無題
不覚にも号泣した。この作品は実際の事故を題材にしているけれどフィクションだという。しかし下手なドキュメンタリーよりずっと伝わってくるものがあったと思う。
私も理系でかつて研究職にあった人間だから、この作品の主人公に感情移入するのは容易だ。いつまでもクヨクヨしていても仕方ないし、死んだ者は帰ってこないのだから、事故の原因究明や生存率向上を図るための努力をしていくべきだと考える。そして、ヒステリックに泣きわめき続けるような人を愚かだと見下してしまう。この作品を観るまでは、そんな自分は冷静で正しいと思っていた。
しかしこの作品を観て初めて、泣き続ける人の気持が理解できた気がする。合理的に割り切ることができない心情が“見えた”気がする。共感できるかどうかはわからないが、合理的に割り切ることだけが正しい姿勢ではないということはわかった。
嗚咽が漏れるほど泣いた芝居は初めてだ。なぜそんなに涙が溢れたのかわからないが、多分、凄まじい悲劇が語られているのに悪者が一人も登場しないからだと思う。