冬に舞う蚊 公演情報 JACROW「冬に舞う蚊」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    苦みと痛みが残る
    前回の3本立て『窮する鼠』内の1本『リグラー』のヒリヒリ感がさらにアップした、ヒリヒリ系舞台。

    ボクシングのコンビネーションのごとく繰り出されるパンチが痛い。会社勤めしたことのある人にとっては、なかなか効くのではないだろうか。

    ネタバレBOX

    役所内にいる内通者から、入札情報を買い取り、自社に有利にしていたことを長年やっていた建設業者内での物語(台詞で「談合」と言ってたけど、違うよな? 昨今流行りの「公務員の機密漏洩」かな)。

    会社ぐるみの不正vs正義感の新人(今回の場合は異動によるもの)という図式のストーリーは、よくあると言えばよくある。最近でもNHKでやってたりした。
    ただし、違うのは、「正義」と振りかざす側の「甘さ」や、彼を取り巻く環境があまりにも過酷であることだ。

    やんわりと真綿で首を絞めるような、とはほど遠い激しいパワハラで「国立」くんを締め上げていく。

    締め上げる側も、自らが「奴隷」であるという自覚がはっきりあるところが、観ていて辛いところでもある。

    そうしたストーリーを形作っている要素の深みが素晴らしいと思う。
    なぜならば、ありきたりとも言えてしまうストーリーでありながら、観客をここまで引き込ませ、かつ、共感させてしまう舞台であるからだ。
    単にありきたりのストーリーを熱演で見せただけであれば、こうした感覚は生まれないだろうと思う。

    締め上げ側の「生活」が見えてこないのが、やや弱い気もするが、よくよく考えると、生活を見せて「本当はいい人なのに」という要素がないのも、よかったのかもしれない。
    「会社員」であることが、会社にいるときの彼らの「すべて」であるからだ。

    それにしても、この劇団、イヤな人を演じさせると、日本一の劇団かもしれない(笑)。イヤな人の深みがいい。演出家だけでなく、俳優たちもそのイヤなところのツボを理解しているということだろう。
    営業スタッフでいる三橋も、やや固めなOLさんのはずなのだが、その底にある必死さのようなものが、ヒシヒシと伝わりちょっとしたイヤな感を出しているし、ストーカーされるOLの野村のやや媚びた感じも好感度があるとは言えない。と言うか、そう見えてくるのだ。

    とにかく、全員の余裕のなさがたまらない。

    余裕がない景況が、この会社をこういう企業風土に変貌させてしまったのだろう。
    今、こういう会社は多いのではないだろうか。不正をしていなくても、どこかギスギスしていて、人間関係にも、個人的にも余裕のない会社が。
    会社勤めをしたことがある人にとっては、見たくない、考えたくないことを見せつけられたような印象がある。

    犠牲になる富島の行動は明らかに「甘い」し「迂闊」すぎるのだが、「だったらどうする?」「どうすればよかった?」という言葉に対しては、うまい回答はなさそうである。
    他人事のように批判するのは簡単だが、いざ自分のことになったら、どうなんだ、ということだ。つまり、「自分だったら…」と考えさせられてしまうのだ。
    富島の行動をそうしたことにして、観客に答えのない疑問を投げかけるという、もう一段先を見通したであろう脚本と演出がうまいということであろう。

    ちなみに、この案件は、たぶん100%労災を勝ち取れるのではないかと思う。弁護士がいくら失敗した経験があると言っても、及び腰なのはどうなのかな、と思った。

    課長を演じた吉田テツタさん、課長代理を演じた大塚秀記さんの、ストレートなパワハラがたまらない。会社の不正にどっぷり漬かっているから、富島の行動が理解できないのだ、ということを観客に見事に伝えていた。だからこそ、観客はどうすればいいのかわからなくなるのだ。
    人事部の竹下を演じた橋本恵一郎さんの、目がひくついている感じの気持ち悪さが印象に残る。また、会社の事務をしている三橋を演じた菊池未来さんの、あるある感としたたかさも印象に残る。
    富島の妻を演じた蒻崎今日子さんの、徐々に余裕がなくなっていきつつ、ラストで夫のことと自分のことを振り返り、後悔のようななんとも言えぬ雰囲気のうまさは、この舞台を締めくくるにはふさわしいと思った。「ああ、なんてことをしてしまった」と言うような、余計な吐露をさせないうまさ、それを彼女に託した演出のうまさだろう。


    次回は、苦い観劇後の味を舌に残した『明けない夜・完全版』(シアタートラム)ということ。かつて、本編+外伝の2本立てで行われていたものが、ついに1本になるということらしい。これには期待したい。

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    2011/01/07 07:17

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  • JACROW制作部さん

    コメントありがとうございます。

    なんとも言えぬヒリヒリ感がたまらなかったです。
    「日本一の「嫌な人」を描かせる劇団」、つまり、人の気持ちをうまく揺さぶることのできる劇団という意味でもあります。

    ホントに次回、とても楽しみにしています!

    2011/01/18 01:40

    コメントありがとうございました。
    また作品に対する感想を長文で記していただき、心より感謝いたします。
    嬉しく拝読いたしました。

    これからも私たちにしかできない作品を発表し続けます。
    日本一の「嫌な人」を描かせる劇団にはまだまだだと自覚しています。w

    次回作への期待コメントもとても嬉しく思います。
    ぜひぜひよろしくお願いいたします。

    2011/01/17 15:28

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