クレマチスの小屋 公演情報 劇団大樹「クレマチスの小屋」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白い。劇団の最終公演、その初日 初回に観劇。別れを惜しむファンで超満員。
    カーテンコールで主宰の川野誠一さんが感極まって千秋楽のような挨拶をして、場内から「まだ初日だぞ!」といった温かい励ましの声が飛ぶ。劇団大樹は1995年10月19日に 今はなき銀座小劇場で産声を上げたらしいが、物語に登場する人物の誕生日も同じ日にして、その想いを紡いでいく。

    物語は、喫茶ミミズクを舞台に繰り広げられる記憶と思い出の彷徨。そして柑橘系の別の芳香が、物語の内容と相まって優しく 癒してくれるよう。また毎公演、花美術が見事だが、本公演でもその魅力を十分表現していた。大地に根を下ろした大樹、それは まさに劇団名そのもの。もう一つが生演奏、アコーディオンの音色が情緒的な雰囲気を盛り上げる。

    少しネタバレするが、店に飾られている人形と猫を擬人化して、人の心に寄り添うような描き方。人は時代の中で生きており、その生き様は人それぞれ。しかし心の奥底にある芯は、どんな時代でも変わらないのではなかろうか。そんな気概と優しさが感じられる好公演。
    (上演時間1時間45分 休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術、上手は喫茶ミミズクのカウンターや食器棚、その横に飾り棚があり おさげ髪の人形や本など。ほぼ中央に天井近くまである大樹、その枝は喫茶店(上手)の方まで伸びている。中央に丸テーブル。下手 客席寄りに別空間、ここがヒロイン町田マチコの家。床には枯れ葉が…。上演前から飾り棚の横にある椅子に腰かけている おさげ髪の役者(役名:人形)、勿論 棚の人形の擬人化。

    物語は説明にある通り、マチコの祖母から母の遺品が送られてくる。遺品の中に手紙と写真があり、その裏面に「1990年1月 店の前にて 君ちゃんの退職の日」とある。封書の差出先住所を訪ねたところから物語は始まる。店には近所の陶芸家 柳沢涼介と常連客 すみれ が店番をしていた。マチコが来訪の趣旨を告げるが、涼介の対応は素っ気ない。実はマチコの母は涼介にとって思慕の人。その娘が突然現れて驚いたが、それにしても少し様子が変。そこから涼介の心の彷徨、思い出を通して35年前の出来事を紡いでいく。

    涼介の父は芸術家、母は病で入院中という寂しさを 君ちゃんは癒してくれていた。自分にとって大切でかけがえのない人、その人に子供(娘)がいたショック、しかも涼介の父が関係しているような…。この本筋とは別に、脇筋として社会に出ることを躊躇い全国を旅している青年 友也や、近所に住む すみれの生き方の模索を描いている。漠然とした不安や希望をさり気なく描くことによって、若者がどんな形にせよ 前に向かって歩む準備をしているといった姿を見るような。物語は、本筋の涼介とマチコの新たな関係性、そして脇筋の若者たちやミミズク店長の新たな旅立ち、そこに最終公演を機にした「終わり」から「始まり」を感じる。

    店の移ろいを35年以上見続けてきた人形、上演前から物語(時代)をそっと見守るように佇み、踊る(バレエ)ことによって優しく寄り添う、そんな愛らしさが印象的。それは 今という時を見つめる猫 トラも同じ。そしてアコーディオン奏者も座って演奏するだけではなく、動きながら物語に溶け込んで…その音色によって余韻付けする。勿論、場景に応じて衣装替えするなど丁寧な演出が好かった。

    30年間お疲れさまでした。また機会があればー当日パンフにある「僕(川野誠一さん)が演劇をやめるわけではありません」とあるので…。

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    2025/11/06 23:43

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