『幸せな時間』『心のかけら』『君へ』 公演情報 T1project「『幸せな時間』『心のかけら』『君へ』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     華5つ☆、今年になって拝見した総ての舞台公演のうち間違いなくベスト3に入る。極めて深く、示唆的で己の存在について考えさせる作品。必見! 観たいで3作品の尺を約2時間としていたが、今作135分、休憩無し。(追記2023.9.16)

    ネタバレBOX

     物語は某劇場の楽屋で展開する。明転すると1人の人物が客席側に若干斜めに置かれた椅子に腰かけている体で登場する。そこへ初老の男が入ってくる。腰かけていた男は、初老の男が入ってくると何やら語りだすが初老の男には聞こえない模様。初老の男は荷物から様々な物を取り出し、テーブルの上に一つ一つキチンと並べて置く。中に小さな額に収めた写真があるが、男はこれに合掌。この時点でファーストシーンで椅子に座っており、その後立ち上がって何やら壮大で哲学的な話をしていたこの男が実は死者で、その霊が具現化しているのだということが観客にもハッキリ認識される仕組みだ。初老の男は霊が語っている間に楽屋隅に置かれたハンガーに上着をキチンと掛け、元居た席に戻る。
     このオープニングで極めて上手いのがこの初老の男と霊が実は漫才のコンビであったこと。相方は未だ若いうちに亡くなっていること。だが初老の男は未だその「相方と共に」舞台に立つようなタイプの芸人であることなど、今作の最も本質的な部分をオープニングの僅か数分でキチンと描き、この老芸人の類稀な律儀と人としての偉大さを示していることである。主演を演じた針生楊志夫さんの演技も素晴らしい。
     他にも無論魅力的なキャラクターが何人も登場するが、この相方を失くした初老の芸人の師匠夫妻が、未だ師匠も決まらない主人公たちと出会う場面に登場する漫才夫婦(師匠の師匠夫妻)のキャラ設定が素晴らしい。先々代の師匠は如何にも浪速の芸人らしく、東京に強い対抗意識を持つことが自然に、しかも実にそれらしく描かれ、演じられているからであるが、女房にだけは弱い。このお二人の演技も実に素晴らしい。五十嵐勝行さんと星合庸子さんである。
     このように物語は幾つもの時代を駆け巡り乍ら展開してゆく構造であるから、長い一人っ切りの漫談を最愛の妻の死に目にも会わず、高座に立とうとする芸人魂の凄まじさを一本通して表現する者の、人々に愉しみや慰め、ひと時の癒しや気分転換を図る者達の心構えをさりげなく訴える。

    0

    2023/09/08 12:25

    0

    3

このページのQRコードです。

拡大