ストレイト・ライン・クレイジー 公演情報 燐光群「ストレイト・ライン・クレイジー」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     日時によって星組、花組Wキャスト上演である、どの役を誰が演ずるかテイストの違いを楽しむこともできる。(花組を拝見)
    2部構成、休憩なしの2時間25分程。一瞬たりとも目が離せない。

    ネタバレBOX

     今作は燐光群が演じるデイヴィッド・ヘア第5作目の作品であるが、1929の世界大恐慌に重なるような時代、1926年が起点だ。当時は未だ一般的ではなかった都市開発計画を立ち上げ現在のN.Y.で見られる都市景観の大本を作った実在の男・ロバート・モーゼスの前半生(マンハッタンから近く資産家が好環境の現地を好み多くの地域を私有化していた合衆国本土では最長最大の自然豊かな島・ロングアイランドを一般市民が通い使えるようにする為の開発、海浜公園&公園へ通じるノーザン・ステート・パークウェイやサザン・ステート・パークウェイ建設等)を前半第1部で、
    29年後の1955年代に入り世の多くの人々の意識やジェンダー感覚が大きく変わるとワシントン・スクエア・パークに高速道路を通そうとするモーゼスの計画はビレッジ住人の市民運動と対立、激しく批判されるようになって以降を第2部で。ヴァイタリティーと信念を持ち実践したさしもの男は、変転することこそ唯一の自然な世界の姿であることに置いてきぼりを喰らいつつ尚一種のアメリカ流ダンディズムを貫こうとした。そして彼をその事業の開始からサポートし仕事で無理をした結果障碍者となった現在も未だ現役の男性社員の覚めた意識に出会い、秘書を務め続けた女性社員の「辞めます」宣言迄叩きつけられたモーゼス、また仕事一途な余り妻をアルコールに走らせ剰え暖かい言葉一つ掛けてやったわけではなかった鈍感が遂には妻の精神を破壊、精神科病棟で薬漬けの生活を送っていることへの遅過ぎた気付きなどの経緯を描いて、仕事最優先で成功を収めた男のそれ以外の価値観や柔らかくしなやかな感性に対する鈍感や差別意識がそれらに無意識であることから生まれるが故に鈍感差別者自身に気付かれ難く更に仮に気付いたにしても為す術を知らぬことによって鈍感・差別を永続化してしまう状況が描かれる。現在の人権意識から観ればこれは余りに特異な事象にも見えよう。だがモーゼスは決して卑怯者でもなければ非紳士的な訳でもない。単に現在の我々から観て具体的に街の活動家の抗議の背景にあったもろもろの価値観や本源的に彼ら彼女らに湧き上がってくるパッションの根っこ、妻の現状を一人の人間としてケアできるだけのヒトとしての常識を欠いているように思われるに過ぎまい。また、白人内でもカソリック系やアイリッシュ、イタリア系などに対する差別があったとはいえ、ネイティブアメリカン、黒人、プエルトリカン、イエロー、中南米諸国民に対する人権蔑視に比べれば遥かにマシなものであったから、モーゼス自身も市民活動家、女性や有色人種に対する根源的な差別・蔑視が克服されていた訳ではなさそうである。こういった偏見をベーシックなレベルで持っていたことこそ、彼が遂には孤独に追い込まれた原因であろう。それにしてもラストに集約された彼の纏う侘しさは堪らない。
     一方、このがむしゃらな個性は、アメリカが生み出した一つのキャラクターでもあるように思われる。ヨーロッパ、殊にフランス等の現在にも残る優れた思想家、科学者、芸術家等は基本的に命懸けで己の思想や論理を実現し現在に迄伝えた者が多い。アメリカの場合は、それが個々人の破天荒な行為と性格をベースにした一種のフロンティアスピリットとして顕現するケースが多かったように思われる

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    2023/07/20 18:55

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