第15回 シアターΧ 国際舞台芸術祭2022(IDTF) 公演情報 シアターX(カイ)「第15回 シアターΧ 国際舞台芸術祭2022(IDTF)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★


     本日が2年に1度開催されてきたIDTFの最終日、クロージング・ガラである。今回のIDTFはシアターX創立30周年記念公演でもあったが、その幕である。演じられたのは予定の3演目+ヨネヤマママコさんの飛び入りパフォーマンス。

    ネタバレBOX


     頭を飾ったのはカナダから来日のジョスリーヌ・モンプティさん。タイトルは「MEMORIA」今作はジョスリーヌさんが今世紀初頭にカナダ及びイタリアで共演した舞踏家・高井富子さんの遺品である衣装を纏って踊られた。オープニングでは、この白い衣装を纏った彼女の後姿に長四角の照明が当たる。彼女はそのまま暫く全く動かない。極めて想像力を刺激するシーンで始まった。音響は静かめな曲でほの暗い空間に溶け込み、深い思索に引きずり込む。極めて繊細な動きと微妙な動きで体の向きを変えた彼女は衣装の前垂れの端を持ち、時に永遠や死と生の間を渡る風に載せた祈りの薄布に与える微動のように繊細極まる念動を表現する。静止は死を、微動は生がその念を死に伝え得る最小の動きとエネルギーを我ら観客に伝える。死と生の鬩ぎ合いが殆ど拮抗して力の頂点で顫えている状態を形象化し得た稀有な踊りであった。その余りの力量、抽象度の高さ、そして命の充溢に最高度の能表現に通じる表現域を感じた。
    直接的には高井富子さんへのレクイエムでありながら、同時に深く普遍的な生命観を表現した作品だ。つまり生きる事即ち時々刻々死ぬことであり、時々刻々死ぬこと即ち生命の再生であるという生命活動そのものへの深い洞察が表現されていた。
     次は仲野恵子さんの「魔羅ソンで届いた命」蝶を象った白っぽい衣装を纏い、背を客席に向けた状態で後頭部に艶やかな面を付けた踊り手が羽化したばかりの蝶の、外気に身体を初めて晒して起こす震えや戦きを微細な表現で示しながら板中央に座している。ホリゾント下手に登場した毛虫を象った衣装の仲野さんの踊りが開始される。毛虫の動きは活発で生命の躍動と伸長を押し出し、蝶の華麗な動きと対照的である。無論、この対称性にこそ仲野さんの主張が込められている。横溢する生命のヴァイタリティ―は他者を凌ごうと只管懸命であり、その懸命な有り様は時に可愛らしく、時に滑稽ですらあるが、生き抜こうとする命の叫ぶ姿は美しい。この毛虫のたゆまぬ動きと抑制された蝶の華麗な動きの対比も終わる時が来る。それは、美しく優雅な蝶がその翅を落とす時であり、成長した毛虫が羽化した蝶から子を産む母となり自らは瓦解してゆく姿、そして新たに誕生する命の姿が、元々の毛虫の色では無く新生の象徴としての白い衣装で表されている点に表象されている。

     次に飛び入りで登場なさったのは、ヨネヤマママコさん。何でもシアターXのチーフプロデューサー・上田美佐子さんとの約束を果たしにいらしたとのことで、4年前に大病を患って後、1度退院したものの再発して御闘病のみぎり、最近では認知症も発症なさったとのことで、書いていらした文章をお読みに成りながらご挨拶なさった。フォローについていらしたお弟子さん共々、彼女の掴んだテーマ、生命の輪廻、生命を支え育んできた水の生々流転の様を踊られた。コンセプト自体はお弟子さんの演ずる舞踏と変わらず、各表現の開始・終了のタイミングが若干ずれるだけの見事な生き様表現に心を打たれた。ママコさんの方が客席に近い下手で踊られたので上手後方で踊るお弟子さんの動作は全く見えていないから、コンセプトにずれが無かったのは一目瞭然。而もその踊りの品格と威厳の背景を為す生き様の見事さはひしひしと観る者を圧倒し流石に一流の踊り手と唸らせた。
     さてシンガリに控えしはダンサー・武井雷俊氏の「アマデウス」美しき魔笛の授業である。林正浩氏のピアノ、山本茉莉奈さんのフルート、歌唱はバリトン・大井哲也氏、テノール・寺尾貴裕氏。歌劇形式の実に楽しい催しものであった。板中央手前には切株に太陽や様々な文様をあしらったオブジェが数個、上手客席側に小机と椅子。机上にはインク壺や羽ペン、グラス等。グランドピアノは下手の板手前客席側との通路の一角に置かれ、その直ぐ上手にフルート奏者用の椅子と譜面台。無論フルート奏者は観客席側を向いて演奏している。
     設定は、魔笛作曲中のモーツアルトが2022年7月10日の上演時刻にウイーンから両国・シアターXにタイムスリップしてしまい其処に居合わせたミュージシャン、歌手らとコラボを始めるというものだが、設定の余りのあっけらかんに皆引き込まれてしまった。無論。各演者の実力は高く、武井氏の高い身体能力から繰り出されるスピーディーでハイテンション、高いジャンプ力の生み出す空中での妙技やしなやかな身体の機敏で誇張された滑稽味などが視覚的な面白さを上手に提示すると同時に、台詞の掛け合いの面白さが見事なバランスをみせて、楽しいといか言いようのない舞台を見せてくれた。
     終演後、恒例の三本締めの音頭を江戸伝統文化推進に尽力なさっていらっしゃる望月太左衛さんがとって第15回IDTFは幕を閉じた。

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    2022/07/11 15:08

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