あたらしい朝 公演情報 うさぎストライプ「あたらしい朝」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    演劇的仕掛けとユーモアがふんだんに織り込まれた愛すべき作品である。劇作家、演出、俳優、美術等において総合的にその技術が高く評価できる。

    ネタバレBOX

    元ネタとなっているのは上方落語『地獄八景亡者戯』である。その残された妻の側を中心とし、彼女の複数の旅が重なって描かれている。俳優の演技力が高く、情景描写に長けているために観客も共に彼女の記憶/体験の旅に出ることができる。本作はコロナ禍に描かれたということもあり、好感が持てた。

    何より本作で優れていたのは、戯曲における記憶/体験/想像のレイヤーの織り重ね方である。いないはずの夫・龍之介とユリのドライブからヒッチハイカー・山本ユカリをピックアップしてそのまま行ってしまう旅行、龍之介とユリの新婚旅行、ユリと母親の旅行が複層的・連続的に描かれると同時に、そこに龍之介の死者の旅路や彼の葬儀のシーン、死んだ母親との会話などが挟まれる。それらは想像/現実の区別が明瞭に付けられないまま、他の次元に緩やかに干渉しており、付かず離れずの距離感が心地よい。

    死を描く際の軽やかさに対しても好感を持った。バランスよく散らばったコミカルなシーンのせいもあり、全体を通じてノリの軽さが特徴となっているが、それとの対比により、既に死んでいる母親と夫に対するユリの寂寞とした思いが伝わってくる。重苦しくならないからこそ、それが一層切なくもあった。

    シンプルだが具体的な舞台美術・小道具と演技によって、描かれる旅は観客の想像力をともなったリアルなものとして劇場に立ち上がっていた。他のメディアではできない、演劇ならではの魅力が発揮されていたと言えるだろう。

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    2023/06/07 04:54

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