墨を塗りつつ 公演情報 風雷紡「墨を塗りつつ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    その時代の空気を描写する力
    ミステリーのテイストがあって
    ぐいぐいと惹かれていきます。
    それは、時代のテイストへ観客を導く誘導灯にも思えて。

    やがて包み込まれる
    まさに墨を塗りこめていくような、
    滅失感のようなものにこそ
    がっつりと浸潤されました。

    ネタバレBOX

    場内に入ると、
    精緻に作られた日本家屋の雰囲気に圧倒されます。

    終戦の玉音放送を聴く
    その家の人々の描写から物語が始まります。
    教科書などだと、多分1~2行で描かれる
    「終戦」の空気の緻密さにいきなり引き込まれる。

    その緻密さが失われることなく
    終戦直後からのその家の時間が流れていきます。
    病に伏せっていた当主が亡くなり、
    後を継いだ兄と、奇跡的に復員した弟、
    さらには二人の妻と使用人たちが
    戦後のどこか呆然とした、
    でも、ドラスティックに変わるわけではない
    あるがままの時間を紡ぎあげていく。

    特に兄の妻の死のあたりから
    その中に縫い込まれた絶妙な不可解さが
    あからさまに膨らんでいくのですが、
    場の空気がしなやかに作られているから
    それが場から浮くことがない。
    障子などを使った見せ方が
    観る側を一層前のめりにさせます。
    よしんば、それが外連であったとしても
    観る側は強くその世界に取り込まれて
    もう一歩奥へと視座を運ばれる。

    その家の造作や、
    家人や使用人たち、さらには訪れる者の
    それぞれの所作の自然さが舞台の空気を支え切って。
    ミステリーのなぞ解きは、
    人の死の真実を語る中にとどまらず、
    戦時から終戦を超えての
    その家の空気を解きほどいていきます。

    戦時の価値観が崩れていく中で、
    閉じ込めていたものの箍がはずれたような
    まさに墨で塗りこめていくような想いが
    ぞくっとくるような感触で観る側にやってきて
    息を呑む・・・。

    役者たちが
    舞台上でキャラクターたちの想いをしっかりと持って演じているのが、
    きめというか舞台の解像度を作り上げます。
    観る側にその感覚が腑に落ち、
    教科書に数行で語られる事実とは異なった
    戦時や終戦の質感に心を掴まれて・・・。

    ミステリーの顛末に取り込まれながら
    その世界で供された終戦時の滅失感にこそ
    瞠目したことでした。








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    2010/08/13 05:47

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