静寂に火を灯す 公演情報 演劇プロデュース『螺旋階段』「静寂に火を灯す」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★


     マグカルシアターかながわネクストVOL.1として上演された今作は、螺旋階段の第31回公演である。因みにマグカルとは? 華4つ☆
     創作の秘密を1つだけ書いておくことにした。頑張っている劇団へのプレゼントである。

    ネタバレBOX

     リーフレット・「マグカルシアター2022」に拠れば演劇・ダンス・パフォーマンスの為の創造スペースであるスタジオHIKARI及びかながわアートホールで、芸術・文化の魅力を用いて人々を魅了し賑わいを作り出すことを目標にした神奈川県の取り組みだ。マグカルという単語はマグネットとカルチャーを結び付け短縮化した造語である。そのVOL.1に選ばれていることからも螺旋階段という劇団の実力を素直に認めて良かろう。
     さて本題に入ろう。
     板上真上から俯瞰すると台形のパネルの内側に総ての大道具が設えられており、現実の製菓会社の事務所及び応接室そのものといった精緻な作り。下手側壁にはカーテンを開け陽光が入るように設えた窓。その手前客席側に鉢植えの貸鉢。正面奥下手に書類棚、暖簾が下がった出捌けを挟んだ上手壁には額装された「夢」の文字、その上の壁には看板商品名である「海猫さぶれ」の文字。その文字の下辺りに本棚及び予定表ホワイトボード、更に上手に整理棚。なおこの整理棚の上には神棚が祭ってある。上手側壁には出入り口が設けられこちらがもう1カ所の出捌け。硝子部分には「みちのく製菓」の文字が読み取れる。
     また下手客席側には机、椅子が各4つ配置され、上手客席側には応接セットが設えられている。テーブル上には梱包されたさぶれや試食用に小籠に入ったさぶれも載せてある。芸の細かさは下手机の手前客席側に置かれた大き目の塵箱と下手入口手前客席側に置かれた小さなゴミ箱が不均等なそれでいてシンメトリカルな状態に置かれていることである。
     無論、このような小さな齟齬は敢えて作られている。何となれば、今作の中心テーマは、居ないようで居り、居るようで居ない存在に振り回される家族及び近しい人々の話であるからだ。
     かつて来日したロラン・バルトが指摘したように≪我が日本の本質は中心性の喪失にある≫とするなら、そしてこの劇団の真の狙いが其処を指し示すことにあるのだとしたら、恐るべき慧眼と謂わねばなるまい。
     By the way,拝見した限りでは、其処迄哲学的だとは思えなかった。深読みする者と押しなべて自己の感性・経験値から来る判断によって観る者の評価が別れよう。今回自分は、☆印によってその中間を自分の評価とした。
     無論、役者陣の演技はキャラが立ち各々の味を出しているし、照明・音響も気に入った。舞台美術の見事さは感心するばかりであった。だが、真に観客総てを虜にする為には息子の自殺とその原因の因果関係をもっとハッキリ見せる脚本にして欲しかった。
     またもし真のテーマが上に挙げたような中心性そのものを喪失した人々の悲喜劇そのものならば、それが我が国に齎している極めて大きな弊害を炙り出して欲しかった。即ち総てを曖昧化し責任の所在を無化するシステムをだ。折角みちのくを舞台にした作品なのだから。
     以下、長男の自殺について自分なら、こういったことを書く:とどの詰まり長男は、人として守るべき倫理を護った。然し結果的に犯人に怪我を負わせ、それが罪とされ、社会の中で自分の居場所を失くしてしまった。居場所を失くした以上、そして居場所を取り戻せなかった以上、死しかないではないか? 居場所を失くすことの意味とそれが理解されなかった不幸という形でなら、家族の問題として深めることができたであろうし、中心性の喪失という風に持ってゆくなら日本人の精神に深く、殆ど自覚されないマデニ深く染み込んだ天皇制に切り込めたハズだ。

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    2022/05/08 10:46

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  • 皆さま
     ハンダラです。少しだけ追記しました。ご参考までに。

    2022/05/11 22:36

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