コウセイ 公演情報 ラビット番長「コウセイ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     実話がもとになっているという。如何にも人を人として扱わないこの国の状況をよく映し出している。
      オープニング、自分ならもっと残虐な台詞を置く。とは思ったものの、そこは「ラビ番」の戯曲家・井保さんの温かいお人柄のよく出た冒頭である。当初予想していた通りタイトルに当てはまる表記は幾通りも在る。(追記2.26)

    ネタバレBOX

     もとになった事件は、今作を観て初めて知ったが岡田更生館事件と呼ばれる。今作で描かれているように収容者の1人(詩人)が脱走に成功(1949年2月)し、施設内の凄惨な実情を訴えた事がきっかけであった。凄いのは詩人の訴えを受け本当に毎日新聞社会部の記者2名が潜入取材を行ったことである。
     衆知の如く戦後の混乱期に於ける一般都市庶民の飢えは、食うや食わずの戦中よりも酷かった。というのも戦中は曲がりなりにも食料分配自体が配給制で庶民に行き渡っていたが、敗戦後のどさくさの中では弱者には行き渡らない。ハイパーインフレの影響で不法な闇市や買い出し で食料を調達しなければ飢えて死ぬのみであった。実際、法を順守して餓死した裁判官が実在した、という噂話は自分たちが小学生時代には何度も聞かされ“愚かな奴”と考えて居たことを思い出す。大人になって、本当にそんな裁判官が居たのであれば、その頃は未だこの「国」にも正義の観念は生きており実践した大人が居たのだと考えるに至ったが。
     By the way,サンフランシスコ講和条約がオペラハウスで結ばれたと同じ日、アメリカは旧安保条約調印式を、オペラハウスではなく米第6軍の下士官クラブで、吉田茂との間に上げた。この2つの条約の内、旧安保条約に現在の地位協定と実質は殆ど変わらない日米行政協定が含まれていたわけだ。アメリカは2つの条約発効(1952.4.28)によってポツダム宣言でもサンフランシスコ講和条約でも禁じられていた占領軍撤退を免れ、その真の目的を果たした。即ち日本はこの協定によって実質アメリカの植民地と化したのである。(詳細を知りたい方は、地位協定や行政協定について書かれた書物、資料を自分で渉るべし。上記の文章に若干矛盾があるように感じる方々は秘密協定もあるからと答えておく、調べてみなされ。)
     さて基の話・岡田更生館事件に戻ろう。当時は未だ、復員兵や引揚者、被災者、戦災孤児が溢れ浮浪者化していた。GHQはこの有様を問題視、解決するよう命令した。これを受け日本政府は浮浪者強制収容施設を全国62ケ所に設置、岡田更生館はそのうちの1つであった。
      実際、施設内で行われていた虐待、虐殺、死体遺棄、施設費等の横領は、今作に描かれた通りの凄まじいものであったようだ。また、今作で描かれている通り施設長の巧妙な施設実態隠蔽工作及び巧みな偽善的言辞によって、記者たちの命懸けの潜入取材によって実態が暴かれる迄は模範施設との評判を得ていたことも事実である。
     これらの隠蔽構造や詭弁は、現在の愚劣極まる政治とそれを許容している、臣民としか思えない事大主義者・日本人の大多数に呼応するが、この事大主義を支えているものこそそれを殆ど意識できていない日本人の差別意識の慣習化としての財産贈与の基本形・男子・長子相続を浮かび上がらせているのであろう。法的実態は美濃部達吉らが主張した天皇機関説に近かったかもしれないが、この形は大日本帝国憲法で天皇を唯一の主権者と規定し国民を臣民として差別化・人間として扱うというより単なる戦場の駒として扱う本質的非人間化をも意味している。そして非人間化されたヒトは最早人間では無くなっているから、奴隷としてアメリカに今も収奪され続けていることに痛痒を感じることも無い。それどころか、この事実を指摘されると悪あがきをするのである、滑稽なことだ。ということまで深読みしてしまった。
     一方、今作が如何にもラビ番の作品であるのは、棋士・増山の天衣無縫と温かさ(当然、某著名棋士を想像させる)とその妻・葉子{(将棋以外は何もできない夫をそれでも、見捨てず掌で遊ばせているような素敵な女性。而もそれができるのは、彼女が田畑を遺産として受け継いでいるからである)この相続の形が男子・長男でないことに着目したい}そして隣家の娘・帰って来るお兄ちゃんとの対局の為駒を動かす里子との関係、脱走した詩人が実は里子の兄を殺害していたという悲劇に、にーさんと(棋譜)が絡む諧謔。新聞記者4名の関係、配役の面白さ等々だ。
     コウセイにどのような漢字を当てるかは簡単だから幾通りも考えて欲しい。


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    2023/02/25 12:29

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    2

  • えざきかすみ さま
    ハンダラです。ちょっと分かりにくかったでしょぅ。
    わざと多くの日本人に分かりにくく書きました。事大主義を
    自分の頭で考えて越えて欲しいと考えてのことです。フランスの
    学者・エマニュエル・トッドはご存知ですか? ソ連崩壊を事前に予測し
    彼の予測通りソ連が崩壊したことで世界中の先進的インテリから注目されて以来、その後彼の指摘したことの多くも、後に歴史的現実となって、現在世界中のトップクラスのインテリから世界最高の知性という評価をされている知識人で、自分は30年ほど前から注目している人です。今回自分の指摘したことは、トッドの研究にも基礎を置いているのですが、そのことは敢えて秘して書きました。自分自身の意見でもあったからであり、あるからです。トッドの書いた論考に関しては藤原書店から多くの翻訳が出されていますのでよろしければお読みください。最近は色々な新書にも訳が出るようになりました。
    ご参考までに。
                                       机下

    2023/03/03 04:32

    ハンダラさん
    追記も読ませていただきました!
    今回も細部までご覧いただけて、感想もいただけて本当に感謝です!

    2023/03/02 15:33

    えざきかすみ さま
    ハンダラです、遅くなりましたが
    追記しました。ご笑覧下さい。
    皆々さまにもよろしく。
                机下

    2023/02/26 23:16

    ハンダラさん!
    ご観劇いただきありがとうございます!
    追記も楽しみにしています☺️

    2023/02/25 15:18

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