ビヂテリアン大祭 公演情報 ピーチャム・カンパニー「ビヂテリアン大祭」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    力作でした
    宮沢賢治の小説「ビヂテリアン大祭」を戯曲に書き起こした作品。演劇にかかわる前は小説家志望だったと言う清末浩平らしく、当日会場で配布された「ビヂテリアン大祭報告会」のパンフレットも凝りに凝ったもので、もっともらしい嘘がたくさん書いてあり(笑)、観客を虚構の世界に引き込んでいく。
    主宰で演出担当の川口典成のブログによれば、脚色者と演出家が相当綿密な打ち合わせのもとに作り上げた作品らしく、このクラシックスシリーズの中では、一番の力作ではないだろうか。
    この経験を生かし、秋のオリジナル作品もすばらしいものとなることを期待している。

    ネタバレBOX

    立場の異なる者同士のディベートというよりプレゼンの場といった印象の芝居。宣伝文句の「抱腹絶倒の演説バトル!」とまではいかないこの劇団らしいまじめな内容だと思った。青年団の芝居のように、会場に入ってきた参加者が開始前の挨拶を交わすなど自然な始まり方。キャスティングがとても良い。宮沢賢三役の羽田真の主賓あいさつがいかにも講演者らしい口調で、ニュウファウンドランド島で開催された文化部門発表会場の様子を淡々と語る場面は会場の様子が目に浮かぶようだった。賢三は挨拶を原稿に下書きしてきたのだが、読んでいる途中で執筆中の「銀河鉄道の夜」(?笑)の原稿が混じってしまい慌てるところが可笑しかった。
    黄色いマフラーのいかにもうさんくさい雰囲気の大林市蔵(八重柏泰士)のマッシュルームカットの髪型にもふき出した。
    司会の料理研究家・多和田敏江(古市海見子)のハイトーンの気取ったしゃべりかたも、よく、女子大の講演会の司会の教員などに見受けられるタイプで面白い。
    キザで二枚目の大学教授・フランシス浅田(尾崎宇内)が黒板の「ビヂテリアン大祭報告会」の字を手で消して持論を述べ始めるところ、大林の動揺ぶりがおかしい。
    「肉食の是非」をめぐって「フランドン農学校の豚」の劇中劇が行われる手法もよかった。劇が始まる前、多和田が70年代の金井克子の「他人の関係」の音楽に乗って振りマネまでやるのは、清末の70年代音楽およびアングラ好みの名残なのだろうか(この歌知ってる人少ないと思うけど、笑えた)。
    暑い中、着ぐるみで豚に扮して熱演した羽田は本当に辛そうで、観ていて気の毒になってしまった。
    報告会に乱入した反対派たちが実は「新宿コメディ座」の役者たちだったというオチがつくが、岬マグ郎(堂下勝気)だの宇都宮餃子(宮嶋美子)だの、どこかアングラ劇団の香りがするのも清末らしい。
    宮嶋はユニークポイントの「シンクロナイズド・ガロア」でも好演していたが、ピーチャムとの肌合いもよさそうで、今後も客演の機会がありそうな予感。
    「報告会パンフレット」の投稿文に「チケットプレゼントで招待券が当たって新宿コメディ座の芝居を観に行ったが、大変面白く、今度はお金を払って観に行こうと思います」なんて意味の文章が載っていたが、これはCoRichのチケプレへのあてつけか?(笑)
    報告会が終わって「よだかの星」の一文の朗読が行われ、宮沢憲三の作家としての心情描写の場面があるが、劇団ブログを読むと、ここは清末の思い入れが強い場面らしい。
    いかにも文学好きな清末らしい場面だとは思ったが、個人的にはこの場面だけが浮いて感じられ、あまり感心できなかった。もちろん「よだかの星」は名作には違いないが、楽しい虚構は虚構として終わらせてほしかったし、宮沢の心情や苦悩を吐露するなら、もっとわかりやすい描き方にしてほしかった。
    式次第の紙が配られたが、その中にある「閉会の辞」がきちんと述べられなかったのも不満だ。この場面が「閉会の辞」の代わりなのかもしれないが、
    「報告会」は「報告会」として完結してほしいと思った。この部分が引っかかったので満点に近い満足度だったけれど、☆4つとさせていただきました。
    観劇の連れが「パンフの中のウイリアム・キーンは何者?」と最後までこだわっていた(笑)。ドナルド・キーンじゃないよね?連れの解説によれば、「理屈好きなフランシス浅田は清末さんがモデルだと思う」だと。なるほどね(笑)。

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    2010/05/10 18:24

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