マライア・マーティンの物語 公演情報 On7「マライア・マーティンの物語」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2025/05/19 (月) 14:00

    200年前のイギリスで実際に起こったセンセーショナルな殺人事件を舞台化した作品。
    虐げられた女たちの、泥にまみれたエネルギーに圧倒されまくった120分。
    理不尽な社会に対するささやかな復讐が、この理不尽な手段で何が悪い?!
    社会や戦争、そして男どもを羽交い絞めにするような作品を紡ぎ出すOn7に相応しい
    愛と怒りに満ちた舞台だった。

    ネタバレBOX

    冒頭から、血にまみれたマライアが客席に向かって訴える。
    「私が死んでからもう1年になりますが、まだ誰も私を見つけていません」
    そして自分を騙した男が拳銃で自分を撃ち、まだ息のあった自分をさらにスコップで
    殴ってとどめを刺したのだと語る。
    そんな衝撃的な最期を遂げたマライアにも、貧しいながら明るい少女時代があった・・・。

    領主と、その土地を借りている農場主、彼らの権力の下で食うや食わずの暮らしを
    している村が舞台。
    仲良し5人娘は夢を見ながらも現実に流され受け容れて、食べるために売春まがいのこと
    をして不本意な妊娠を繰り返したりしている。
    その中でマライアは農場主の息子トマスと恋に落ち、妊娠するも赤ん坊は死んでしまい、
    トマスも不慮の事故で死んでしまう。
    次の恋の相手はその死んだトマスの弟ウィリアム。
    結局このウィリアムが、自分の子どもを産んだマライアを騙して納屋に呼び出し、
    殺してしまうのだ。

    貧困から抜け出すには金持ちとの結婚しかないという選択肢の無さ、その結婚を
    周囲の誰も認めないという行き止まりの中で、信じた男に裏切られたマライア。

    彼女の人生の中で救いとなったのは父親の再婚相手アンだ。
    ふたりが初めて顔を合わせるシーンは、よくある継母と娘の凡庸なぶつかり合いでは
    なく、緊張しつつも互いを尊重して素直に認め合う、この作品の中で一番温かく安心
    できるシーンだった。
    この継母アンが「夢にマライアが出てきてここにいると言った」と赤い納屋を訪れる。
    何度も同じ夢をみて、ついにアンは変り果てたマライアを発見する。

    そして残された仲良し4人と継母アンは、意を決して復讐を果たす。
    客席のすぐ近くで、ゆらゆらと明々と彼女らの顔を照らし出す炎。
    自分たちの正義を信じ「こんなのおかしい!」と行動を起こした5人の表情が清々しい。
    有頂天でも、絶望しても、彼女たちのエネルギーの凄まじさは、令和のひ弱な人間を
    圧倒する。
    あれは豊かな暮らしの中では決して生まれないエネルギーだ。

    極秘出産したのち、次第に理性を失っていくマライアがリアルで怖いほど。
    復讐するのだ、と皆を説得するセアラには、舞台全体を揺さぶる強さがあった。
    アンは、たとえ憎まれ口をきいているときでも、その表情は慈愛に満ちている。

    200年経って、私たちの時代はマライアの生きた頃から変わっただろうか。
    厳然と残る階級や因習や誰が作ったのかわからない”常識”に縛られる社会は、
    進化どころかますます縛りがきつくなっているように感じる。
    友達だって、極秘出産を助けに来てくれたり、復讐してくれたりはしないだろう。
    そしてもちろん、私の死体を見つけてくれる人もいない。
    それだけは、マライア良かったね、と思う。

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