにしてくださって、それに合わせて劇団員もすごく輝いていたと思うけど、今回は客演の方々がまた全然違う動き方をしてるので変わりそうだなと思います。

松尾さん
 

 でもWキャストにした意図は、あまりないんですよね。やったことないからやってみようかなと。それに、コロナがあるから、誰か一人でも出られなくなった時に対応できるように、というのも考えました。それが良いのか悪いのかはわからないけど……。

大塚さん
 

 稽古してると、やっぱり同じセリフでも違いますね。声色とか、身体とか、演技とか。

古舘さん
 

 やっぱり僕だけが初演に出ていないので、追い付けるように頑張りたい。なんとかキャラクターの新しい輪郭みたいなものが作れたらな。

松尾さん
 

 2年くらいの時間が経って、自分も、ほかの俳優さんの感じも変わっているなと思います。初演でも良い作品がつくれたと思えた反面、やれることはまだまだあったので、もっと新しいものを付け加えていけたらなと。だから、今は新鮮な気持ちでやれています。

東さん
 

 さすがに2年経って、少しは経験値が溜まったから、もうちょっとできることがあるんじゃないかなと思いますね。初演は食らいつく!という感じだったけど、今回は自分から出せるものがありそう。同じ台本だけど、やりたいことも増えました。

古舘さん
稽古場風景 写真4
『流れる』初演の舞台写真
インタビュアー

 演出の違いはありそうですか?

 
 

 たしか当時は、映画監督の濱口竜介さんに影響を受けていて、「セリフで感情表現しようとするんじゃなくて、セリフをお客さんに正確に届けることが重要なんだ」みたいなことは言っていたような気がします……

大塚さん
 

 その心づもりは今も変わらないよね。

松尾さん
 

 自分の関心はけっこう移り変わってるかな。今、能の『隅田川』を演劇にしようとしたら全然違うものになると思います。でも再演する時に、簡単に書きかえたら壊れちゃうものがある気がします。『流れる』は初めて世間的な評価をいただいた作品でもあるし、客演のみなさんの力をお借りしてできたものでもあるので、それを今の自分の興味に従って安直に変えちゃうのはやめようと。それよりも、当時実現できていたことを大事にしたいですね。

大塚さん
インタビュアー

 古典が原作だとどうやって作品づくりをしているんですか? 世界観や原作の共有は?

 
 

 演出をつけるっていうよりは、感覚を共有する感じなんです。同じ文献を読んだり、大塚さんが中心になって「これを読んだらいい」みたいな話をします。それが作品に関係なくても、良いものをみんなで共有する時間は多くとっていて、そこで培われていく共通感覚は多いかな。

古舘さん
 

 ほんとにそう。演者は脚本をただ舞台に乗せることを考えるだけでもできるとは思うんですけど、同じ作り手としては「なにがいいかと思うか」みたいな感覚は共有しておきたいなと思います。演じるうちに、その台詞や場面がどういうところから引っ張られてきたかを知らないとわからないことは当然でてくるので。

東さん
 

 理想としては、自分が思っていることをわかってもらうというより、全然違うことでもいいから俳優が持ち込んでくるものを大事にしたい。それがわざわざ劇団をやる強みな気がします。それぞれの興味関心はかならずしも一致してなくても、誰がどんなことに興味があるかはなんとなくわかっている状態。それぞれが持ち込んできたものを面白がって、ときには作品に入れ込むことが起きていくといいかな。どうしても自分が脚本を書くので「こういう本があってさ」とか「こういうのを真似しようよ」と言うことが多くなっちゃってる。だからこれからの劇団としては、俳優もスタッフも関係なく混ざっていく場にできたらいいなと思っています。

大塚さん
インタビュアー

 劇団としての初の再演となる次回公演、楽しみです。TPAMフリンジ参加作品で、都民芸術フェスティバルの参加5団体に選ばれてもいるとのことで、多くの方に観ていただけることを願っています!

 

インタビュー実施日:2020年12月14日 ZOOMにて 取材・文:河野桃子 ※文中敬称略

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