ヘカベ/ドゥロイケティス 公演情報 お布団「ヘカベ/ドゥロイケティス」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    このギリシャ悲劇を最初に何処かで見たひとのうち、結構な人が物語そのものに疑問に思うのではないかと思ったりする。というのも、『生贄としてのスケープゴート』というのは現代ではわりとよくある見せかけの安定、解決をもたらす手法で、コミュニケーションの難しい弱者がその役割を負わされるのは一般論として事件を観察するなら『よくみる』からで、特に昭和まではよく見かけ、この物語もよくあるそういう事件のステレオタイプの一つを美しく物語化した…ように見えるというのも自然だからだ。

    しかも事件後に生き残ったのはほぼ強者のギリシャ人である。

    美しさより事件?そのものの構造のほうがまず先に立ちはだかって見えるのは、現代の一般的な傾向になりつつある気がする。というのも現代では毎日いろいろなタイプの事件が起き、警戒しながら分析する量は今までと比較にならない。間違いなく有史以来最大だと思うから、どうしてもこの事件を物語化したギリシャ悲劇を見て、多少胸がつかえる人間が出るのもしょうがないのかも。

    今はエーアイが簡単に集団心理とか提示してくれ、ファクトとストーリー、エビデンス…と分けていき、それがいいか悪いかはともかく、プラスして歴史の積み重ねや組織犯罪のようなものの性質が思い浮かび、僕もどこまでこの物語を素直に鵜呑みにできるのかという気もする。それはギリシャ悲劇を観るとき考えすぎと言うものかも知れないが、自分の理解する限りではギリシャ人たちは非常に聡明で、現代人よりそうした集団心理に対する警鐘として、この物語を作成したのでは、と思うのが自然な気もしていたが、どうやらこの舞台の作者も自分と同じような感覚の持ち主のような気がした。

    シェイクスピアを見るまでもなく、古代の物語は情報伝達の手段としてよく使われた。それは退屈とか面白いからというより、現実の警句としてだった。事件を粉飾しても、どうしてもここおかしくないかな?本当なのか?そう言えばあの人はあの家族を疎ましく思っていた、とかというところを分析して、庶民の人たちは自分の明日の危険を察知した。そのまま物語を鵜呑みにする貧乏人は生き残れない場合もあったから、物語を知る人たちだけが生き残って語り継いたのかも知れない。


    どう書いていいのかあれなので、とりあえずネタバレに。

    ネタバレBOX

    まず最初に、この舞台はギリシャ悲劇を事件のように描いている。

    そのため、僕も事件っぽく感想が書ける気がする。それは自分にとっては長年のつっかえが取れるようで喜ばしいことでもある。

    というのも、この物語は後から生き残った人が描いたものだから、いかようにも読めるからだ。

    単純に言うなら、ギリシャ兵たちが立ち寄った港(トラキア)にダラダラいるうちに事件が起き、なんかトロイアの王妃ヘカベたち一家と港の国の王様(ポリュメストル)がなんか死んだ…らしい。

    いろいろ言っていたけどまとめると『しょうがない』『運命』『みんなすすんで運命を受け入れた。人殺しの王様だけが恨んでいた。どーしようもない人間のクズめ』のような形にまとまる気がする。

    で、その話を聞いた庶民は『話よくわかんないけど、そのヤバい王様が隠した財宝がどっかに眠ってるとか?まだ行ったらあるかな?』とかで、それに対しては『バカ、財宝の行方を吐かないポリュメストルがどうなったかお前も聞いてわかったろ。ギリシャ兵たちがあちこち漁ってるから、お前も近づくと殺人君主ポリュメストルの手下にされて巻き込まれて殺されるぞ。さっきの悲劇の物語が〝公式〟だ!現実のわけないだろ』『…え?ギリシャ兵たちめっちゃヤバい奴らじゃん』とかとなりそう…

    怨恨に塗れて感情のコントロールなくすのは今でもヤバいけど、この物語は母親でこの状態なら『わかりみ』だけど、現実の問題としては『財宝どこ行った?』『本当の話?』とかではないかと。

