マッドパーティーシーンが繰り返し出てくるのは、原作でも頗る有名なシーンであり、また“時間”こそが、今作の隠れたテーマであるからだろう。因みに時間と帽子屋の仲が、こじれたのは彼が別のティ-パーティーで調子っぱずれに歌を歌ったことが原因だった。英語の原文では調子っぱずれに歌うことを“murder the time”と言うから、これを聞いた時間が怒ってしまった訳だ。 原作でマッドパーティーに参加しているのは帽子屋、三月ウサギ、眠りネズミ(ヤマネ)の3者だが、帽子屋がこのパーティーに参加しているのは、往時帽子の素材・フェルトの加工に水銀を用いた為、水銀中毒症を起こした者が多かったのが人口に膾炙していた為。3月ウサギは、春先の交尾期を迎えた♂のウサギが狂ったようになる為、眠りネズミは夜行性だから、この時間帯は未だ寝ている。(この節のあれこれと上段の一部は、桑原茂夫著の「アリスのティーパーティー」という河出文庫の記述をベースにしている、面白い本だから、こちらもお勧め。但し絶版になっていた時、文庫本だが1万円以上していた)因みに英国のティーパーティーの開催時刻は18時頃(この時間帯だと眠りネズミの体内時計も微妙な気がするが)で基本的には家族が集まっての食事会だが、時に友人・知人が参加してのパーティーとなることもある。何れにせよ、時間とうまくいっていない帽子屋たちが主催しているパーティー、時間という極め付けの謎の1つを滑り込ませるにはうってつけのシチュエイションであると同時に、生きとし生けるもの総てにとって関わり、現在もその正体がハッキリせぬ謎を、生と死双方について思いを馳せるヒトという生き物である我々が納得できる解の1つとして今作はキチンと提示してみせた。この点は見事である。