ひとくず 公演情報 映像劇団テンアンツ「ひとくず」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     必見! 華5つ☆ 途中休憩を挟み長尺の大作だが余りに夢中になって時を図るのを忘れた。追記7月8日11:55

    ネタバレBOX

     私事で恐縮だが私自身が多少複雑な環境下で育ったので幼児期のある期間親権下になかった。70年以上経た現在でもトラウマであることに変わりはない。ただ許すことを覚えたに過ぎない。更に若い頃かなり長期間地域の住民運動に関っていたから様々なタイプの人々と関りを持っていた。こういう人々の中には虐待を受けていた人たちも多かった。そして子を虐待した親のそのまた親も子を虐待していたというケースが実に多いのが実情であるという事実を観てきた。
     オープニングでホリゾントに浮かび上がる観覧車の光彩が都会の夜に浮かび上がる時、何という侘しさ、妙な切なさが胸を撃つか! これはこの後のシーン、マリとカネマサの少女・少年期が交互に描かれる、母に取り付いた男によるそれぞれの虐待の有様を予め暗示しているように見える。マリとカネマサの左手に残る無数の根性焼きの跡。更にマリの胸にはアイロンで焼かれたケロイドが残り、カネマサには失明の危険を伴う頭部の負傷があった。カネマサの母、マリの母は、何れも自らの子が傷付けられることを防げなかった。但しカネマサの母は息子を庇おうと抵抗した実績は持っていた。この点がカネマサが弱者を庇い続け、優しさを持続する靭さを保持し得た原因かも知れない。極めて残念なことであるが、今作で描かれているように虐待に走る親と、それを止められない親に共通する圧倒的共通点は、現に虐待している親は、虐待されて育った親であり、その親もまた虐待されて育っているので、子供の愛し方を知らない、否寧ろ子供の愛し方が分からないという事実なのである。
     兎に角、脚本に人の心を撃つ力がある。作・演が上西 雄大さん1人なので細かい処迄虐待という不条理に抗う強い念が一貫している。キャスティングも良い。殊に少女時代のマリを演じた役者さんのまっすぐな演技が作品の錨のように機能し、所轄の刑事らのカネマサ(鴉)に対する深い人間性評価は剣持さん演じる元名刑事・桑島を通じて随所に鏤められ、カネマサの犯した殺人事件や窃盗事件に関しても何とか見逃してやってくれ! との気持ちを観客に呼び覚まし一瞬たりとも緊張感が途絶えることが無いなど芸達者な役者陣が各々いい演技をしている。
     終盤、カネマサ逮捕に至る場面でも、それを執行したのは、本署の連中であり所轄署は蚊帳の外で関与出来なかったが、カネマサがマリの誕生日に買ったプレゼントは桑島の計らいで渡すことができたばかりでなく、カネマサ、マリが分かれの挨拶を交わすこともできた。一方で現実に殺人という重罪が裁かれるという現実の厳しさをも同時に描いて作品のリアリティーを担保する点も流石である。観客もこの劇団のファンが多いようであるが、それも当然と頷ける良い作品であり、劇団である。

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    2025/07/05 11:52

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