トロイ戦争は起こらない 公演情報 人間劇場「トロイ戦争は起こらない」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     ラスト「トロイの詩人は死んだ」云々でホメーロスの「イーリアス」を予言している点の何とも言えない痛烈は流石にジロドゥと言った所。

    ネタバレBOX

     板上は可成り特徴的な舞台美術で占められている。針金を用いて作られた門や、ハッキリ使用目的の分からない巨きな構築物、椅子の足の間に組まれた鋭角的で銀色に光る構造は、たくさんの刃物が、その、本来空洞であるべき空間を敵意で満たしているようであり、更に下手客席側にも殆ど無意味な針金の構築物、その上手客席側には上部円盤の縁に取り付けられた針金が廃墟の跡に吹く風に空しく回転するが如く物語の合間に回転する装置。板上の他の造作は基本的に平台を組み合わせて作られているが、これらの組み合わせ方は全体に不安定感を煽るように構成されている点も見逃せない。更に出捌けには通常の舞台ホリゾント方向の出捌けと共に客席通路が出捌け用に用いられ、トロイサイドとギリシャサイドをほぼ2分割している。
     原作はジロドゥが祖国フランスが第2次世界大戦に傾いてゆく1935年に、約3000年前に起こった‟トロイ戦争“をテーマに書いた戯曲である。誰も望まぬ戦争が何故起こって来、今もまた繰り返されるのか? との問いが今作の提起する問題であるが、原作者の苦渋とアイロニーに満ちた今作の白眉は、矢張り二場でギリシャ側の使者・オイアックスが登場して以降の展開であろう。無論、オイアックスは次に登場する真打・オデュセウスの前座に過ぎないが、この道化の奇抜な言動の効果なしにオデュセウスの言動の真価はここ迄効果的には描けなかったと観るべきであろう。戦争の門が閉じられるとその表には平和の象徴、オリーブの葉が鏤められている点だけを見ても、戦争の愚かさと狂気は誰の目にも明らかであり、殊にその真の姿を知る者は、誰一人として開戦を望まぬにも拘わらず、人は戦争をことある毎にし続けてきた。この愚行を齎すのみならず、更に悪いことには繰り返し続けることの馬鹿らしさを真正面から捉えようとした、これこそ本来的な不条理劇の傑作というべき作品であろう。
     さて、先に挙げた今作の白眉は、言う迄も無くヘクトール(作中ではフランス語発音はHを発音しないのでエクトール)とオデュセウスの戦争を回避する為の討議のシーンである。充分注力して今作の台詞の醍醐味を堪能して貰いたい。

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    2022/08/26 17:15

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