満足度★★★★
こちらとあちらの曖昧な境界
市田邸をぐるりと取り囲み、過去と現在と現実と非現実が緩やかに入り組んだ、人間の汚さ美しさ全てをひっくるめて昇華してゆく生命と介護の話。
座席から観える範囲は限られていたが、軒先、台所の音、二階の生活音、家一軒が丸ごと一つの舞台装置となりこの場所でしかなし得ない空気感を生み出していた。
内容も視覚も抽象というほどまではいかないが、独特のイメージ力が目立つ美術畑な匂いがし、演劇というよりも物語性の強いインスタレーションといった方がニュアンスが近いように思った。市田邸にふさわしいという以上に、上野という場所にふさわしいといえるかもしれない。
明瞭なストーリーや感情を追いたい人には向いていないかもしれないが、観ているうちにだんだんと一粒の滴が起こした波紋のように静かに心が揺れる。
まだまだ荒削りの部分も見えたが、見終わって「いいものを観た」とじんわり感じることができた。気分は☆4.5。
境界の曖昧性が高い内容に沿って境界の曖昧性が高い空間での観劇だったので、これから寒い日・雨の日・夜に行く方はちゃんと着込んで行った方がよいかと。