音響劇『ドグラ・マグラ』 公演情報 半畳の宇宙「音響劇『ドグラ・マグラ』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

     言うまでも無く原作は夢野 久作。今年は刊行90周年に当たるということもあって、大田区池上本門寺の直ぐ傍にある本妙院という寺の本堂での公演が企画・上演された。墨流しで得られた形象をコの字を時計回りに90度回転させた空白部分に当たる壁面に映し出し、ドグラ・マグラが発するものを映し出す。これに鐘や和太鼓等様々な音響効果を加えた音響劇として上演したのである。因みに客席はコの字を構成する各直線部分に設えられている。華4つ☆

    ネタバレBOX

     物語が紡がれる場は九州帝国大学精神病科の7号室。現在では日本でも遅ればせながら多少存在するようになった精神科解放病棟の一室である。今作では天才的帝大教授であった正木 敬之教授が初めて提起した狂人の解放治療の実施がこの病室の患者・呉 一郎に対して行われる模様を通して一郎が犯したと疑われる殺人事件の解明をも目指す正木の同級生でもあった若林 鏡太郎の治療実践を通した事件解明の模様が描かれる。何故正木ではなく若林がこの任に就いたのか? 正木は後を若林に託し自死してしまったからである。若林が一郎の治療を通して理解したことは一郎の祖先であった唐の天才絵師・呉 青秀が、皇帝の愛妾狂いを諫める為に描いた呉家に伝わる絵巻物(類稀なる美女が死んでから腐敗し遂には骸となる迄を詳細に描いた傑作)が、一郎が犯したとされる殺人事件と関係があるらしいこと。その理由。現在記憶を失くしている一郎が記憶を取り戻せば殺害された彼の婚約者の魂の救済にも繋がり一郎の回復にも通じることが期待されている。という推理小説的展開を通じたドグラ・マグラという作品構成要素以外に、この絵巻物を描いた青秀の作品を通して芸術の持つ力をアピールしたかった夢野 久作の念をも同時に表出したかったと思われる。無論、因縁話的な要素を盛り込む為に呉 青秀とその妻黛子(双子の姉妹芬子との関係)と一郎の母千世子と姉八代子、その娘で婚約者であったモヨ子との血の繋がり(DNA的繋がり)と史的繋がりの綯交ぜ。何れにせよ、解毒阿保陀羅経の如く折に触れて囃される文言の齎す茶化しのインパクト等が、今作の横糸を為し、縦糸には個体発生が系統発生を繰り返すという生命誕生時の発生学的知見を縦糸に解釈するなら、今作は極めてシンプルな様相を呈するに至る。大団円も素直に受け取ることができよう。
     難解とされる原作を極めて明快な作品として提示した点に今回上演の意味があろう。

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    2025/05/06 15:09

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