糸地獄 公演情報 劇団うつり座「糸地獄」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     初日を拝見。旗揚げにしてこの完成度。観るべし! さて、今公演も14日マチネで楽であるから、物語のキーワードを1つだけ挙げておく。以下追記
     三月桜亡きあと、新入りが1人入った。新入りは他の11人とは異なり、無戸籍ではない。
     あと1つとても大切な点があるが、それが何であるかは観てのお楽しみ。観て何であるかをご自分で考えてみて欲しい。自分は14日、研究会があるので研究会終了後の14日夜遅くかその翌日頃種明かしをするつもりである。

    ネタバレBOX

     岸田 理生作1984年初演の今作、時代設定は1939年、所は、表(昼)は「女工哀史」に代表される製糸工場の世界、裏(夜)は吉原などに代表される娼婦の世界に変貌する糸屋。この2つの世界を綯交ぜた世界が失った記憶を徐々に取り戻すヒロイン・繭を通して描かれる。岸田理生の描く世界は今流に言えばジェンダーギャップということになるかも知れぬ。今作はその中でも殊に男社会で生きる女の被差別状況を、最も彼女らしい言葉の魔術と土俗的で猥雑で暴力的とすら言える言の葉と演劇という表現形態で象徴的に示した作品ということができよう。劇団の旗揚げに相応しい極めて内容の濃い、文学として最も本質的な問題提起という使命を果たし続けている作品と言える。台詞は原作に忠実である。演出・舞台美術を篠本 賢一氏、演出助手に渡会 りえさん。登場する役者は18名。舞台美術のセンスが抜群である。観た瞬間、自分は江戸時代の歌舞伎小屋がベースになっているのではないか? と感じた。というのも篠本氏は能を長くやってきた人物であり、歌舞伎にも詳しいことを知っているからでもある。全体の構造が、能の橋掛かりや歌舞伎の花道のような印象を与える大きな掘り炬燵の四囲を囲むかのように設えられた構造に囲まれているばかりではなく、その手前観客席側には明らかに桟敷席を思わせる構造が拵えてあったからである。大きな掘り炬燵のような一段低いエリアは、女工や娼婦たちの抱える地獄を象徴し一段高い地獄を囲む周囲は、地獄を世間と永久に隔てる壁を象徴しているのは無論であろう。而も世間とこの地獄を繋ぐのは、四囲を囲む構造の随所に天井から下げられた紅い糸と風、個的レベルでは繭の持つ瘤だらけの結縄。「現実」とやらを重んじている振りをする世間の価値観からすれば取るに足りぬ象徴に過ぎない。然し、これら総てが男社会の中で生きる女性たちの苦悩を、差別の何たるかを伝え、男社会を前提とし延々と続くこの国の社会体制の中の母と娘の系譜をも炙り出してゆくとしたら? この象徴の意味する所は極めて大きく本質的だと言わねばなるまい。何となれば、生物学的に性差を持つ生き物の生物としてのプロトタイプは♀だからであり、つい最近発見された京大等も関わった国際的研究でジェンダーギャップの大きい社会程大脳皮質の厚みが女性で薄くなるという結果が出ている。興味深いのは、ジェンダーギャップの無い社会では女性の方が大脳皮質の厚みが大きくなるという報告も出ていることだ。自分個人の想像では、脳の個体差では女性の脳の方が男の脳より優秀であることに気付いた男達が、力では女性に勝る男の特性を用いて女性を支配する社会体制を築き、維持してきたのではないか? ということである。Covid-19に対する矛盾だらけの施策もこの国の政治が科学的・合理的な判断に従うことのできない愚か者が社会を仕切っていることの証左だということができよう。
     ところで板上の小道具でとりわけ大きな意味を為すのが糸車であることは容易に納得できよう。ホリゾントやや上手の壁には満月型や四角に場面によって変わる赤い布が見え、四囲の壁を構成する一段高い構造は、繭の通る様々な意味を持つ(記憶を辿る、糸屋へ通じる、或いは系譜を辿るなど)道にもなる。また照明の加減で赤と闇が殆ど見分けのつかない状態になるシーンもある。これなどは所謂忍び(忍者)が新月の晩に用いた忍び装束が赤であったこととも符合する。(白・黒・グレイは明暗の度合いであるから新月の晩のように暗い夜は、明度の差で見分けがつき、隠れることが困難になる。それを避ける為、闇に溶け込む赤装束が用いられたのである)
     役者陣の演技も旗揚げとしては上出来。スタニスラフスキー演劇が目指す最高レベルの演技、役者の身体から滲み出すようなレベル(そんなレベルの役者は、日本全体で手の指の数程も居ないのではないか)には、まだまだ時間と鍛錬も掛かるにせよ、褒めて良いレベルに達しているのは、日本の劇団の稽古日数としては極めて長い5か月に渡って稽古してきた結果であるのは明らかだ。今後も楽しみな劇団である。

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    2023/05/12 09:20

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  • 皆さま
    いよいよ、楽。駆け抜けて下さい。
                ハンダラ 拝

    2023/05/14 01:28

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