吉良屋敷 公演情報 遊戯空間「吉良屋敷」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     断固、観るべし! 華5つ☆。尺は約100分。初日を拝見。(追記1追記2アップ。追記はこれで終了)

    ネタバレBOX

     いつも感心させられるのが舞台美術の抽象的な美なのだが、今回もそれは裏切られなかった。日本の建築物の美について、またその独特な構造上の美しさや機能面に於ける論理的構造の正確性のみならず、必ずどこかに一筋縄ではゆかぬ美への哲学すら感じさせる捻りが埋め込まれていることは驚嘆すべきものである。そういった伝統を踏まえながら作られている今回の舞台美術も観劇に必要最低限の要素のみを見事という他ない構造と配置で示し余計なものが一切ない。当に演劇の醍醐味を生きた人間が創造する点に集約している為とみて良い。作中、台詞としても語られる吉良邸の構造を過不足なく再現構築しているうえに余計なものが一切無いのは、今作で描かれる華の場面(茶会)で利休の侘び寂びの精神をこそ、重んじ楽しんだであろう吉良上野介の、領地民から慕われたという伝聞からも察することのできる超一流の風流人、現代風に言えばディレッタントとしての側面をも表しているかの如し、なのである。
     物語は、赤穂浪士が吉良邸を襲撃に及んだ、当にその当日、日中から翌朝に掛けての20時間程である。この僅かな時間内に吉良と浅野、その家臣団赤穂浪人との経緯総てを集約し、然もこの「忠臣蔵」は、吉良側の視座から描かれている。上演台本、演出、美術が遊戯空間主宰の篠本賢一氏。今迄何度も書いてきたように能の故観世榮夫氏に20年程学んだこともあり日本の古典芸能にも造詣が深いからこそ実現し得た舞台である。音響も尺八、横笛、琴、呼子などは総て生演奏、拍子木が随所に入り音響部門でも舞台を締める。無論必要な場面では劇場の音響も入るがメインは生演奏という贅を尽くしたものであり、照明もいつも通りシアターXの見事な技量を示している。
     少し用語や分かり難いかも知れない箇所の説明もしておいた方が良いかも知れぬ。高家としての吉良家というのは、足利氏の支流に当たる吉良家が皇族との関係が深く朝廷での官位も高かった為に用いられている言葉で吉良家はその筆頭格であったが、実際に幕府と朝廷の連絡や儀式の運営・指導に当たっていた家柄を指す。然も吉良家は旗本でもあったから実勢は大したものであったと思われる。その上、吉良上野介は長男を失い次男を得たが、当主が急逝した上杉家の出身である妻の関係から次男は上杉家の養子となり城主となった為上杉家からも支援を受ける身となっていたのである。将軍は綱吉であったが朝廷に対して破格の礼を採ったことでも知られる。浅野内匠頭即日切腹という厳しい判断は、綱吉が儒教を重んじ可成り学問に造形の深い将軍であったことから朝廷を重んじていたこと、その大切なもてなしの礼に朝廷側使節が挨拶に来たその日に刃傷沙汰を起した浅野内匠頭に激高したことも関係していよう。
     元禄期に於ける庶民の鬱憤については元禄金貨、銀貨改鋳によって質の落ちた元禄金銀貨に悪影響を受けた町民の実生活と改鋳前の高品質の金銀貨が富裕層に集中されることで富む者は益々豊かになるという構造が見て取れる。当に現代日本の経済的混乱に似た状況に拍車を掛けたことも手伝って不評であった。更に生類憐みの令を出したことで、ヒト以外の生き物の方が人間より大事にされるといった人々の見方が反感を煽った側面もあろう。今作で、吉良が江戸庶民の噂に対する見解を述べる台詞にある「江戸幕府が成立して百年、(将軍は犬公方と呼ばれた綱吉の時代)ヒトの命は異様に軽く、物価高に庶民は喘ぎ鬱憤は溜まりに溜まって爆発寸前、また太平の世が続き武士は本分を忘れ世の中の箍は緩んだままだ。そんな庶民の鬱憤を晴らすには最早絶滅仕掛けた忠義や義憤に駆られ、本質的には幕藩体制そのものに弓を引く赤穂浪士達の仇討ちは鬱憤晴らしの特効薬としての効果がある」という意味のことを言っていた。吉良の頭の良さ、本質を見抜く眼力を観ておくべきだろう。吉良がそこまで冷静に世の中を観ていたとすると、事実は吉良と浅野の意趣返しという話ではなく余りにも複雑化した料理。饗応の作法や手順、饗応に必要な食材や食べ合わせ、包丁に対する知識や産地に関する知識、調理人に対する対応等々枚挙に暇がないこともあったのかもしれぬ。実際刃傷沙汰を起すに至る前、本来共同で当たるべき準備期間中の25日間に亘り吉良は朝廷方の用で浅野と共に準備に関わることができなかった事実もある。今作終盤で語られる如く、実際に何があったのかは不明であるが。ところで吉良邸絵図が浪士の手に渡った経緯で犯人が分かった時の上野介の高笑いからの、若者たちに対する対応も今作の肝の一つ。心に留めておきたい。
     さて、そろそろ今作を拝見した感想を述べておこう。拝見したのは初日、11月1日19時の回である。
     知り合いが何人も殺されるかも知れない、という不安に苛まれ自分は長らく封印してきた修羅を再活性化する寸前であった。殺される可能性のある知人は大人だけではない。子供もだ。シオニストが喧伝に用いるホロコーストに匹敵する事態に直面してのことだ。
     だが、今作を観終わった時、感じたのは何とも言えぬ哀しさ、寂しさであった。浪士たちが吉良邸を襲った有様が、攻め手受け手双方の模様と共に具体的な戦い方、負った手傷の詳細、氏名と共に篠本氏、観世さんの語りで紡がれてゆく。そのリアリティーが心の内側から立ち上って来た為だ。これだけの深さを味あわせてくれ、更なる思考の深化を促してくれたのは、出演した役者陣の鍛錬の賜物、練りに練られた上演台本の素晴らしさと理性的で格調高い語り、生演奏の素晴らしさ、裏方さんの対応の良さ等今作に関わった総ての人々のお陰である。心から良い作品・対応に対する礼を述べたい。

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    2023/11/02 13:27

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  • 皆さま
    ハンダラです。大変遅くなり申し訳ありません。追記終わり迄アップしました。ご笑覧ください。

    2023/11/03 12:14

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