満足度★★★★★
気まずさの極地
これだから演劇ってやめられない。
訳あって幼少から「ひきこもり」の青年達を数多く見てきた。『ヒッキー…』で岩井秀人の「ひきこもり」の身体を観た時、そのあまりのリアルさに眼が離せなくなった。
言い知れぬ怯え、力の入り、目線、微妙に過剰な自意識。その後他の人が同じ役を演じていたが、圧倒的に岩井秀人の「ひきこもり」は本物だった。
ただ、個人的には物語としての『ヒッキー…』はあまりピンときてなかったのだが。
だが今作はすごい。すさまじい。岩井秀人の実体験から得た特異な身体性の抗い難い魅力が最大限に活用された。
あれは本当に、岩井秀人の身体でしか表現することができない。
また、「友人」関係のぐらつきも、実際交流が深く信頼関係があるのだろう松井周との間でしか表現できないだろう。
物語性に重きを置く人にとっては、この作品はほとんど何も起こらず最後だけ少し盛り上がるものとして映ったかのもしれない。
けれどそうじゃない。身体を通してでしか表現されない微細ななにものかが隙間に見える部分に網を張り、するすると観客をラストに向かって運んでゆく。この濃厚さ。
岩井は自ら「生涯最高傑作かも」と口にしているようだが、それも納得の公演。これは、うん、すごい。演劇ってすごい。