No Robot 公演情報 One Bill Bandit「No Robot」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     極めて面白い。追記2023.2.7午前1時。

    ネタバレBOX

     板上は、ホリゾントの手前に白っぽい長方形の箱を下手壁から上手中ほど迄伸ばし、箱の下面に階段になる程度の高さの平台を置き、ホリゾント側が袖となって基本的な出刷けはこの1か所、1回だけ客席通路が出捌けに用いられるもののメインはあくまで板上である。場面設定によってパソコンが対面で載った小さな机や付随する椅子等が配置される。
     脚本レヴェルで個々の登場人物のキャラが立ち、社会的諸関係の距離が適正である為、様々な擽りや歌舞く台詞・演技が醸し出す動態自体がモビールの動きのようなある種の必然性を持っている上、微妙な距離感を正確に表現させた演出、それに応えた演技もグー。
     ひとまず粗筋を記しておこう。工業用ロボット製造企業・月島ロボティクス企画室の高見は近く開催される業界のイベント、ジャパンロボットウィークの企画書を提出するよう命じられた。偶々真摯に考察した企画書に空きがあったので埋めるために冗談半分に出した企画が取締役に絶賛された。然しこの企画は、工業用ロボットの企画としては余りに斬新、広報するにも提案者である高見の意見は必要欠くべからざるものとされ、サポートを余儀なくされた。然し問題が2つ在った。1つは企画ロボットのユニークさ、作業する際に歩行すること。この歩行に関しては極めて精度の高い而も安定した歩行が求められる。人間がそのような歩行をするケースを考えてみるとそれは能の演者の歩行にあるのではないか? との結論に達した。そこで能の宗家(柊木家)を訪ね、その要諦を教示願うこととなった。ところで、人の動きはそれで教わることができるにせよ、ロボットの動作にそれを落とし込むことは機械工学との関係になるから、別問題だ。工業用ロボットが作業をする際に安定は絶対必要である。その安定を得る為には、生き物の骨格や筋肉、神経系の構造と相互関連、更に脳とどのように連動し、その結果どのように動くのかが解明されねばならない。それが解明された上で機械としてどのようにその自然の複雑な動きをバランスよく安定的に再現できるかが実現されねばならない。メインストリームは、このような技術的難題にチャレンジする月島ロボティクス社員と開発に協力する人々とのあれやこれやが描かれる。即ち600年以上の伝統継承の重さを背負い実際に生活する伝統芸能の能楽師(シテ)宗家の者らがロボット開発に絡んで生きることが、あらゆる生活空間に科学技術の影が宿る現代先進国の生業に力を注ぐこととどのように両立し得るのか? が、伝統継承順位1位の宗家長男・武義、工学や情報機器にも才と指向を持つ次男・文義、そして伝統的には能楽師になれない妹・千景のジェンダー問題迄孕んだ生活の算段にどう影響するかへの不安がある。第2にロボットの動きが自然で而も安定し作業に安全が保障できる所迄追求できればというロボティック社員の希を掛けて協力を乞うた生物の身体の専門家・犬神博士は、{文Ⅰ卒キャリア組の基礎研視の齎す壊滅的結果(毎年3万人以上の自殺者があった当時のポスドクの異常な迄の自殺率を参考までに上げると、ポスドクに限ってみれば日本の自殺率が最も高かった時期平均の十数倍であった。)無論、グローバリゼーションと軌を一にした基礎研究軽視によって日本の科学的知性の総力はガタ落ちし、頭脳流出も酷かったこと。そしてそれが現在も続いていることが一般の人々にも漸く見えてきたことであろう。}を正確に予知していたのは当然だ。多少本当のことを言うならば、時代の底で何がどのように起こってきたかを注視している者から見れば余りにもあからさまな政治屋や官僚の無定見は明らかだから、この辺りの事情が博士の台詞にアイロニーとして盛り込まれていると取れる。
     優れた喜劇は、一皮剥くと極めておどろおどろしい社会の欺瞞を暴くものだが、今作はこの「国」の内実を、その喜劇的本質に於いて鋭く批判していると観て良かろう。その手法が、サブストリームとして広報室のメンバーたちのキャラや演技に現れていると解した。例えば高見の同僚・奥寺に秋波を送り続ける広報室華岡の演技は単に恋愛行動というよりも歌舞く所作そのものである。このことが原因でべたべたした演技にならずドライなのに冷たさが無い。剰えその場の空気を換えるインパクトも持つのだ。更に沖縄出身の知念が天才的な洞察力を以てシチュエイションの細部を解き明かしたり、優しく人々をフォローするのも、ヤマトンチュー一般が沖縄に負わせ知らんぷりを決め込んでいることに対する正当な抗議と見做す方が良いかも知れぬ。犬神博士の教え子であった大河内も狂言回しとして上手く機能しているし、大学院修士課程の学生としては優秀だが、全く体力の無い大河内が憧れる元プロレスラー仲道との掛け合いは、もっと単純な笑いを誘うあっけらかんとした喜劇性を持ち、歌舞く台詞・演技とは異質な笑いや感興を齎し芝居に厚みを加えている。更に室長・宇田川のトンデモキャラは、この「国」の矛盾だらけで無責任極まる為政者及び支配層の象徴的カリカチュアとして観ることができる。と同時にこれだけの脚本を書き、演出もしている人物に対し、実際に演劇を上演する側の現実に有効で合理的な配慮である。観客にこのように見せることでこの国の「保守」を標榜する為政者の余りの愚かさとかつて河原者と蔑まれた演劇人の知恵や経験、思慮の深さ、真っ当な人間らしさを突き付け対比させ正面から見せた点も評価したい。
     全体の展開としては、中盤迄歌舞くシーンを多用して笑わせると同時にアップテンポで進められた舞台が、プロジェクトを中止せねばならぬかも知れないという状況になる辺りから深い人生哲学に裏打ちされたような場面に変わり一挙に収束してゆく。背景に流れるラップや音響と進展する物語の相性も素晴らしい。名場面も数多く楽しみつつ、心に残る作品に仕上がっている。

