迷子 公演情報 WItching Banquet「迷子」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     ベシミル!

    ネタバレBOX

     Musicalは基本的に余り好みではない。何となれば大抵戯曲の内容が余りにも単純化されてしまい、内容的に深みを欠くケースが多いからである。脚本重視の自分はこれが原因で好みではないのだ。然し、今作は例外であった。曲想、歌詞、生演奏が物語の内容に見事に調和し恰も演劇そのものに溶け込んで融和しているかのようであったからである。演劇の醍醐味と音楽の素晴らしさが相互に高め合うような効果を生み出していた。戯曲自体の良さも無論のこと、役者陣の演技も何れ劣らぬ良い出来である。
     舞台は、小さなホールだから余計な装飾は一切ない。位置と高さの異なる板をその1枚、1枚が踊り場となるような塩梅で配置されている。それだけであるのが良い。客席は“」”の形で組まれコーナー部分が通路になっている。場面によっては役者の通路ともなる。
     登場する演者は都合6名。長男・堅一(東京で勤め人をしているが、母の治療弟の面倒見などで有給休暇を取って帰省中)、香子(母、堅一が大学に入学して東京で暮らすようになって以来精神を病み統合失調症を患っているが、薬を飲むことを拒否しがち。理由は家族を守る為の通信が聞こえなくなるから)真紀(偶々、夕陽の綺麗な場所で母が消え入りそうな様子の真紀を見付け連れ帰った元ホステス、アルコール依存症で息子が1人居るが離婚した夫に子供の親権を奪われた。原因はアルコール依存による育児放棄)次男・智哉(既に体は大きくなって大人並みだが知的障害を持ち知能の発達は小学校1年生程度。言い出したら聞かない、アニメのヒーロー・ジャスティスが大好き)、お手伝い・登紀子(通いのお手伝いさん、極めて有能で気が利く。長い間この家に務めていることとてきぱきと仕事をこなし而も人情の機微を良く弁え母の悩みの受け皿、弟の遊び相手やだ駄々を捏ねた時の調整役すら最も見事にこなす賢婦人。こんな人なので家族全員から信頼され家族同様の扱いを受けている)Voice(母が薬を飲んでいない時、その妄想の具現化を表象する存在、夢幻能の片鱗を感じさせるようなキャラであり、母の幻聴とその苦悩の深さ、異様性をも表現するように見える)
     さて、物語の粗筋をざっと記しておくと、真紀の居候している大きな家は地域の資産家のお嬢様であった香子の持ち家、夫は香子と智哉2人の世話に疲れ果て堅一を呼び戻す為に「お前のせいで母はこうなった、面倒を見ろ」と連絡した後、失踪。行方不明である。真紀自身は努めて明るく振る舞い、智哉のお気に入りにもなったが、近いうちに5歳になる我が子のことがずっと気掛かりである。因みに息子を連れ去られて半年、自分が病院に搬送されたのは4歳になっていた息子が隣家に連絡をして救急車を呼んでくれたからであった。アルコールを断ち、現在も飲みたい強い欲求に何とか抗っていられるのも息子を思えばこそである。一方堅一は、こんな真紀に心を惹かれている。然し現実問題として薬を飲むことを隙あればスルーする母、スルーすれば幻覚症状に襲われることが分かり切っているにも関わらず油断すればいつ何時スルーするか知れない母と知恵遅れの弟を抱え、家族同然のお手伝いさんを解雇することも憚られる中、経済的合理性からもこの屋敷を売り、自分も東京の勤め先に戻って母と弟も東京で施設に入れることが最適ではないか? との考えにも中々最終決断が下せない。余りにも優しい性格なのだ。そんなこんなで家族全員と居候1人が全員、悩みに打ち沈む中、唯1人日常生活目線で合理性を発揮し先導役を務めるのがお手伝いの登紀子である。今作の成功要因は、この人間関係のバランスにあると同時に登場する人物総てが全き善人であることだ。Voiceは謂わば影の存在なので当然物語レベルでのリアルには含まれずその影を含めた全体の雰囲気をフォローしていると考えて良かろう。
     以上に挙げた今作の特徴を用いて何が為され、何が為されなかったかについて検討してみることにする。為されたことは、どの存在も他の存在を浸食しない点にある。即ち完全にヒトとして同等なのである。為されなかったこととは、優生保護法に在った本質、即ち有益・無益、有用・無用といった区別を根拠にした差別が一切無いことだ。現実にはあり得ないかも知れないこのことこそ、今作を優れた作品足らしめた要因であろう。各々の思いが全編を満たし現実には在り得ないユートピアを実現してみせた。これもまた芸術表現の力である。

    2

    2024/07/02 15:22

    1

    4

  • 佳田亜樹さま
    コメント有難うございます。
    物語の内容に個性があり而も内容が具体的で
    更に納得のゆく収斂にもってゆく力量を評価します。
    出演する役者さんたちの何れも演技・歌唱共に優れ、
    充実した作品でした。演出もキャスティングの良さを
    踏まえて物語の流れを上手く観客に伝えて自然に受け取る
    ことができました。御礼申し上げます。
                      ハンダラ 拝

    2024/07/11 12:00

    ご観劇いただきまして有難うございました。

    2024/07/11 09:02

このページのQRコードです。

拡大