宇宙で一番孤独な場所 公演情報 夜光群「宇宙で一番孤独な場所」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

     ドラマツルギーについて考える必要があろう。

    ネタバレBOX

     板ホリゾントにエレベーターの扉のような開閉口。開演前にはその前に“田中真美の脳内”と書かれた布が時折風にはためき乍ら揺れている。開演と同時に撤去されると主演の真美が現れ目前に設えられた階段を下り下手に置かれた、赤や黒のドレス、スカート等の衣服を体に当ててみたり、上手恐らくクローゼット内に置かれた衣文掛けにバスタオルを干す等の作業を始める。その後、現れる多数のキャラクター。男女ともに居るが女性が圧倒的に多い、各キャラクターは各々独自の性格を持つが基本的には世間からの評価が低いことを気に病んでいる。因みに真美自身は地方から夢を叶えようと上京してきた。然し三十路を越える現在になっても未だ自分自身の夢を確定することすらできておらず、宇宙でたった1か所リラックスできる時空は布団に包まり眠る時だけ、という塩梅である。その癖“立派な社会人になること”だけは恰も金科玉条の如く頑なに自己命題化している。また、故郷に帰る条件として、目指している“立派な社会人としての自己の確立以降”という条件を科して居る為、心配する母からの電話だと分かり切っている電話に中々出ることが出来なかったり、無視してしまったりを繰り返している。そういった日常が自己否定を生み出し、それが益々真美を、第三者の存在と対峙する機会を喪失させていることにも気付くことが出来ない。即ち論理的に決して脱出できない隘路に自ら嵌りこんで身動きが取れず自家撞着の不快に沈み込んでいるのである。試しに“死にたい”と戯言は繰り返すものの、無論本当に遂行することはできない。それ位のことは自身でよく理解しているものの、覚醒している訳でもないのは、三人称的な世界に生きていない以上必然である。が、一人称世界でしか生きていない彼女にそのような論理を構築することは不可能である。母との関係が正常に築ければ二人称世界を通しての三人称世界への軟着陸も可能であったかも知れない。然し描かれた内容内にその兆しは見えない。それが、今作の限界である。世間や第三者との鬩ぎ合いを避け、何時までもナルシシックな一人称世界内で生きる限り、この壁を乗り越えることは不可能である。本来なら、二十歳前後でこの問題は克服していて然るべきなのだが、こじらせてしまった以上、腹を括って意図的、論理的に自らの頭脳をフル回転させて克服する他はあるまい。表現する者として生きる気であるなら、この問題は避けては通れない必須の問題であることに気付けないようでは、良いシナリオは書けない。演劇をやっている以上、シェイクスピアは読んでいるだろう。仮に「ロミオとジュリエット」でモンタギュー家とキャピュレット家が因縁の対立関係に無く、互いの親族同士の殺人や親友の殺害等が無かったら、また、ジュリエットの仮死を知らせる手紙がロミオに届いていたならこの悲劇は、完全に間の抜けた作品にしかならなかった。その程度のことは中高生でも分かる。脚本を執筆する以上乗り越えねばならぬ初歩的問題なのである。
     因みにこのような問題を個人的に抱えた個々人が三人称世界と対峙する状況を描くことができれば、面白い作品になるだろう。それを実現する為には、先ず、世界に向かって翔び第三者と格闘すると同時にその手法を自らの頭脳を用いて編み出すことが必要だ。ヒントは書いた、今後に期待している!

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    2025/08/09 10:41

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