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    2023/02/06 07:18

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  • ハンダラ様

    ありがとうございます。こちらは20年千円でやってますから、お金に関してはあまり気にしておりませんので、大概の条件は大丈夫かなと思っております。
    劇場様の都合もあると思いますので、気長に気楽にお返事を待ちたいと思います。「実績が足りない」と言われたら納得せざるを得ない団体ですので。

    資料の送付など何かありましたら下記のメールアドレスにお願いいたします。
    ner@nichien.net

    この度はご来場いただきまして本当にありがとうございました。このような評価を受けただけて大変嬉しく思っております。

    2023/02/10 13:30

    木下さま
    了解しました。シアターXのトップは女性で、
    ポーランドから日本の文化勲章に当る勲章を
    授与されている方です。日本の文化勲章なら
    辞退したのではないか、と周りから取り沙汰される
    ような方ですが、一本筋の通った方で、自分は結構
    可愛がられているので話を持っていきます、具体的に
    何をどのようにするかについては上演させて貰う側と劇場各々の
    取り分のこともあるでしょうし、具体的に何時公演を打つかや
    シアターX主催となると千円になるので、それで良いか(役者さん含めて)
    等々、詰めなければならないことが多々あると思いますので、シアターX
    サイドからの条件等も出して貰った方が良いのかと思います、近い内に、
    トップに概略を伺って改めてご連絡差し上げます。
                          ハンダラ 拝

    2023/02/10 04:02

    ハンダラ様

    シアターXで上演する自分は全く想像つきませんが、年老いて「挑戦しなかったこと」を後悔するのも嫌なので、ご迷惑でなければ紹介をお願いいたします。

    2023/02/09 13:17

    木下さま
     そうですね、拝金主義というか、金に操られているというか。
    反骨は大変大事ですが、一方大変でしょう。
    両国にあるシアターXは、レパートリー公演と銘打って基本的に
    千円で上演するという流れも持っています。300ほど入る劇場なので
    よろしければトップをご紹介しますが、如何ですか?
                       ハンダラ 拝

    2023/02/08 11:13

    拝読いたしました。御来場頂いた上にここまで充実した感想をいただきありがとうございます。
    僭越ながら申し添えるなら「千円という値段設定」にもこの国に蔓延する拝金主義的傾向に対する痛烈な皮肉が込められている、のかもしれません(笑)

    2023/02/07 23:10

    皆さま
    遅くなりましたが,追記しておきました。
    ご笑覧下さい。
                 ハンダラ 拝

    2023/02/07 00:59

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