空蝉 公演情報 あやめ十八番「空蝉」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     タイトルの空蝉は、劇中の説明にもあるように、この世(この世に生きる人)を意味する。内容は古典落語の「死神」をベースにした作品であるから今作との異同を楽しみながら観ることができる。有名な落語だからバリエーションは様々あるものの、皆さん一度や二度聴いたことはあるだろう。ネタばれで今作と落語の違いをある程度してあるので、内容は観劇後にお読み頂く方が宜しかろう。

    ネタバレBOX


     さて、落語と異なり医者として活躍するのは江戸一番の藪医者の異名をとる新八の幼馴染・緒方卵白、そして主人公・新八の落胆の原因は、最愛の妻・お梶の早世にあった点だ。女房に先立たれるまでは粋で鯔背で良い仕事をする評判の魚屋であった点が異なる。物語はお梶が亡くなって半年、お梶の妹・お朱鷺が新八の世話を焼いている模様を中心に始まるが、あやめ十八番らしく町方の暮らしぶりを様々な商品の数々の売り子たちを登場させることで上手に描く。これらの売り手の声の良さ、粋な立ち居振る舞いや出立で買い手の人気が大きく異なったから売り手たちにも力が入る。業種によって売り手も若い女性から年増まで、若い男性から初老までと様々であった。また「死神」と卵白の関係についても若干異なる。藪医者として“掛かれば死ぬ”と揶揄される程であったから金は大して無いものの、死神は卵白に恋してしまうのだ。卵白は、仕事をしないので腐りかかった魚を食し具合を悪くした新八にお朱鷺の頼みで頓服を処方する。すると心肺停止状態になってしまった。長屋の皆が葬式の準備をしていると、いきなり死んだハズの新八が目覚めて起き上がった。どうしたはずみか、調合した頓服は、一旦死に陥るものの、或る時間が経つと蘇生するのだった。新八は一旦死後の世界に行ったので恋女房・お梶と会うことができた。何度でもあの世へ行きたい。
     新八の話では、行った所は地獄だったが針の山だの血の池地獄だの灼熱地獄等というものは一切なく鬼は全然、怖くない。というのも落語の天才であった写楽が亡くなって名跡は止め名となり(野球の永久欠番のようなもの)写楽も地獄へ落ちはしたが、元来止め名となる程の才能を持った天才。地獄へ落ちたがこの地で驚天動地の大活躍、べしゃりは立つ、人心掌握術、時代・時世・他人の心を読む知恵、政治的手腕何れも図抜けていたが故に僅か10年で閻魔に選ばれた。これらの民主改革・選挙制度等も彼が築いた模様である。退屈で静かな天国に比し、閻魔としての権力を得た写楽は死神を手駒に空蝉から有能な人材を調達、結果現在の地獄は謂わば超高級リゾート或はレジャーランドと謂った趣である。
     そんなに楽しい所ならと卵白はこの薬を“反魂丹” と名付け大々的に売り出す。此れが当たった、ツアーを組み地獄は今や観光名所。反魂胆を飲めば、地獄行きツアーが楽しめ、ちゃんと生き返れる。地獄での滞在時間は9時間。出入りを管轄する部署があり、ここで出入りの手続きをするが、出入りには、手形が用いられる。9時間を過ぎれば通行手形は唯の板切れに戻るので空蝉には戻れない。
     ここ迄の話だけなら、大した問題は無かったのだが。後は観てのお楽しみだ。どんな問題が起こってどうなるのか? 果たして下げは? 楽しめる。中入りに10分を取って2時間40分超。
     因みに舞台美術は中央に迫り出す階段を設え、第一の門構えは寺の門を思わせる作り。門柱には菖蒲イラスト。この門の奥に更に仏陀の載る蓮の萼のような形の構えをし奥が踊り場になっている高所、場面によって天井から額縁が降りているシーンもある。丁度この寺の門と萼の中間辺り上手下手に生演奏者の演奏スペースを支える床が見える。
     自分の好みから謂うと、ややエンタメとしてのの完成度を優先させて図式的という感はあるものの、これだけ無能で無責任な政治屋と官僚の下で、これだけ大きな規模の公演を打つ以上、致し方あるまい。楽迄無事に全公演打てることを祈るばかりだ。

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    2022/09/03 17:57

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