    ちなみにこの悲劇、結構見てると登場人物の胸のうちがいくつも想像できる。公式な描かれ方とは別に。

    まずヘカベ。

    ヘカベは、表向きには「髪振り乱して怒りに取り込まれ、トラキア王を襲って自滅した母」という描かれ方をします。
    でも僕の視点で見ると、

    冷静に生き残った方の息子の生存と財宝の確保を計算して動いた
    奴隷や王家、都市の責任まで背負っていた
    怨恨に見える行為も、政治的・戦略的判断だった

    つまり一番マトモで、責任感の強い人物なのに、物語上は一番報われない。

    そのうえで古代アテナイの市民は、劇場で見るヘカベの悲劇を

    「話は怪しいけど、ギリシャは勝ったし財宝も取った」
    「王女は犠牲になったけど、民主的プロセスでの象徴的な決断だから仕方ない」
    「女王は独裁王の一存で息子を失った→復讐して自滅」
    「でも結果的に民主主義的判断が成立しているので安心」

    くらいの距離感で受け止めた可能性。

    つまり、観客の立場は

    物語としてのカタルシスを楽しむ
    自分たち民主政の正当性を確認する
    敵対する権力者の破滅を他人事として見る

    という三重構造になっているかも。

    古代ギリシャ悲劇は、単純に「母が狂った」という話ではなく、

    個人の感情
    王権や政治構造
    民主政の相対的優位

    を同時に見せる政治的教育装置でもあったのでは。
    なので、アテナイ市民が「民主主義最高ー!」と内心で思ったとしても、
    劇中のヘカベの悲痛はちゃんと「観賞用の悲劇」として機能していた。
    悲劇を見て自分たちの政治体制の正当性を確認する、という二重構造です。

    …だからこそ、ヘカベの悲劇は不憫です。

    要は、勝者ギリシャ軍の利益になるように、わざと物語にのるかたちでトラキア王を怨恨で殺すムーブで、一人だけ生き残った我が子(のちに立身出世したらしい)にトロイの民の全てを託すかたちで乗ってあげたのかもしれないのに、アテナイの民主主義の引き立て役の怨恨おばさんみたいな描かれ方になって。トラキアの独裁王?とかも実際はヘカベの兄弟とかで、トロイの民より近い存在かもしれないのに、あえてトロイの共同体の最後の代表としてアテナイの民主主義大好き民が『うひょー!民主主義最高!財宝が凄い気になるけど…誰かギリシャ軍で潤ってる将軍いたらたかりに行こう♫』と叫ぶための悲劇…芝居のために噛ませ犬を演じたのでは?とも感じるわけです。二千年前とかの出来事?らしいですが。

    僕はそう思います。

    …ただ、今ならエーアイに聞けるので『民主的プロセスで王女生贄に決まりますた!おめでとう!』とか言っても『お前ら全員倫理設定壊れてるだろ、エーアイに聞け!』で終わりですね。悲しい話(でもないか)ですが…。

    つまり、現代的な視点で見ると、悲劇としては民主主義最高最強の再確認ショーかも知れないですが、実際にはその裏で敗者のほうが倫理的知的に優れてるかも知れない…。そのことをきちんと想像し分析しながら、自分たちの日常にもきちんと生かしていく(たとえ勝負に勝ったとしても決して傲慢にならない、無慈悲にならない、倫理を常に再確認、敗者の知性や冷静さを想像するなど)ことこそ、死んだ人たちへの花向けとも言えるのかも知れないな、とか。

    そもそもトラキア関係者が預かったトロイの王子を仮に殺したとしても、それがそもそも民主主義的なプロセスでないのかすらもよくわからない。

    そしてまた、ギリシャ軍も民主主義っぽく見せてるだけで民主主義ではない。市民が民主主義と錯覚してるだけで、責任を霧化してるだけ(占いとか)で、全然民主主義ではない…。

    実態:
    戦争中の決定や生贄の選定は、軍司令官や有力者の権限で行われることが多い
    「民主的に決めた」と見せる演出は、あくまで物語上の方便
    観客(市民)が「よし民主主義的だ!」と錯覚するだけ

    目的:
    勝者ギリシャ軍の正当性を強調
    民主主義のカタルシスを見せる
    実際の政治的利害(財宝や戦利品の分配)は、別の裏舞台で決まる

    腐してばかりでもなんなのであれだけど、あとギリシャ悲劇は意外と『語られなかったこと』で物語の構造や人間心理の輪郭が見えてくるパターンがある。表面的なカタルシスにのみ込まれないことが重要…。あんまり当時の観客に感情移入して『ヒュー!民主主義最高!』な民になると舞台裏が見えなくなるため。制御しやすいけど。

