夕焼けとベル 公演情報 カムヰヤッセン「夕焼けとベル」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    終わりの先の広がり・・・
    初日ソワレを観劇

    劇場の使い方が功を奏して
    閉塞するエピソードがそれぞれに
    広がりを持って絡まっていきます。

    そして、物語が終わって
    さらにそこからひろがる時間の透明感に息を呑みました。

    ネタバレBOX

    劇場に入ってびっくり。
    舞台がドーーンとあって、
    3方の壁際に客席がへばりついている感じ。
    早めに劇場についたのですが、
    逆に席選びにすごく迷った。
    観終わった感じから言うと
    舞台上に立つポールの関係もあるので
    入って右手奥というか角あたりの座席がベストかなとも
    思います。

    客入れが終わらないうちに舞台には役者が現れ
    宗教的な儀式が始まる・・・。

    暗転後
    そこはとある島。
    冒頭から2人の子供と、
    それぞれのどこか閉塞した2つの家庭の雰囲気が描かれていきます。

    駐在さんの家と、土着宗教の教祖の家。
    積み重なるエピソードや回顧シーンから
    それぞれの家庭の裏側が次第に明らかになってくる。
    知的障害のある長女を持った駐在さんの妻のいらだち。
    あるいは、
    近親相姦によって子どもを産んだ宗教家の妻の苦悩・・・。
    大人たちの抱えるものが
    子どもたちすら周りから孤立させていく。

    だからといって、
    どちらの母親とも、
    抱えたものの行き場を見つけられるわけではなく、
    夫はそんな妻が抱えるものに
    何かをしたりできたりというわけでもなく
    日々、鳴らされる鐘の音を聞くのです。

    ところが、
    子が授からず家を出た宗教家の姉が
    テロリストとして爆破事件を起こし
    仲間とともに島に逃げ込んだことから派生して
    緩やかで息が詰まるような雰囲気が
    舞台全体を包み込むような緊張感へと変わっていきます。

    テロリストに弟を殺された女刑事、
    あるいは、前述の姉によって
    次第に変容した組織に従属したテロリストたちまで含めて、
    それぞれの背負うものが浮き彫りになっていく。

    宗教家の長女姉に人質にとられた駐在の妻と子どもたち、
    そして姉に銃を突きつけられた妹・・・。
    足につながれた鎖がいっぱいに伸びきったような
    行き場のなさから、
    追われて鎖が解けて、ふっと前に一歩踏み出して・・・。

    それは、キャラクターたちいずれにとっても
    ある時代の終わりなのだと思うのです。
    でも、時代が終っても
    時間は止まるわけではなく・・・・。、
    その終わりと、終わりを越えた始まりの時間からの感触が
    舞台にしっかりと描かれていく。

    追いつめられたテロリストの
    カレーを食べたいというエピソード。
    あるいは
    言葉の不自由な娘と
    普通に年頃の母娘の会話をする母の幻想・・・。
    さらには同じものを抱える妹として、
    罪を償った姉と話しをしたいという妹と
    囚われた場所で座り込んで
    その思いを受け止める姉。

    行き止まりの先にある
    普通の時間に
    すっと新しい色が生まれ
    道がひらけるような感覚がやってきて・・・。

    その感覚が
    きちんと描かれているから
    終盤、
    家の雰囲気が何か変わったという駐在の二女の言葉や、
    あるいは宗教家の息子が島を出るときの姿に
    素直に希望を感じることができるのです。
    よしんば、その先に新しい閉塞があったとしても、
    終わりを超えて船出する彼らの希望の瑞々しさに、
    観る側の心もゆっくりと満ちていく。

    過去に観たカムヰヤッセンの作品と比べると
    バッサリと断ち切るような切っ先の鋭さは多少薄れているのですが
    ゆっくりとやわらかく重さが積もっていく感覚が
    それにかわって、
    ちょっと別のテイストで観る側を浸潤していく・・・。
    北川作劇の間口がひとまわり広がったようにも思えて。

    役者たちの個性もしっかりと生きて
    従前の公演と多少質感はちがっても
    たくさんの感覚を抱えて劇場をあとにすることができました

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    2010/04/07 06:36

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