花いちもんめ 公演情報 劇団川口圭子「花いちもんめ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     戦争の内実を端的に示した必見の舞台。(追記2025.5.13)

    ネタバレBOX

     板上下手客席側コーナーに地蔵菩薩、小さな平台の上に載っているのはやや盛り上げた礎石などの台を示していよう。この奥に柱が立ちその奥、ホリゾントには卒塔婆が連なる。地蔵が祭られた場所の奥には泉の湧く場所があるようだ。この泉の上手は大小の平台が重ねられ四国四県の空海ゆかりの霊場八十八カ所(全長1400㎞)を巡る巡礼の旅(お遍路)の道程を表している。その長い道程には難所もかなりあり、殆ど身一つの旅は難行である。板中央から上手に重なる平台の傍には矢張り墓や卒塔婆が見える。
     物語は中国東北部に大日本帝国が「建国」したと主張し13年間「存在」した満州国(面積は日本の約3倍)末期、ソ連との国境沿いに存在した開拓村団員の方々が経験した事象の有様を、史実を基に演じる一人芝居。
     自分には個人的に様々な縁のある作品であった。縁の深い親戚が満州引き上げ者であったこと。自分の仲良かったライターの父親が満鉄社員であったこと。更に自分の勤めていた出版社の経理の方が矢張り満鉄社員であったこと。取材で訪れた夜間中学に中国残留孤児の方々が何人もいらしてお話を直に伺ったこと等々と自分の親友もお遍路をしたことだ。   
     親戚に関しては伯父は戦中に亡くなっていたのでお会いしたことは無かったが従弟たちは満州の話をあれやこれやしてくれたものの、伯母は一度も満州の話をしなかった。亡くなる迄一切。如何に悲惨であったかは想像できるものの、実際に何が起こったのかは想像する他ない。
     満鉄社員だったお二人は極めて優秀な方々であった。友人は大宅壮一ノンフィクション賞と講談社ノンフィクション賞を受賞した一流ライターであったし、お父様、お母さまも実にしっかりなさった方々で流石に出来のよい娘の親と感心させられた。ご両親にお会いしたのは友人の葬式の席であった。お母さまとは電話で何度かお話させて頂いていたが、お父さまとは初めてであったがとても大きな葬式で著名人も多く訪れる中、特に娘と親しかった者の一人として格段のご配慮を賜った。経理をなさっていた方は明治生まれらしく気概が昭和世代の我々とは全く違う覇気に溢れ自らの高い能力をフルに発揮してことに当たる方であったが、この方に我ら編集部員が皆「“侍”だね」と言われたことが嬉しかったことを思い出す。
     夜間中学を当時文科省は正式に認めていなかった(現在がどうかは関心ある読者ご自身で確かめて欲しい)。が実際に存在していたし、実際の中学校で開校されていた夜間中学校教室と中学校の校舎を使用せずに運営されている夜間中学の二通りが在った。自分が取材したのは前者の一つ。ちゃんと給食も出るのは昼間就労している方も多いからである。残留孤児以外に、様々な理由で登校できなかった方々、正式な国籍が無い(出生時に未登録を含む)為、就学できなかった等々本人の責任は全く無いにも関わらず義務教育の機会さえ奪われ社会の最底辺で苦労なさっている人々の例えば電車に乗る時。彼らは最低運賃である初乗り料金の切符を買い、下車駅は車内放送を聞き逃さぬ様注意して乗っており下車駅が告げられるのを目安に降りて精算するという話(理由は分かろう)を伺った時は、余りの落差に唯呆然とする他無かった。引き上げの方々では親を探したが見付かっていない、との話をなさる方々がいらして今作の内容と引き比べると言い出せないお母さまもいらっしゃるのであろうと、その深い、余りにも深い苦悩に胸が痛む。お母さまにとっても、子供(たち)にとっても。
     お遍路をした親友は医師である。日本を代表する大学の医学部出身であるが、天下の秀才には珍しいどこか鄙びた村の村長さんのような人間味溢れる男である。極真空手、柔道等武道を嗜むが無論右翼などではない。常に弱者の側に立つので万が一に備えてのことである。

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    2025/05/09 13:42

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