カラムとセフィーの物語 公演情報 文学座「カラムとセフィーの物語」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    最後は「抜け出した」二人
    原作は、本国で高評価のシリーズものの第一作、しかも400頁と
    相当な長さの作品。 それを三時間近くにまとめたその手腕が素晴らしい。

    それを可能にさせたのはまず何をおいてもスピーディーでパワフルで、
    緊張感をうまいこと持続させていた演出によるところは大きいですね。
    最後辺りは、何とか最悪な悲劇だけは回避されますよう…と半ば
    祈るように観ていました。

    この作品、結構肉体的に痛い部分やキツい言葉が出てきたりするので
    ほんの少しだけ、そこは理解して観た方がよいかも知れないです。

    多分原作と劇作では結末部分が大きく変わっているようですが…
    そこはネタバレで。

    ネタバレBOX

    11歳と13歳から始まるカラムとセフィーの関係。 

    その二人の関係は年を追うごとに、周囲の環境が変わっていくごとに、
    同じように激変していく。 

    かたや決して裕福とはいえない、被差別種族のノート人のカラム。

    かたや、支配種族であるクロス人、しかも副総理の父を持つセフィー。

    本人達の「二人でいたい」というささやかな願いも、人種間の際限の無い
    憎しみの中に翻弄される。

    ノート人の解放義勇軍に参画し、爆破テロを起こした咎で父親を
    殺害されたカラムは家を出、兄に誘われるまま、自身も解放義勇軍に
    身を置く。 

    セフィーとの、一緒に駆け落ちしようという約束は、ちょっとした
    行き違いから反故となり、再びの三年後の再会の時、かつての
    心優しいカラムはいない。 彼はセフィーを誘拐し、組織の身代金の為の
    人質とする。

    ここでの、セフィーの、カラムへの悲痛な訴えは心が痛いです。

    二人で向き合ううち、三年前の約束の反故が誤解とすれ違いに
    よるものと分った二人はそのまま情を交わす。
    アジトを警察に突き止められ、逃避行の中、カラムはセフィーを
    無事逃がすことに成功する。

    時は経ち、二人は自分達が幼少の頃、よく遊んだ思い出の浜辺で
    落ち合う。 そこで、カラムはセフィーの口から、彼女が自身の子供を
    身ごもったという事を知る。

    喜びの中、二人は子供の名前を。 カラムは自分達がよく遊んだ
    庭に咲くバラからRoseを、セフィーは息子だったら彼の殺された
    父親にちなんでRyan、娘だったらカラム-Cullumを崩してCallieを提案。

    しかし、二人だけの時間は突如終わりを告げる。 突如現れる警察。
    カラムは連行され、その後死刑判決を受ける。

    死刑の十分前、現れたセフィーの父親から、娘の生まれてくる子供が
    自分の子供ではないことの証明書を書けば恩赦を与える、という取引に
    証書を破り捨てることで応じたカラムは、刑場でセフィーと互いに愛を
    叫び合いながら息絶える。

    やがて。
    セフィーは娘を出産。かつての約束通りCallieと名付け、自身も今後は
    カラムの「マクレガー」姓を名乗ることを発表。

    半ば勘当された身のセフィーは娘と共にかつての二人の思い出の
    浜をゆっくり歩く。 自分の恋人はすぐそばにはいない。
    しかし、「あの日」書いた二人のRoseとCallieの文字はしっかと残り続ける…

    結局、この物語の中ではクロスとノートの諍いは終わらなかった。
    でも、時に憎み合いさえもした二人の子供はこうして生きて憎悪の
    連鎖、それしかない世界、それが終わらない世界とは別の世界を
    生きる可能性と希望を持っている。 

    そして、それは二人の両親の決断のおかげ。
    二人が子供を守ったから、この子は「二人の子供」として生を
    受けることが出来たことは忘れてはいけないのです。

    現実は厳しく、決して自分達の世代では好転しないかもしれない。
    それでも、小さなことからわずかに変わる希望があるのかもしれない。
    そう思うと、明日に明るさを少しでも覚えることが出来るかも知れない…と
    考えることだって出来ます。 そうでしょう。


    『カラムとセフィーの物語』。 原題―Noughts and Crosses

    説明書きによると、○と×を三つ並ぶように置いておく、日本でいう
    オセロゲームみたいなもので「相手にミスが無く両者が真正面から
    真剣に向き合う場合には、勝負がつかない」そうです。


    あとから、振り返るとこの解説が、この物語の本質を衝いている気がする。
    人対人。 簡単ではないけど、そこにこそ光がある気がする。

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    2010/10/13 21:55

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