令和5年の廃刀令 公演情報 Aga-risk Entertainment「令和5年の廃刀令」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    テーマ設定、問題提起の手法、劇場(会場)設定および運営、劇作術等において総合的にエンタメとして高く評価できる作品である。

    ネタバレBOX

    討論劇は演劇史上最も古い形式の一つと言え、したがってその内容と展開には目新しさが要求される。本作は「令和の時代に帯刀があったら」というIF設定がユーモラスであり、同時にそれが現代社会を鋭く反映、批評するものであったという点において、発想力と洞察力の高さが伺える。

    制作・運営の手捌きは流石と唸るものがあった。世界観を崩さないよう設定に忠実であったスタッフの存在感、滞りなく投票システムが稼働するように動いていたのも見事だった。この投票システムはやはりエンタメとして面白かったし、演劇作品および政治活動への「参加」の重要性・責任を感じさせるものとなっていたが、それによって変化を付けた結末に大きく差がないのがやや気になった(もちろん劇作上やむを得ないことではあるのでないものねだりに近いとは自覚しているが)。

    また、登壇者とそれを演じる俳優のバリエーションも楽しかった。恐らく実際にこのような場になったら呼ばれるだろうと思われるような人物(例えば元議員・上林美貴や「るろうに先生」と名乗る元刀剣傷害事件の加害者・吉光裕之など)から、恐らく行政はこのような人物を呼ばないのではと思われる人物(鎖鎌を推奨するYouTuber・高橋俊輔など)まで幅広い。彼らの主張は当然予想されるものから、鋭いもの、さらには突拍子もないものまで多様であり、それらが並置されているという意味で昨今のSNSやメディア上での議論を連想させた。俳優たちの演技は、その立場の「代表」という意味でも「再現」という意味でもrepresentationとして優れており、ややステレオタイプ的ではあるものの好感を持てる人物が多かった。

    他方で、社会問題を取り上げるものとしてはより掘り下げるべきだった点がいくつかあったのはもったいなかった。例えば、必然的に観客の多くはアメリカにおける銃の所持についての議論を連想すると推測されるが、そこで展開されているような議論(例えば犯罪率の高さや自衛の権利、企業と行政の癒着、自由についての議論など)はあまり出ていない。
    もちろん、社会問題に対する議論への鋭い指摘も散見される。例えば、司会であるはずの宮入智子が自らの立場を捨て、当事者として被害を訴えた際に、小説家・広木由一が「当事者の言葉が非当事者よりも優位にあるわけではない」という指摘は、昨今白熱しがちなメディアでの議論に必要な冷や水であろう。ただ、エンタメ性に全体が従事しているために、もう少し踏み込むべきだった点もあっただろうと思われる。

    総括すると、ユーモアとシリアスが織り込まれた優れたエンタメ作品であり高い満足度を得ることができたと言える。社会派エンタメとしては、より現実社会を反映させるスリリングさが求められるだろう。

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    2023/06/07 06:10

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