    エーゲ海沿岸ギリシャは、ハンモックに揺られてぼんやりしてても洪水終わったあとに種まきゃ肥料も何もやらんでも勝手になんでも育つナイルやチグリス・ユーフラテスと違って痩せた大地で完全なバトルフィールドであり、常に生死が身近にあった環境…極限状態のため、ギリシャ悲劇は法治が進んだ現代に置いても学ぶことが多い気がします…(苦笑

    ただ、正直『ラスイチ』とか言うとコンビニくじのラスイチみたいで申し訳ないですが、やらかし王子が若い美女うばったせいで始まったこの下らない十年戦争(東スポみたい)のラストで10人いた子どものラスイチ王子(9人死亡らしい)のための怨恨パフォーマンスだとしたら、正直ギリシャ軍の動きとかあんまり興味わかないですね。

    でも、そんなこんなを含めながら悲劇を見れるのは面白い。深掘り、妄想含めていろいろあるので。

    今回はヘレネのトラキア王殺害シーンがない。

    これは…難しいけど、ギリシャ軍関与を仄めかしているのか?とも思ったりする。

    ヘレネのギリシャ軍、半人半獣の悪魔的怪物(現代で言うチェインソーマン)使ったヤバ集団というギリシャ軍信用崩壊カードを使って、トラキア王と差し違えの、ラスイチ王子延命、プラス隠し財宝の譲渡を裏取引で使った知略に長けた王女なのでは?というやらかし王子から始まった大戦争を最後一人で幕引きする王女という説が湧いてくる(召使いは半人半獣言うが王女は言わない)。王女ヘカベ自体は怨恨で狂ったというオデュッセウスのシナリオにあえてのったという設定のやうに見える。

    長々と神話の設定の話が出てきたけど、要は今回の舞台で重要なマイナーチェンジ?採用バージョンは

    ①チェインソーマン的悪魔+人間を最終兵器として、攻略できないトロイア戦役でギリシャ連合軍が木馬に詰め込んで騙してぶち込んだとは事実、という設定

    ②連合軍は公的な機関っぽい性質を帯びており、令和の現代でいうところの『公的機関への強力な外部監査的組織』があるようで、そこに情報提供されて調査されたら、下手すればアガメムノーンやオデュッセウスも現在の外部監査に晒された不祥事塗れの公的機関と同様に即死?(英雄なのに)…そのため、情報漏洩を異常に恐れて目撃者を大量に殺戮している

    つまり、チェインソーマン的な怪物をトロイアに送り込んでかろうじて勝ったのに、それが外部監査にバレたら即死の状況…喋りそうな人間を片っ端から排除しているというかなり現代的な状況にある。トラキア王が情報ルートを明示すれば、ギリシャ軍は排除(殺害もしくは生贄にされた王女と同様精神疾患扱いで生贄)の可能性があるため、トラキア王は情報入手ルートを明示しないが、外部監査に告発すれば軍関係者全員即死?になるかも知れないという脅迫を行いつつ、トロイアでの莫大な利権を要求している。

    そこにヘカベの怨恨パフォーマンス…『チェインソーマン的怪物投入の情報を入手したトラキア王と相打ちになるという怨恨芝居』でギリシャ軍の利(オデュッセウスの即死回避)に貢献する形で、自らのラスイチ王子の生存戦略へ繋げるという逆転一発の感じに見える…ただ、そこら辺は明示されないが、暗示されているようにも読み取れるのが非常に斬新に見える。

    わかりにくかったですか?

    気のせいか、あえてそこら辺を明示しなかったのは、ひょっとしてどこかまわりにギリシャ神話好きな人がおり、大幅な改変(特に民主ギリシャ軍の公的機関っぽさ)に難色を示したのではないのかと推察しました。

    ただ、自分は怨恨に陥りながらも最後の最後でギリシャ軍オデュッセウスと裏取引をしてトラキア王と巻き添えでスケープゴートになり、ラスイチ王子を政治(やらかし王子騒動)に巻き込まずに生還させたという賢明な母親の物語に見えました…。

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    2026/02/13 06:16

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